著者
松尾 美里
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.26-56, 2013

<p>福島第一原発事故以来、さまざまな人々・組織が、さまざまな動機のもと大量の放射線測定データを採取・収集している。これらのデータは、科学的、医療的、歴史的な観点からして、極めて重要なデータであると言えるが、適切なアーカイブ化措置を欠くために、消失の危険にあるものも増えている。これをうけて、日本物理学会(JPS)と日本アーカイブズ学会(JSAS)は、国立国会図書館(NDL)の協力のもと、放射線測定データのアーカイブズ化を目指す試みに着手することとなった。しかし一方で、JSAS 内には、科学資料アーカイビングに精通したアーキビストが少ないという問題もある。小稿は、JSAS アーキビストが、上記試みに参画するきっかけの提供を意図して、科学資料アーカイビングに関する基本的な事項の紹介を行うものである。</p>
著者
木本 洋祐
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-50, 2012

<p>東日本大震災で被災・水損した陸前高田市の行政文書(公文書)の救済を支援するべく、神奈川県立公文書館は2011年10月から1年間、被災公文書レスキュー事業を展開した。緊急雇用基金からの予算を得てスタッフの雇用や資材の調達を行い、被災現地で初期対応が進む、永年保存文書を中心とした簿冊約1,200冊を神奈川県内の公文書館に移送して修復処置を施し、同市へ返却するものである。作業は、津波等で受けたダメージの状況確認や保存ニーズの把握から開始し、修復の目標を"行政実務の現場で「使える」文書としての機能回復"と設定した。重点的に実施すべき処置内容として①内容情報の保全、②長期保存を阻害する要因の除去・抑制、③利便性(利用・保管)の確保の3点を挙げて仕上がりのイメージを共有した。他機関等との連携を通して資料の保存修復を完成に近づける、一つの環を担う自覚を持って、限りあるリソース(人員、技術、時間等)の範囲で可能な段階的保存の実施を目指した。活動を通して出た課題についても触れる。</p>
著者
古賀 崇
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.96-101, 2013

「海外の日本図書館と日本研究」について幅広く実情を示しつつ、日本の関係者にとっての課題を論じた、2012年の著作に対する書評。評者は本書での記述・提言に「実感し、納得および首肯できる点は数多くある」と評価し、また「パブリック・ディプロマシー」など外交・情報・文化に関する政策につなげられる可能性を示唆した。加えて、アーカイブズやアーカイブズ学の観点からは、本書から何を読み取ることができるか、という点も記述した。
著者
冨善 一敏
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.52-69, 2014-05-31 (Released:2020-02-01)

本論文では、市制町村制下における村役場文書の引き継ぎについて検討し、東京府北多摩郡砂川村と、愛媛県東宇和郡魚成村の明治36年(1903)の引継目録の比較を行った。両者の共通点として、1)村長引継文書と収入役引継文書との区別が存在したこと、2)残存率は比較的高いが近世文書は少ないこと、相違点として、3)文書の保存年限制は砂川村では適用されなかったが、魚成村では適用されたこと、4)砂川村では引継目録の記載形式に村長交代が反映し、郡役所が強力な指導を行ったが、魚成村では郡役所の関与が少ないこと、5)砂川村では戸籍関係文書及び町村制施行以前の文書が引継目録に多数記載されているが、魚成村では少ないこと、の5点を指摘した。
著者
大石 三紗子
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.6-27, 2014-05-31 (Released:2020-02-01)

砂川村役場文書を作成した行政機関は、明治6年(1873)4月~番組(小区)会所、明治11年~戸長役場、明治22年~村役場、昭和29~38年(1954~63)に町役場と変化している。砂川町は、昭和38年5月1日に立川市と合併し、現在の東京都立川市が誕生した。本稿では、この砂川村役場文書の構造を、作成した組織の分析に基づいて考察し、町村制下の役場文書の特徴に言及する。現存する砂川村役場文書は、大半が町村制下の村役場で作成された文書である。町村制下の村役場は、村長などを含めて5~10人程の吏員が勤める程度であり、機構も分化されていない小規模な組織であった。このような組織で作成された文書を、事務内容によって分類すると、大半が郡役所とのやり取りによって発生した収受・発送文書であったことが判明した。この特徴は、町村制下の町村役場が、中央集権体制下における末端の機関として上意下達の文書を重視した結果である。