著者
金 甫榮
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.4-29, 2018-12-31 (Released:2020-02-01)

本稿では、民間組織における業務分析に基づく記録管理からアーカイブズ管理への一貫した流れを構築するための戦略や手法を、渋沢栄一記念財団の具体的な事例を通じて示し、その過程で浮き彫りになった課題や問題点について考察する。業務分析は、組織のコンテクストを理解したうえ、機能とプロセスの分析を通じて行う。記録は、そこから導き出された分類スキームにより制御・管理され、評価選別を経て、アーカイブズとして保存される。この過程では、組織のコンテクストを理解する必要性に加え、分析結果を実践へ応用する手法を紹介し、機能分析や、評価選別及びアクセス提供時に考慮すべき点を明らかにする。最後には、ISO15489を指標とし、この一連の過程を評価したうえ、課題と問題点についてさらに考察を深める。
著者
金 慶南
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.62-88, 2011-11-30 (Released:2020-02-01)

本稿において筆者は、かつての帝国と植民地にまたがって記録が不均衡に残存する構造を分析するために,日本と植民地朝鮮の山林資源分野の行政決裁システムと原本の保存構造について検討した。その結果、法令、予算、人事に関する決定権限は日本の内閣にあり、主要な事項はすべて天皇の決裁を受けたことが明らかになった。これに伴い、関連する主要な記録の原本は全て日本の国立公文書館に所蔵されることとなり、韓国の国家記録院に残されている山林資源関連記録の原本は、そのほとんどが施行に関連する記録であることを示す。すなわち、朝鮮総督府記録が日韓に不均衡な形で残存することになったのは、戦争、日本人の引揚げなどによる廃棄・散逸も大きな原因だが、より根本的な理由として帝国と植民地の決裁システムにあることを指摘する。
著者
薄井 達雄
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.31-46, 2019

<p>旧優生保護法下におけるいわゆる強制不妊手術については、当事者からの提訴などもあり、その補償問題が大きな社会問題になっている。そこで問題になったのが、当事者をどのように特定するのかという点である。本人同意の必要がない強制不妊手術は、都道府県に設置される優生保護審査会でその適否を決定することになっていたので、その関係資料が残されていれば特定は可能なはずである。しかし実際は、文書の保存期間が満了したなどの理由で廃棄されたため、残存率は低い。その事情は、筆者の勤務していた神奈川県立公文書館でも同様であるが、現在の公文書の選別基準に照らせば法定の審査会の会議記録は当然残すべきものであり、当時の文書管理が不十分であったことは否めない。</p><p>国公立の組織アーカイブズ機関は、様々な形で親機関から文書の移管を受けて歴史的に重要な公文書を保管、整理、提供しているが、それぞれ評価選別のルールを設け客観的で公正な選別ができるよう努力している。その本分に徹して、残すべきものは確実に残し、個人情報等真にやむを得ない情報以外は閲覧に供することで、過去の行政施策遂行状況の検証や今回の例のような被害者の救済の一助にもなるよう努めるべきと考える。</p><p></p>
著者
高岩 義信
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.11-29, 2010

<p>自然科学の研究記録のアーカイブズは研究者の社会への説明責任を担保するのに必要であるといわれるがその意味を論ずる。また研究記録をその生成される状況から考察しアーカイブズの観点からの特徴をみる。また研究記録のうち観測・実験データをアーカイブする場合の課題を論じ、それが研究における不正の追及でどのように機能するか事例によって考察する。</p>
著者
徐 有珍
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.4-22, 2015-06-30 (Released:2020-02-01)

本稿では、日本の都道府県における行政刊行物の収集・保存のあり方を明らかにするために、三重県を事例に挙げ、行政刊行物の管理体制の現状と課題を検討した。三重県では、公文書館機能を合わせ持つ三重県総合博物館の新設をきっかけとし、行政刊行物の管理体制の再整備が行われた。新しい行政刊行物の管理体制は、①三重県立図書館、議会図書室への送付を訓令に規定し、行政刊行物の提供を支援すること、②三重県総合博物館を最終保存機関として位置づけ、三重県が作成した行政刊行物が1点以上は必ず保存される体制を確立したことに特徴がある。今後、制度の実践への取組みと共に、諸管理機関間の連携を図るための具体的な協力方案の検討を行い、行政刊行物の管理体制の適切な運用及び継続的な改善を図ることが求められる。
著者
橋本 陽
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.4-22, 2015-12-31 (Released:2020-02-01)

本稿は、欧米の編成記述の手続きを欧米型整理論と呼称し、それと日本の方法論である段階的整理を比較し、両者の違いを明らかにすることを目的とする。まず段階的整理の原点を見直し、その発展はマイケル・クック氏の議論に大きく依拠していた事実を指摘する。次にクック氏の著書、アメリカ、フランス及びICAのマニュアルを検証し、欧米型整理論の詳細を示すとともに段階的整理との比較を行う。最後に、アーカイブズ学の基礎である出所と原秩序の尊重が当時の欧米のアーキビストにどのように認識されていたかについて1964年のICA大会の報告に依拠して振り返り、方法論の背景を探る。
著者
金 慶南
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.114-131, 2015-12-31 (Released:2020-02-01)

本稿の目的は、1910年から1952年まで、日本帝国の植民地支配とその戦後処理構造に対して、日本帝国と朝鮮植民地、GHQと占領地日本で行われた決裁構造と原本出所を明らかにすることで、記録史料学的な観点からアプローチすることにある。その結果、日本帝国政府と朝鮮総督府、GHQと従属的日本政府の上意下達式二重決裁構造によって、植民地支配と戦後処理に関する決裁原本はそれぞれ韓国、日本、アメリカ等に分散保存されることが明らかになった。これによって植民地支配とその処理問題を植民地時期・戦後を連続的に把握し、同時に、日本、朝鮮、米国という空間を総合的に考察することで、帝国と植民地・占領地記録をもっと構造的に再認識することが期待される。
著者
湯上 良
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.30-42, 2018-06-30 (Released:2020-02-01)

本稿の目的は、イタリア半島内の旧体制国家で作成された膨大な文書遺産をどのような人材の育成の仕組みと方法を通じて継承しようとしていたのか、明らかにすることである。特に文書管理の専門家であるアーキビストに求められる能力や選抜の方法、学校組織の変遷や教育、そして20世紀初頭の代表的なアーキビストを通じて、アーカイブズ理論の発展について明らかにする。元々、古文書読解を主とした目的として、各地に古文書学校が設立された。しかし、アーキビストの職務が専業化するにつれ、求められる能力も高度化し、資格を取得するための門戸も狭められていった。一方で、アーカイブズ学を幅広い視点から高度に理論化し、実践的な能力を養うため、大学にも講座が設けられた。