著者
矢野 正隆
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.92-115, 2014

<p>本稿は、近年盛んに議論されている「MLA 連携」「資料保存」を、メディアへの「共時的アクセス」「通時的アクセス」を保証する営みである、と読み替え、両者が密接な関係を有することを、東京大学経済学部資料室が収蔵する資料の例を踏まえて、示そうとするものである。その際、まず、メディアへのアクセスが様々な水準で行われること、そして、そのアクセスの在り方が、メディア自体の構造と機能によって規定されることを明らかにする。このように、各種メディアの特性を捉え直すことにより、博物館(M)、図書館(L)、文書館(A)という既存の枠組みを自明の前提としない、取り扱うメディアそのものを基盤に置いた、収蔵機関の在り方の可能性を提示する。</p>
著者
鈴江 英一
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.74-90, 2014

<p>近代日本国家にとって北海道は「辺境」「内国殖民地」であった。明治維新後、日本は支配を北海道の内陸にまで及ぼし、これを農耕地として占拠し、移民の流入を図った。同時にこの帝国は先住民族であるアイヌ民族を支配する。北海道を統治した官庁である開拓使及び北海道庁などの文書は、北海道での資源の獲得と分配の痕跡である。アーカイブズの世界は、こうして北海道の全面を覆っていく。それはアイヌ民族を含めて北海道に住む人びとがアーカイブズの世界に取り込まれていく過程でもあった。</p><p>北海道の官庁は、このような歴史のなかでアーカイブズを蓄積してきた。しかし、土地の払い下げなどによる開拓の発展が終わり、辺境性を喪失すると、アーカイブズは保存の意義が失われた。今日、北海道立文書館で保存しているアーカイブズ群は、新たに歴史的意義を認められることによって、廃棄、散逸の危機を免れ、収蔵されてきたものである。</p><p></p>
著者
冨善 一敏
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.52-69, 2014

<p>本論文では、市制町村制下における村役場文書の引き継ぎについて検討し、東京府北多摩郡砂川村と、愛媛県東宇和郡魚成村の明治36年(1903)の引継目録の比較を行った。両者の共通点として、1)村長引継文書と収入役引継文書との区別が存在したこと、2)残存率は比較的高いが近世文書は少ないこと、相違点として、3)文書の保存年限制は砂川村では適用されなかったが、魚成村では適用されたこと、4)砂川村では引継目録の記載形式に村長交代が反映し、郡役所が強力な指導を行ったが、魚成村では郡役所の関与が少ないこと、5)砂川村では戸籍関係文書及び町村制施行以前の文書が引継目録に多数記載されているが、魚成村では少ないこと、の5点を指摘した。</p>
著者
高江洲 昌哉
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.28-51, 2014

<p>本論は、明治期の砂川村役場文書の兵事文書(特に上級官庁からの収受を中心とする兵事関係の簿冊)を事例にし、目次無簿冊から目次有簿冊へ整理されていく変化を、日別綴から件別綴への変化として捉える構図を提示している。併せて、明治25年に準則が出されながらも、対外戦争による業務の拡大が簿冊の未整理をもたらしたように、簿冊が整理されていく過程を、アーカイブズ学的観点(簿冊の整理に関する技術的理解)と日本近代史的観点(明治中後期の所謂日清・日露戦争期に関する歴史学の問題関心)を連結させて考える視点で分析し、日清・日露戦争期という時代の特性の中で「簿冊の整理」を理解する枠組みを提示する内容になっている。</p>
著者
大石 三紗子
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.6-27, 2014

<p>砂川村役場文書を作成した行政機関は、明治6年(1873)4月~番組(小区)会所、明治11年~戸長役場、明治22年~村役場、昭和29~38年(1954~63)に町役場と変化している。砂川町は、昭和38年5月1日に立川市と合併し、現在の東京都立川市が誕生した。</p><p>本稿では、この砂川村役場文書の構造を、作成した組織の分析に基づいて考察し、町村制下の役場文書の特徴に言及する。現存する砂川村役場文書は、大半が町村制下の村役場で作成された文書である。町村制下の村役場は、村長などを含めて5~10人程の吏員が勤める程度であり、機構も分化されていない小規模な組織であった。このような組織で作成された文書を、事務内容によって分類すると、大半が郡役所とのやり取りによって発生した収受・発送文書であったことが判明した。この特徴は、町村制下の町村役場が、中央集権体制下における末端の機関として上意下達の文書を重視した結果である。</p>