著者
藪田 里美 山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
no.13, pp.53-67, 2013-02-15
被引用文献数
1

本研究では、地域参加型学習の推進にあたり、地域と学生とのコミュニケーションをデザインする立場に就くコーディネーターに求められる要素を明らかにした。研究対象は京都市中心部で展開された異世代交流のために大学が設置した「でまち家」を拠点とした協働的実践である。2年間にわたるアクションリサーチで、第一筆者が身を置いた場面をエスノグラフィーとして再詳述した。そして、第一筆者の内省から得られた教訓を、第二筆者が携えて現場に参入することで、人と人とを結ぶコーディネーターの行動規範を析出した。さらに、社会での学びを通じて自己形成を図る上では、変化の察知、偶発の担保、緊張感の保持、情熱の喚起の一群が重要であることを示した。また、こうした地域参加型学習の促進にあたって、プログラムを提供する運営側に立つ大学の教職員、また活動の主体となる学生たち、さらには活動対象となる地域の方々とのあいだで良い相互作用がいかに生まれるかにも注意を向けた。よって結論に示した素養群は、教育プログラムの担い手のみに準用されうるものではない。フィールドに積極的に介入し、実践家と研究者の間で価値の調整が伴うアクションリサーチの場面においても通底するものであるというインターローカリティーも提示する研究である。
著者
山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-57, 2009

自分探しという表現は、時に否定的な言説として用いられる。しかし、ありたい自分を探していくということは、根源的に否定されるべきものではない。そこで、本稿では、まず自分探しという概念とボランティア活動がどのように関連づけられてきたのかを、文献のレビューから明らかにした。具体的には、ボランティア活動における自分探しに対する否定的側面を2つ示した。1つは、個人の功利的な願望を達成するためだけに他者を巻き込み、結果として自己満足にとどまるために、現場の問題解決が導かれない場合である。もう1つは、日常生活も一つの現実であるにもかかわらず、非日常の世界に赴くことによって、見たことのない現実に触れることの心地よさに浸り、日常の風景から目が背いていく現実逃避が先行する場合である。その上で、本稿では、中華人民共和国の内蒙古自治区において、エコツアーと称して展開されてきている沙漠緑化プログラムにおいて、参加者とプログラム事務局ならびに現地の方々がどのような関係を構築しているのかを事例として取り扱った。とりわけ、現代を生きる若者たちが、自らを物語るときに、複数の自己、すなわち多元的自己を有していることに視点を当てていった。なお、事例は筆者のエスノグラフィーとして示され、緑化活動の成果に対する関係者間の相互顕彰が、よりよい未来を創造する「フィード・フォワード」の契機を生み出していることに着目した。最後に、日常の風景から逃避せず、自己満足に埋没することのないよう、先駆的なボランティア活動を展開していく上での活動現場と目常生活との関係について、「半返し縫い」モデルを提示した。その際、メタファーを使用して意味創出や意思決定を行う上での課題についても指摘した。
著者
河井 亨
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
no.12, pp.91-102, 2012-07-31

本研究では、京都大学高等教育研究開発推進センターと公益財団法人電通育英会が共同実施している全国調査『大学生のキャリア意識調査2010』の分析を通じて、ボランティア活動への参加によって学生の学習がどのように異なるのかを明らかにすることを目的とする。大学入学前後のボランティア活動への参加の有無から4グループを作成して分析1を行い、大学入学後のボランティア活動への参加の程度から3グループを作成して分析2を行う。分析1・2において、大学生活の過ごし方、充実感、知識・技能の習得、授業外実践コミュニティとラーニング・ブリッジング、そして2つのライフについて、各グループを検討する。まず分析1では、大学入学前後ともにボランティア活動に参加したことがある学生グループと大学入学前は参加していなかったが入学後に参加した学生グループが、学生の学習に関する検討項目で高い得点を示した。そして分析2では、より多くボランティア活動に参加していた学生グループが、学生の学習に関する検討項目で高い得点を示した。大学入学前後でのボランティア活動に参加し、かつ参加を継続することが、学生の学習に結びつくことが明らかになった。そして、より多く参加することが知識・技能の習得さらには領有につながることが明らかになった。こうした結果から、少なくとも、より多くかつ充実したボランティア活動の機会さらにはサービス・ラーニングの機会を学生に開いていくことが、今後の大学教育にとって重要であると考えることができる。
著者
松原 崇 佐藤 貴宣
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
no.11, pp.85-98, 2011-12-28

本研究の目的は、障害疑似体験の可能性について、新たな観点を提示することである。一般に、従来の障害疑似体験は車いすやアイマスクのような補装具や拘束具を用いて、健常者の身体上に障害者の身体状態を再現することで可能になると考えられてきた。しかし、こうした障害疑似体験に対しては障害学や障害当事者団体より批判的な見解が提出されてきた。本研究では、体験は人々の間のコミュニケーションを通じて協働的に構成されると考える社会構成主義の観点に依拠して考案したワークショップ『バリバリツアー』を事例として、新たな障害疑似体験の方向を提示した。すなわち、障害の疑似体験は、障害当事者に寄り示い、障害当事者と協働である事柄を障害(ディスアビリティ)として意味付ける過程に参加することによって可能になるとする障害協働体験を提案した。
著者
高野 尚子 渥美 公秀
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.97-119, 2008-02-29

本研究は、阪神・淡路大震災記念「人と防災未来センター」をフィールドに、公的な施設での語り部による阪神・淡路大震災の伝承について考察したものである。まず語り部の語りの内容を分類した所、A.自分や自分の周囲の人の被災体験話、B.自分の救援体験話、C.地震のメカニズム、地震予知、地形についての話の3種類に大別できた。また、聞き手に来館前後の「震災と聞いて思いつく言葉」のアンケート調査を行った所、来館前は「家」、「死者」、「大地震」などの、震災の破壊的な側面を表す語句が頻出語句として挙がったが、来館後には「人」、「ボランティア」など命ある人が多く挙げられた。さらに一番多い語りであるAタイプに焦点を当て、A1.防災に関する異体的な知恵を主張する話、A2.命の大切さ、助け合いの大切さを主張する話という二種類に細分類し、各々の語りに対する聞き手の感想を検討した。A1に対しては異体的な防災の知恵をなぞって覚えようとする様子が見られ、A2に対しては語り部の話を受け止める際にとまどいや懐疑が見られた。最後に、ワーチ(2002)の「習得」と「専有」という概念を援用し、現場を理論的に検討すると共に実践的な提言を試みた。
著者
児玉 香菜子 小長谷 有紀
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.5-18, 2008-02-29
被引用文献数
1

内モンゴルにおける植林活動を事例に、植林ボランティアの緑化思想を現地の人びとの認識と実践から相対化し、乾燥地における植林ボランティアの活動評価のあり方を考察する。相対化するにあたって現地の人びとに着目するのは、かれらがその風土のなかで培ってきたみずからの経験と価値観をもつからである。牧畜民と日本人の植林ボランティアの間には風土の違いにもとづく認識と経験の差がある。植林ボランティアはこの差を埋めることなく、みずからの緑化思想をそのまま乾燥地の中国内モンゴルにもちこんでいるといえる。そして、植林が「ボランティア」という形で実施されることによって、行為とその影響が無批判に是とされ、植林活動を評価する仕組みの欠如が許されている構造を指摘した。植林活動の評価には、事前に長期的な視点に立った自然環境と社会経済への影響を検討し、現地に暮らす人びとの視点からその必要性を検討することが肝要である。そのうえで、現地の人びとが培ってきた経験を活かす形で活動を立案することが求められる。ボランティア活動の事前評価の重要性は環境問題に限らず、開発援助、教育など、あらゆるボランティア活動においても通じるであろう。