著者
武田 千夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.500-510, 2020-01-01 (Released:2020-10-03)
参考文献数
41

スタールの小説『コリンヌもしくはイタリア』(Corinne ou de l’Italie, 1807)が今日欧米を中心に再評価される理由は何か.本論文ではこの小説に登場する神話的要素に着目しつつこの問いに答える.先行研究は主にコリンヌを「古代ローマのシュビラ」と結びつけて解釈するがそれはあくまでも女主人公のキャラクター構成に関するものであり,この神話的要素によってこの小説の現代性について読み取ることはできなことを指摘する.本論文はスタール自身が『ドイツについて』(De l’Allemagne, 1813)で分析の対象としたドイツ・オペラの『ラ・サアルのニンフ』をあらためて取り上げ,スタールが中世ドイツに由来する「ローレライ」を19世紀初頭に流行したこのドイツ・オペラの内容に準拠して近代的に解釈し自身の小説に取り入れた具体的経緯について明らかにする.その結果「コリンヌ 」は「特別な才能を持った女性の自由と結婚の間のジレンマ」という極めて近代的な内容を持つ神話の女主人公となり,今日ジェンダーの視点からこの小説が再び注目される直接的理由となった.
著者
武田 千夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.316-318, 2017

<p> スイスのローザンヌ大学のビアンカマリア・フォンタナ女史は,スタール夫人は政治思想家として,父親のジャック・ネッケルの世論の考え方をそのまま踏襲したと主張した.本報告では,両者の相違を重視する.スタール夫人はフランスの近世から発達したサロンの伝統を踏襲して,女性を世論の中心に添えた点で,財務大臣の立場を反映した父親の世論とは大きく異なる.</p>
著者
森 功次
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.457-473, 2020

<p> 2015年のVOCA展に,コンセプチュアル・アーティストの奥村雄樹が作品を提出しようとしたところ,事務局側から出品を拒否された.本論はこの出品拒否事件をめぐってなされた奥村と事務局とのやりとりを読み解きながら,芸術作品のカテゴリーと作者性との関係を考察する試みである.作品の作者はどのようにして特定されるのか,また,作品の見方によって作者が変わることはありうるのか.こうした問いに対して本論は,作者性をめぐる近年の分析美学の議論を援用しながら「意図」や「責任」という観点から答え,最終的に作者の芸術的達成や責任を限定する一つの原理を提案する.それはすなわち,作品制作に複数の者が関わっている場合,あるカテゴリーにおいて一方の者に芸術的達成の責任を認めつつ,同時に同一カテゴリーにおいて別の者のみに作者性を付与することはできない,という原理である.</p>
著者
鈴木 紀子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.82-96, 2018

<p> 本報告は,アメリカ人作家パール・バック(Pearl S. Buck)原作の短編小説,『大津波』(<i>The Big Wave</i>, 1948)と日米両国の戦後の関係を追究する研究の初期報告である.『大津波』は,1962年,日本とアメリカの合同製作により映画公開されている.ノーベル賞受賞作家で世界的知名度を誇るバックが日本を描いた作品として,その映画化は当時日米両国で話題となった.だが,残念ながら現在日本ではこの映画は視聴可能なフィルムが残っておらず,今や一部の人に「幻の映画」として知られるのみで,人々の記憶から消滅しようとしている.本稿は,筆者のアメリカでの調査を基に,この「幻の映画」の製作過程と内容に係る詳細を記録することを主眼とする.</p><p> 本研究の最終目的は,原作および映画,そしてテレビドラマとしての『大津波』の,第二次世界大戦後アメリカの対日民主化政策および冷戦文化外交政策との関係性を明らかにすることである.この作品は,戦後占領下日本およびドイツで民主化政策のための教育材料に選ばれていた.また,戦後1950年代終わりまで,アメリカではアジアを主題とする文学や映画などのアジア表象が多数創作され「冷戦期オリエンタリズム」を形成していたが,1956年にテレビドラマ化,そして1962年に映画公開されたこの『大津波』は,同時代アメリカの冷戦文化を形成する一役割を持っていたと考えられる.一方日本でも,この作品は津波が戦後の日本人にとって敗戦と占領の象徴となり,日本人読者に特殊な受容と解釈をもたらす.</p><p> このように,『大津波』は日本とアメリカの「戦後」に密接な関係性を持つと考えられる.本稿は,その研究の初期段階報告として,現在までに明らかとなった情報の記録と考察を行い,最後に今後の課題と研究の展望を示す.</p>
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.1-13, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
15

本稿では,スタジオジブリが製作した長編アニメーション作品『崖の上のポニョ』に関する構造分析を行った.本稿の検証によれば,当該作品は,裏返し構造により構成された2編の異郷訪問譚が接合した構造であることが確認できた.
著者
山名 章二
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.551-571, 2016 (Released:2016-11-30)
参考文献数
18

Eugene O’Neillが異例の長時間をかけ苦吟の末に完成した戯曲Days Without End (1934)は説得力を持つものにはならなかった. 本論は草稿類の検討により創作の推移を跡づけ, 戯曲の趣意を探る. その結果, 特に手子摺った結末が明らかにするのは, 中心人物の戯曲の虚構空間での課題が執筆した自伝的小説のモデルとした自らの不倫に行き着いた人生と, その小説に書き込んだ当の不倫の被害者である妻の死を望む底意との都合の良い妥協, もとどおり赦されかつ愛されて生き続ける日々の構築であることがわかる. そして, 伝記的には, それはそのままO’Neillの劇作家としての創作と実人生の妥協の模索, あるいはそのための迷走の実態でもある. 劇中で中心人物が書く小説の結末は, O’Neillが二人目の妻のAgnes Boultonを裏切り実現させた三人目の妻Carlotta Montereyとの日々を蝕む罪悪感の底にうごめくもの, すなわちAgnesの存在を抹消する願望が結晶したものである. さらに, 込み入ったことに, O’Neillの最深奥の真実でもあるこの罪悪感は, この戯曲の執筆中も赤裸な弾劾をやめない. その葛藤に取り組み書き換えるよう執拗に迫る創作衝動は, O’Neill好みの表現ならば“Something behind life”すなわち生の衝動そのものだ. この込み入った難題の打開策, 一個人としての究極の目的は, 弾劾を突きつける自らの内実を塗りつぶし, 創作による自己正当化の偽装以外になかったことが浮かび上がる. 同じくO’Neillの言葉ならば, 自らを“a whited sepulcher”「白く塗りたる墓」とすることである. かくて, もとより自伝色の濃い戯曲Days Without Endは, O’Neill深奥のカトリックの教えへの傾斜を踏まえた宗教色が強いものの, 回心, 自我からの解放あるいは人間理解の新しい段階を表現するなどとする従来の見方とは異なり,「書く人物」が書くことにより自らに関わる現実を操作しようとする企ての形象であり, The Iceman Comethで改めて取り組み, さらに自ら自伝と呼ぶLong Day’s Journey into Nightで続ける探求の先駆けとして捉えることができる.
著者
正村 俊之
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.1-20, 2020-01-01 (Released:2020-02-16)
参考文献数
37

情報化が新たな段階を迎えつつある今日,AIやIoTに代表される最新の情報技術が人間の自由の実現に繋がるか否かが問われている.この問題を考察するための予備的作業として,近代的自由の成り立ちについて検討する.最初に,自由論の論点を整理し,自由論の「分析論的モデル」「生命論的モデルⅠ(主客合一論)」「生命論的モデルⅡ(主客分離=結合論)」という三つのモデルを提示する.次に,古代ギリシャから西欧近代に至るまでの過程を辿りながら,近代的自由が「因果的必然性」「国家権力」「市場メカニズム」「近代法」という四つの構造的条件に支えられた「自由の生命論的モデルⅡ」として成立したことを述べる.そして最後に,従来のメディア概念を拡張したうえで,近代的自由を規定する構造的条件とメディアとの関係について言及する.
著者
新堀 多賀子 初鹿 静江 髙波 嘉一 明渡 陽子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.147-151, 2013

内臓脂肪過多は様々なサイトカインを介して動脈硬化性疾患を発生させる.BMIが標準でも体脂肪率が高い「隠れ肥満」学生への保健指導を行うため,内臓脂肪量を推定できるInBody装置を用いて「隠れ肥満」の背景にある生活因子を見出す事を目的とした.食物学科学生41名を対象に,InBody装置で体脂肪率,腹囲,BMI,内蔵肥満レベル等の測定とライフスタイルに関するアンケート調査を行った.体脂肪率により肥満,隠れ肥満,標準,痩せの4群に分け分析した.その結果,隠れ肥満はBMI標準範囲内の29%に認められた.隠れ肥満群は標準群より内臓脂肪レベル,腹囲,BMIで有意に高く,筋肉量が少ない傾向を示し,また小学生時代から現在までの運動量が少なかった.食事因子では,隠れ肥満群で果物類,肥満群で肉類,卵類の摂取頻度が高い傾向を示した.身体症状では,肥満群と隠れ肥満群で肩こりと頭痛が高い出現傾向を示した.肥満は隠れ肥満よりも睡眠障害が有意に高値だった.今回は症例数が少なく隠れ肥満と標準を区別するライフスタイル項目は運動因子以外見つからなかった.
著者
小谷 敏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.194-211, 2015

<p> アメリカの政治学者,ジョセフ・ナイはソフトパワーを,他の国々に対して強制力を用いることなく,自発的な支持を調達することのできる力と定義している.ソフトパワーとはその国がもつ魅力に他ならない.</p><p> アメリカ人エコノミスト,ダグラス・マックグレイが,2002年に『フォーリンポリシー』誌上に発表した,<i>Japan's Gross National Cool</i> によって,ソフトパワーということばは,日本社会でも知られるようになった.マンガやアニメ,J-pop にテレビドラマ,さらにはファッション,建築,料理といった日本のポピュラー文化は,1990年代以降,世界で熱狂的な支持を受けている.経済が停滞し,日本が「国内総生産」(GDP)を減退させる一方で,日本の国民総クール(GNC)は目覚ましく上昇していった.80年代の日本が経済におけるスーパーパワーであったように,新しい世紀を迎えた時点の日本は,ソフトパワーの面におけるスーパーパワーとなったとマックグレイは言う.</p><p> ソフトパワーとは国際政治学上の概念であった.それをドメスチックな事象に適応することに対してはあるいは違和感を覚える向きもあるかもしれない.しかし,今日の日本の地方自治体は激烈な地域間競争に晒されている.経済のソフト化,サービス化が進み,生産拠点の海外への移転が進む現在,かつてのような工場誘致ではなく,第一次産品の地域ブランド化と観光の振興が,どの地域にとっても重要な課題となってきている.その土地のもつ魅力を誇示しなければ自治体の生き残りが不可能な状況が生じている.日本の地域間競争は,ローカル・ソフトパワーの競争であるといえる.</p><p> 「クールジャパン」の中核をなすものは日本のポピュラー文化であり,とりわけマンガである.地元と縁のアニメやマンガの作品を地域起こしの起爆剤として活用する試みは,全国各地でなされている.そのなかでもっとも目覚ましい成功を収めたのが鳥取県境港市の水木しげるロードである.境港市民と外部の様々な関係者が一体となった努力によって,境港市は妖怪のテーマパークの様相を呈していった.水木しげるロードには現在,年間300万人を超える観光客が訪れている.同ロードはいまや,鳥取砂丘と並ぶ鳥取県を代表する観光地となっている.</p><p> 鳥取県は2012年に「まんが王国とっとり」の建国を宣言.同県出身の3人の著名マンガ家(水木しげる,谷口ジロー,青山剛昌)を前面に押し立てて,国際マンガ博等,様々なイベントを展開している.しかし「まんが王国とっとり」は現在のところ,鳥取県民のなかに十分な理解を得ているとはいえない.</p><p> 鳥取県と同じように著名マンガ家を多数輩出し,「まんが王国・土佐」を標榜する高知県は,マンガを描く文化の長い伝統をもっている.そして20年以上のながきにわたって同県で開かれている「マンガ甲子園」においては,社会批判の視点をもつ一コママンガを描く課題が参加者たちに課せられている.「まんが王国・土佐」は,「反骨」・「自由」を貴ぶ同県の精神風土とマンガ文化の伝統との結びつきを強調している.「マンガ甲子園」は,その課題を通して,「反骨」・「自由」の気概を若者たちに吹き込もうとしているかにみえる.</p><p> 他方,鳥取県には普通の人々がマンガを描く文化の伝統もなければ,高知県のように「反骨」・「自由」ということばであらわされるような明確なアイデンティティもない.三人の偉大なマンガ家は有力なメディアではあるが,遺憾ながら「まんが王国とっとり」にそこに託すべきメッセージが存在しない.それが「まんが王国とっとり」の建国に際して,県民の多くが当惑を示した理由のように思われる.</p>
著者
阿部 惠理 小林 実夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.380-384, 2020-01-01 (Released:2020-05-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

妊娠期は母子の健康のために適切な食生活を営み体重増加量を管理しなければならない.つわりは妊娠期の食生活に影響を与える要因のひとつである.母子の健康の観点からは食事摂取量の減少やつわりの悪化した妊娠悪阻に注意が払われる.しかし,吐き気を緩和させるために食事を頻回摂取するいわゆる食べつわりの症状に着目した報告は少ない.本研究では食べつわりも含めたつわりの症状と栄養摂取および妊娠中体重増加量との関連を明らかにすることを目的とした. 対象の日本人妊産婦154名(35.2±3.7歳,妊娠前BMIは20.1±2.3)をつわりの症状別に食べつわり群,変化なし群,吐きつわり群の3群に分類した.各群の妊娠初期・中期の栄養摂取状況,および妊娠中体重増加量を比較した.その結果食べつわり群は他の2群と比較し,妊娠中体重増加量が有意に多かった.妊娠初期における3群のエネルギー摂取量は吐きつわり群が少なく有意差があった.妊娠中期には吐きつわり群のエネルギー摂取量は初期と比較し有意に増加し,3群間の有意な差はなかった. つわりは生理的な現象であり悪阻以外は臨床的に重要視されにくいが,つわりの影響で妊娠初期の段階で食事摂取量が増した者はその後の体重管理に注意を払う必要性があると示唆された.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.251-258, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

宮崎作品に共通する表現上の特徴を検証することが,なぜ宮崎作品に人気があるかを解明するに資するとの考えに基づき,本稿では,宮崎駿の短編アニメーション作品『On Your Mark』を裏返し構造の観点から分析した.それによれば,当該作品は短編であるにもかかわらず,6対の対応を持つ裏返し構造からなることが見いだされた.これを,すでに裏返し構造の観点から議論されている他のいくつかの宮崎作品の場合と比較したところ,対応数に関しては同等程度であることがわかった.かかる結果がもたらされる理由に対し,本稿では,『On Your Mark』の個別的特徴に由来するとする仮説,および,宮崎の作品製作上の特徴に由来するとする仮説を提示した.
著者
高橋 ゆう子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.581-590, 2019-01-01 (Released:2019-11-09)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本論の目的は,RDI(対人関係発達指導法)の特徴と効果について,一家族の事例から検討することである.対象は,6 歳のASD 児とその両親で,約2 年間RDI に取り組み,その間,アセスメント(RDA)として親子のやりとりを3 回録画した.その映像は,関係性を捉える3 つの状態(共同注意,相互調整,間主観性)について評価された (Larkin, et al, 2010).また,日常生活における母子のやりとりを録画した63 場面について母親が振り返りとして記述した内容について,コンサルタントとともに分類を試み,その特徴を整理した.結果は次の通りである.まず,3 回のRDA から父親,母親とも共同注意,相互調整,間主観性のいずれにも変化がみられた.次に母親の記述については,その内容が肯定,否定,分析,課題,疑問の5 つのカテゴリーに分類でき,否定的な内容が減って肯定的なもの,子どもとの関係性に関する内容が増えた.以上から,RDI が親子の関係性の変容に影響することが推測された.そして,情緒的意欲的関係性に焦点をあてた育て直しをねらったRDI の特徴と課題について考察を行った.
著者
柏木 由夫
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.121-133, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
18

まず,崇徳院の『久安百首』春部末尾の独自性を指摘した.次に四季部を中心に彼の和歌の特徴的要素を“和歌の用語と手段”の面から3点,“和歌の方向性(心の在処)”の面から5点を指摘し,後者の要素は連環する崇徳院の心の世界を示すと考えた.次に恋部は,恋の進行に従った構成に,和漢の知識に拠る恋歌を添えたとした.一般的恋歌から外れた身勝手さや,強引さ,あるいは卑屈さの裏にある孤独などが読み取れるとした.恋の進行の末尾歌を俊成が改訂した本文が『百人一首』に入ったとした.
著者
榎本 恵子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.389-391, 2020

<p> 今日,アメリカのトランプ大統領,フランスのマクロン大統領のイメージ戦略が話題になっているがこれらの戦略は今に始まったことではない.改めて考えてみるとそこには「芸術の政治化」があるように思われる.本研究の目的は,そのイメージ戦略の原点の一つともいえるルイ14世のイメージ政策のうち彼が主催した祝祭に焦点を当て,国内外へのパフォーマンスを検証し,その位置づけを明らかにすることであり,本稿はその祝祭の持つ意味をまとめたものである.</p>
著者
榎本 恵子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.385-388, 2020

<p> 本研究の目的は太陽王と呼ばれていたルイ14世のヘラクレスとしての表象についてその実態を明らかにすることである.</p><p> 17世紀フランスを治世したルイ14世は,太陽王としての異名で知られるが,対外政策として顕示した雄姿にはギリシャ神話の英雄ヘラクレスに表象されるものもあった.そこで,フランスにおいて国王のイメージがどのように製作されるのか,ヘラクレスがフランス国王の表象として選ばれた背景及びそれがどのようにルイ14世のイメージ戦略に適用されたのか調査・考察した.</p><p> 本稿はパリ市内,ヴェルサイユ宮殿,ルーヴル美術館,マザリーヌ図書館に現存するルイ14世の資料,オペラ『恋するヘラクレス』と喜劇『アンフィトリオン』の分析から浮き彫りになったルイ14世のイメージ戦略についての調査報告である.</p>
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.293-298, 2019

<p> 裏返し構造とは,従来,異郷訪問譚の形式の物語にみいだされてきた構造であるのだが,異郷訪問譚ではない形式の物語にもこの構造がみとめられるか否かについては検証されてこなかった.そこで筆者は,はたして異郷訪問譚ではない物語においても裏返し構造がみとめられるかの調査をおこなったところ,いくつかのアイヌ民族を話者(あるいは筆者)とするテキスト,および,いくつかの聖書テキストにおいては裏返し構造がみとめられることが確認された.本稿の目的は,聖書テキストに含まれる「ピレモンへの手紙」においても裏返し構造がみいだされることを示すところにある.</p>
著者
阿部 惠理 小林 実夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.380-384, 2020
被引用文献数
1

<p> 妊娠期は母子の健康のために適切な食生活を営み体重増加量を管理しなければならない.つわりは妊娠期の食生活に影響を与える要因のひとつである.母子の健康の観点からは食事摂取量の減少やつわりの悪化した妊娠悪阻に注意が払われる.しかし,吐き気を緩和させるために食事を頻回摂取するいわゆる食べつわりの症状に着目した報告は少ない.本研究では食べつわりも含めたつわりの症状と栄養摂取および妊娠中体重増加量との関連を明らかにすることを目的とした.</p><p> 対象の日本人妊産婦154名(35.2±3.7歳,妊娠前BMIは20.1±2.3)をつわりの症状別に食べつわり群,変化なし群,吐きつわり群の3群に分類した.各群の妊娠初期・中期の栄養摂取状況,および妊娠中体重増加量を比較した.その結果食べつわり群は他の2群と比較し,妊娠中体重増加量が有意に多かった.妊娠初期における3群のエネルギー摂取量は吐きつわり群が少なく有意差があった.妊娠中期には吐きつわり群のエネルギー摂取量は初期と比較し有意に増加し,3群間の有意な差はなかった.</p><p> つわりは生理的な現象であり悪阻以外は臨床的に重要視されにくいが,つわりの影響で妊娠初期の段階で食事摂取量が増した者はその後の体重管理に注意を払う必要性があると示唆された.</p>
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.353-357, 2020

<p> ユダの手紙は,新約聖書に収納された巻の一つである.本稿では,ユダの手紙の構造を,裏返し構造をあてはめる観点から分析した.本稿の分析により,ユダの手紙は,合計5対の対応を持つ裏返し構造であることがわかった.</p>
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.146-150, 2020

<p> 本稿において,漫画『チェンジ』(小山ゆう作品)の構造を,裏返し構造の特徴に基づいて分析したところ,当該作品が裏返し構造であることがわかった.従来,裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられてきた構造上の特徴であるとされ,異郷訪問譚形式の,口承由来を含む文字による物語やアニメーション作品にみいだされてきた.漫画作品にみいだされる裏返し構造を紹介したのは本稿が最初である.</p>
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.676-681, 2019

<p> 本稿では,明治以降,恣意的におこなわれた迷信打破が,迷信を排除する方向に世論を導いたのみならず,結句,日本人の心性を制限する方向へと導いた可能性があることを,迷信と述語論理の関連性の観点から論じた.</p>