- 著者
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鈴木 紀子
- 出版者
- 大妻女子大学人間生活文化研究所
- 雑誌
- 人間生活文化研究
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, no.28, pp.82-96, 2018
<p> 本報告は,アメリカ人作家パール・バック(Pearl S. Buck)原作の短編小説,『大津波』(<i>The Big Wave</i>, 1948)と日米両国の戦後の関係を追究する研究の初期報告である.『大津波』は,1962年,日本とアメリカの合同製作により映画公開されている.ノーベル賞受賞作家で世界的知名度を誇るバックが日本を描いた作品として,その映画化は当時日米両国で話題となった.だが,残念ながら現在日本ではこの映画は視聴可能なフィルムが残っておらず,今や一部の人に「幻の映画」として知られるのみで,人々の記憶から消滅しようとしている.本稿は,筆者のアメリカでの調査を基に,この「幻の映画」の製作過程と内容に係る詳細を記録することを主眼とする.</p><p> 本研究の最終目的は,原作および映画,そしてテレビドラマとしての『大津波』の,第二次世界大戦後アメリカの対日民主化政策および冷戦文化外交政策との関係性を明らかにすることである.この作品は,戦後占領下日本およびドイツで民主化政策のための教育材料に選ばれていた.また,戦後1950年代終わりまで,アメリカではアジアを主題とする文学や映画などのアジア表象が多数創作され「冷戦期オリエンタリズム」を形成していたが,1956年にテレビドラマ化,そして1962年に映画公開されたこの『大津波』は,同時代アメリカの冷戦文化を形成する一役割を持っていたと考えられる.一方日本でも,この作品は津波が戦後の日本人にとって敗戦と占領の象徴となり,日本人読者に特殊な受容と解釈をもたらす.</p><p> このように,『大津波』は日本とアメリカの「戦後」に密接な関係性を持つと考えられる.本稿は,その研究の初期段階報告として,現在までに明らかとなった情報の記録と考察を行い,最後に今後の課題と研究の展望を示す.</p>