著者
田中 鉄也
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究
巻号頁・発行日
vol.2015, no.27, pp.46-67, 2015

<p>本稿は、ラージャスターン州のラーニー・サティー寺院を事例に、公益団体によるヒンドゥー寺院運営の特徴を分析し、その活動が基礎とする「公益性」を明らかにすることを目的とする。ジャーラーンという親族組織の極めて「私的」な女神信仰は、カルカッタに移住してきたマールワーリー・ジャーラーンが1920年代に自らの財産を「公的なもの」へと読み変えることで、寺院へと姿を変えた。 1957年に慈善協会を組織しこの寺院の占有権を勝ち取ることによって、受託者たちはカルカッタを拠点とした寺院の遠隔地経営を確立した。彼らの寺院運営は特定のコミュニティに限定した共助的活動に終始しているように見える。しかしそれは「公共の財」としての寺院をいかに運営し、何をするべきかを熟知した上で行われた「公益活動」と解釈できる。彼らは自らの活動が受託者に(血縁や地縁などの意味で)直接的に関わりのある範囲に限定された「私的なもの」でないことを証明するために、活動の恩恵を得る対象を具体的な大きさをもったコミュニティとして策定することで、彼らなりの「公益活動」を実現してきたのである。</p>
著者
吉次 通泰
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.21, pp.133-151, 2009

世尊の死因については定説がない。80歳の高齢になっていた世尊は、最後の旅の途中、チュンダの調理したスーカラ・マッダヴァを食べた後、短期間で激しい苦痛(腹痛?)と血性下痢を生じた。頻繁に飲水と休息をとりながら旅を続け、クシナガラで入滅した。史実と異なる内容も多いと思われるが、最後の旅の途中に現れた死因解析に必要な臨床症状を最も詳細に述べている文献の一つはパーリ語によるMahaparinibbanasuttanta(MPS)である。死因に関する先行研究は、スーカラ・マッダヴァの性質(豚肉、キノコなど)に関するものが大部分であった。血性下痢をもたらす疾患には、感染性腸炎、腸間膜動脈閉塞症、虚血性腸炎、大腸癌、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸憩室症などがあるが、患者の年齢、症状、経過、糞便の性状などより、細菌(とくに赤痢菌)あるいは赤痢アメーバに汚染された食物ないし飲料水による重症の感染性腸炎であったと推測する。
著者
板倉 和裕
出版者
JAPANESE ASSOCIATION FOR SOUTH ASIAN STUDIES
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.26, pp.46-72, 2014

本稿は、社会的マイノリティに対して、留保議席のような政治的保障措置を世界に先駆けて導入したインドの経験に注目し、インド建国の指導者たちがなぜそのような措置を憲法の中に盛り込むことにしたのかを考察する。インドの制憲過程を扱った研究の多くがムスリムの処遇問題に関心を寄せてきた一方で、指定カーストの指導者たちによる、政治的権利獲得のための主体的な活動を考察に入れた政治過程の分析は十分に進められてこなかった。そこで、本稿では、指定カーストの中心的指導者であったB・R・アンベードカルに焦点を当て、制憲議会を取り巻く政治環境の変化に対するアンベードカルの適応過程と、それと同時に形成された会議派指導者との協力関係に注目し、インドの制憲政治を再検討することにより、指定カースト留保議席がインド憲法にいかにしてもたらされたのかを明らかにする。
著者
杉原 薫
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.22, pp.170-184, 2010-12-15 (Released:2011-09-06)
参考文献数
39