著者
坂元 茂樹 Shigeki Sakamoto
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.815-856, 2019-05

2018年12月26日、日本政府は、国際捕鯨取締条約からの脱退を公表した。この脱退通告に伴い、日本は2019年7月から商業捕鯨を再開することが可能となった。しかし、日本が商業捕鯨を再開するや、国連海洋法条約の締約国が日本を相手取って、同条約第65条や第194条5項の違反を理由に、強制的仲裁手続に訴える国際訴訟リスクがある。日本としては同条約第297条3項(a)但し書きによって、管轄権を否認することになろう。本論文は、日本がIWC脱退に至った背景とともに、こうした海洋法条約上の義務の抵触の有無について検討する。論説(Article)
著者
王 昭武 Zhaowu Wang
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.1699-1752, 2017-11

2011年に「中華人民共和国刑法改正案(八)」が酒酔い運転を代表とする危険運転罪を増設して以来、同罪の法的性格、交通事故罪など関係犯罪との関係、さらに酒酔い運転が一律に危険運転罪が成立するかなどの問題について、激しく争われてきていたが、以下のような結論が得られると思われる。第一に、危険運転罪は過失による抽象的危険犯ではなく、故意による抽象的危険犯である。第二に、酒酔い運転行為は危険運転罪が成立すると同時に、交通事故罪、「危険な方法による公共安全危害罪」も成立すれば、前者が後者に吸収され、後者一罪しか成立しない。第三に、刑法13条但書を抽象的危険犯である危険運転罪の認定に適用すべきで、酒酔い運転は情状によって危険運転罪が成立しないときもあることを否定できない。Since Amendment(Ⅷ) to the Criminal Law of the People's Republic of China added crime of dangerous driving represented by driving while intoxicated(DWI), the debate over the following issues heated: the legal nature of crime of dangerous driving; the relationship between this crime and other related crimes (such as crime of causing traffic casualties); whether all driving while intoxicated should be classified as crime, and so on. This article considers that the following conclusions can be drawn: first, crime of dangerous driving is not negligent abstract dangerous crime, it is intentionel abstract dangerous crime; second, if driving while intoxicated behavior constitutes crime of causing traffic casualties or crime of endangering public security with the dangerous method while the behavior constitutes crime of dangerous driving, crime of dangerous driving will be absorbed into the preceding two crimes and only constitute the preceding crime; third, the proviso of Article 13 of Criminal Law can apply to crime of dangerous driving as abstract dangerous crime, acoording to specific details, driving while intoxicated may also not constitute crime of dangerous driving.論説(Article)
著者
濱 真一郎 Shinichiro Hama
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.3319-3339, 2017-03

本稿の目的は、アイザィア・バーリンの自由論についての理解を深めるために、彼の著作に依拠して、ロシアにおけるドイツ・ロマン主義の影響を整理した上で、ロシアの政治的作家であるアレクサンドル・ゲルツェンの個人の自由の捉え方について検討することである。論説(Article)
著者
佐藤 由梨 Yuri Sato
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.247-278, 2017-05

本稿は、少年である被告人が、禁錮以上の刑に当たる罪の事件である無免許運転の罪と故意の通行禁止場所通行の罪について、家庭裁判所から検察官へ送致がなされたところ、検察官において、故意の通行禁止違反の事実を事実の同一性が認められる罰金以下の刑である過失による通行禁止違反の罪に認定を替えて公訴提起・略式命令請求がなされ、当該請求が認められて略式命令が確定されたことに対する非常上告申立事件である最高裁平成26年1月20日判決について、これまでの判例の動向と学説の状況を整理した上で、本判決の理解と評価について考察し、本判決がこれまでの判例の中にどのように位置づけられるものであるかを分析して、本判決の意義と射程を明らかにしようとするものである。判例研究(Case Study)
著者
井上 幸希 Yuki Inoue
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.881-906, 2020-10

表現の自由の領域において、Elena Kaganが提唱する動機審査の理論とはいかなるものかを概観した上で、同理論の応用可能性について検討する。故竹中勲教授追悼号 I
著者
森 靖夫 Yasuo Mori
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.2621-2647, 2018-02

本稿は、イギリスが日本の産業動員準備をどのように見ていたかをイギリス公文書館の文書を用いて明らかにした。イギリスは世界各国が総力戦に向けた産業動員のための組織づくりを始めていることに着目した。なかでも日本は世界の中でも先んじた国として認識していた。とりわけ1927年に成立した資源局を日本のCIDと評価するなど、日本の国家総動員準備を軍国主義の萌芽と見るどころか、本国との類似点に着目していた。もっとも、日本の準備はイギリスの脅威とはならないと判断していたし、それをもって日本が戦争を企図しているとは少なくとも1937年までは考えていなかった。This paper examines British intelligence and perception of Japan's industrial mobilization from 1918 to 1937 mainly analysing the reports from British military attaché. It shows that British military perceives Japan as an advanced country in industrial mobilization. In other words, it means that they didn't regard Japan's preparation for 'Kokka Sodoin (general mobilization)' as the signs of militarism. Moreover, they saw Shigenkyoku (Resources Bureau) established in 1927 as 'Japan's C.I.D' and thought Japan's plans for industrial mobilization didn't threat to British interests in East Asia until 1937.瀬川晃教授古稀記念論集第一部(I)
著者
松原 久利 Hisatoshi Matsubara
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.2945-2975, 2018-02

交通事故、医療事故においては、直接結果を発生させる行為時点で、行為能力、結果予見・回避可能性が欠如する場合であっても、それ以前の段階で注意義務を基礎づける危険が存在し、その時点においてその危険が予見・回避できた場合には、過失により行為能力、結果予見・回避可能性を排除する原因行為に過失犯の実行行為を認めることができる。ただし、この引受け過失と危険運転致死傷罪の関係については、なお検討すべき課題がある。Bei den Verkehrsunfall und medizinischem Unfall, soll die Ausführungshandlung von den Fahrlässigkeitsdelikte in der ursächlichen Hndlung, die die Handlungsfähigikeit, Vorhersehbarkeit und Vermeitbarkeit des Erfolges fahrlässig ausschliesst, anerkennen werden, wenn in der früher Phase die Gefahr, die die Sorgfaltspflicht begründet, liegt vor, und ,man im Zeitpunkt die Gefahr vorhersehen und vermeiden kann, obwohl im Zeitpunkt der Handlung, die direct den Erfolg führt herbei, es an den Handlungsfähigkeit, Vorhersehbarkeit und Vermeidbarkeit des Erfolges fehlt. Jedoch bedarf es noch die Frage des Zusammenhang mit der Übernahmefahrlässigkeit und dem gefährlichen Autofahren mit Todes-oder Verletzungsfolge zu untersuchen.瀬川晃教授古稀記念論集第二部(II)
著者
益田 高成 Takanari Masuda
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 = The Doshisha law review (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.225-303, 2020-07

公職選挙法は、候補者が選挙運動を行うことのできる期間を法定しているが、日本ではこれまで、その期間が繰り返し短縮されてきた。本稿では、選挙運動期間を短縮する公選法改正を全て取り上げ、いかにして選挙運動期間が短縮されてきたかを検討している。分析の結果、選挙運動期間短縮は議員主導で進められてきたこと、また、期間短縮に関しては多くの事例で与野党が協調的であったことが確認された。本稿の分析結果は、選挙運動規制が、党派的対立を促す性質よりも、各党を現職議員の集合体として結びつける性質を有していることを示唆している。研究ノート(Note)