著者
神山 智美
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.517-549, 2017-03

環境法とは,「現在および将来の環境質の状態に影響を与える関係主体の意思決定を社会的に望ましい方向に向けさせるための方法に関する法,および,環境をめぐる紛争の処理に関する法」である。よって,関係主体を構成する諸個人における「これが望ましい方向だ」と思う方向への働きかけが適切に行われ,議論が深められた上での社会的合意がなされることが求められる。よって,そのための示威的行動等を含む意見表明が確保されねばならず,議論の場が確保されることが望ましい。しかしながら,住民らの意見表明に対してそれを威嚇するような動きを事業者が取る場合,または事業者の行為が不当に侵害されるような反対運動等が展開された場合等,いくつかの克服すべき課題も見受けられる。本稿は,とくに開発行為の事業者側が原告となって提起する訴訟における,事業者の適切な対応を勘案すべくこれらの課題を検討するものである。よって本稿においては,(1)事業者対住民:住民らの意見表明に対してそれを威嚇するような訴訟提起および遂行を事業者側が行う場合,(2)事業者対地方公共団体の長:地方公共団体の長が,その事務執行に当たり,建物建築および販売等を妨害したことには重大な過失があるとして事業者が国家賠償法1条1項等に基づく訴え等を行った場合について検討する。なお,以下で取り上げる事案(2)には,当該地方自治体の条例公布行為の有効性,当該地方自治体の債権行使および国家賠償法1条2項に基づく求償権の不行使等,少なからずの論点が含まれているが,本稿においては,事業者対地方公共団体の長という観点に焦点を当てて扱うこととする。
著者
木原 淳
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.417-442, 2015-03

何故に労働の投下が,物件と身体を同質化するのか,またそのことと,身体の法的性質はどのような関係にあるのだろうか。本稿はこの問題の端緒としてロックとカントの所有論と対照する。両者は共に,契約による所有の根拠づけを拒否する点では共通するが,カントはロックの労働所有説を批判し,所有制度の淵源を,領土高権を背景とする土地所有制度に求める。これは所有権のもつ公共性を重視した現実的な思考ではあるものの,この思考は身体と所有との密接な関わりを完全に排除しており,身体と所有にかかわる限界事例に対して無力なものとなっている。そのような観点から,熊野純彦の議論を参照しつつ,所有と身体ないし生命との密接な関連を明らかにし,身体をめぐる法的問題の指針とすることを目的とする。
著者
福井 修
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.277-298, 2018-03

信託財産は受託者に帰属しているが,受託者の固有財産とは別扱いされる。これを信託財産の独立性といい,信託の特徴のうち中核的なものである。自己信託を除いて信託設定によって信託財産は委託者から受託者に移転しているが,信託財産の独立性から,受託者の債権者は信託財産に対して強制執行が認めらない。さらに,信託設定時点で委託者の責任財産からは切り離されるので,委託者の債権者も強制執行の対象とすることはできない。このように受託者の債権者も,委託者の債権者も信託財産に対して強制執行することは認められないが,信託においては強制執行と無縁というわけではない。すなわち,信託で利益を受けるのは受益者であり,受益者の債権者はこの利益を受ける権利,すなわち受益権に対して強制執行が認められる。ただ,英米では親族のうち財産管理がうまくできない者のために信託を設定して,生活を守りたいということも,信託を利用する動機の一つであった。その場合には受益者の債権者が受益権を差押えることを信託設定者が極力回避したいと考える場合もある。信託設定者の意思をどこまで尊重するかという論点があり,この点については従来必ずしも結論が一致しているとはいえない状況にある。本稿はこのような信託受益権に対する差押えについて,考察するものである。
著者
小倉 利丸
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.325-353, 1982-02

本稿ではマルクス主義ないしマルクス経済学と,全く異る理論的基礎をもつそれ以外の経済学諸潮流との聞の批判的相互交通を扱うことになる。これらの検討をつうじて,マルクス価値論の理論的有効性を確認しうる視座を確定しつつ,経済学批判としての批判の方法一異る理論への批判の有効性を保障するものは何か,批判による自らの理論の擁護か,批判の理論化か,ーを検討する素材を提供してみようとするものである。
著者
小島 満
出版者
富山大学経済学部, 富山大学経営短期大学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.480-499, 1978-03

本稿で取り上げる多属性態度モデルは,主に社会心理学で構築された態度理論に依拠しながら,消費者行動に特有な情況を反映すると共に,消費者の選好を伝統的方法とは異なり,そこに顕在化する認知構造から直接説明し,予測しようとするため,叙上の対照的な接近方法を総合化する契機を内包するといえよう。しかし,このモデルが夥しい数の実証的研究を誘発させるにしたがって,それら研究のあいだに用語法,測定法,分析方法などの多様化をもたらしているため,このモデルは現状で、は未だ十分な説明力をもつに到っていないと考えられる。本稿の課題は多属性態度モデルとして総称される幾つかの主要なモデルを取り上げ,そこに伏在する問題点を行動諸科学の成果から再検討して,モデルと購買状況との対応に関する仮説を提示することにある。
著者
森岡 裕
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.583-591, 2017-03

ロシアはエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の有力な保有国であり輸出国であることは周知のとおりである。石油と天然ガスについては生産拠点が西部(チュメニ)にあることから,輸送インフラ(パイプライン)の整備も西部(ロシアのヨーロッパ地域,西シベリア)を中心に行われてきた。その結果,石油とガスの輸出先は伝統的にヨーロッパ市場が中心となっており,東部(アジア・太平洋地域)の役割は大きくなかった。だが輸出先の多様化と成長するアジア・太平洋地域への結合を実現するため,東方市場の開拓・強化が図られるようになった。「2030年までのロシアのエネルギー戦略」では,ロシアの石油とガスの輸出に占める東方市場(アジア・太平洋地域)の割合を以下のような水準に引き上げることが目標として示されている。石油・石油製品の輸出:8%(2008年実績)から22 ~ 25%(2030年)へガスの輸出:0%(2008年実績)から19 ~ 20%(2030年)へ実際,東方市場への輸出強化策は実行されており,2010年の実績値では,ロシアの石油・石油製品とガス輸出に占める東方市場の割合は,それぞれ12%と6%となっている。この傾向はこれからも続くものと予測される。なお東方シフトを検討する場合,2つの大きな要因をとらえておく必要がある。1つは,サハリンの石油・ガスプロジェクトの本格的稼働開始(2006年)であり,もう1つは,東部での石油輸送インフラの整備となった「東シベリア・太平洋パイプライン(ESPO)」の稼働開始(2009年:Ⅰ期工事完了 2012年:Ⅱ期工事完了)である。この2つの大きなプロジェクトの稼働によって,ロシアの石油とガスがアジア・太平洋地域へ供給されることとなった。そこで本稿では,サハリン・プロジェクトの本格的稼働前後(2005年,2007年)とESPOの稼働後(2013年)の時期を中心に,ロシアの石油・ガスの輸出先の多様化・東方シフトを検討していく。また生産拠点が東部(シベリア,極東)にある石炭の輸出先についてもみていく。そこでⅡ節では,ロシアのエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の生産状況を確認する。それを踏まえて,Ⅲ節ではロシアのエネルギー資源の輸出先の変化と今後の動向について検討する。
著者
高田 寛
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.551-581, 2017-03

世界の人口は,2050年には90億人を超えると予想されている。人類が今まで経験したことのない急激な人口の増加とともに,地球温暖化による異常気象が世界各地で頻繁に起きている。また,毎年約6万平方キロメートルの規模で地球の砂漠化が進み,土壌劣化現象が起きている。このため,2050年には,世界の総人口を養うためには,食料の生産を2000年に比べ1.5倍以上に引き上げる必要があると予想されている。このような将来の食料危機を打開するものとして,遺伝子組換え技術が注目を集めている。遺伝子組換え技術とは,植物に限らず,あらゆる生物の遺伝子を人為的に改変する技術であり,21世紀に入り急速に技術革新が行われた。特に,近時,予め狙った遺伝子を直接改変するゲノム編集技術が開発され,不確定要素が多く効率が悪かった従来の遺伝子組換え技術にも導入され,人類は,これら遺伝子改変技術により,植物だけでなく動物をも含む食料の増産及び安定供給を可能とする時代を迎えようとしている。しかし一方で,遺伝子組換え技術を使った作物(Genetically Modified Organisms/GMO)(遺伝子組換え食品も含む。以下「GMO」という。)が人体へ影響を及ぼす可能性があるのではないかという報告もなされ,GMOの安全性及び生物多様性についての懸念が表明されている。また,これらの報告を受け,消費者団体及び市民団体を中心にGMOの反対運動も行われている。各国のGMOに対する法規制は様々であり,特にフランスがGMOの栽培を禁止したように,EUでは規制を強化する傾向にある。しかし他方,米国はモンサント社をはじめとする種子ビジネスの巨大企業が,GMOを中心としたビジネスを世界各国で展開している。このような中,わが国の食料自給率は40%以下と先進国の中では最も低く,多くの農作物を海外から輸入している。特に,米国産の遺伝子組換えトウモロコシや大豆を大量に輸入・消費しているため,わが国にとってもGMOの安全性に関して無関係ではない。GMOの賛否については,ややもすると感情論に走りがちな議論も散見されるが,本稿では,GMOが抱える法的問題,特に食物に対するGMOの表示制度を整理し,トレーサビリティの必要性の有無について,EU及び米国の法制度も踏まえながら,わが国の採るべき法規制の検討を行いたい。
著者
志津田 一彦
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.145-178, 2004-11

船舶のアレストに関しては, 1952年船舶アレスト条約(INTERNATIONAL CONVENTION FOR THE UNIFICATION OF CERTAIN RULES RELATING TO THE ARREST OF SEA-GOING SHIPS, BRUSSELS, MAY 10, 1952),1985年船舶アレスト改正条約案 (DRAFT REVISION OF THE INTERNATIONAL CONVENSION FOR THE UNIFICATION OF CERTAIN RULES RELATING TO THE ARREST OF SEA-GOING SHIPS Done at Brussels, May 10th ; 1952),1999年船舶アレスト条約(INTERNATIONAL CONVENTION ON ARREST OF SHIPS, 1999)がある。これまで,これらの条約等については,多数の検討がなされてきている。ここでは,まず,1952年条約,1985年改正案,1999年条約の全文について,概略的な対照を行ない, Francesco Berlingieri氏の見解を中心に,「アレストされる船舶」等について,若干の紹介・検討と試みようと思う。
著者
小原 久治
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.329-388, 1987-03

小論では,国内で製造された医薬品(国産の医薬品,外国の医薬品関連企業が開発した医薬品を国内で製造したもの)や輸入医薬品が,いかなる流通チャネルの中で,特に卸売段階においてどのように流通しているかを明らかにする。この場合,戦後における医薬品卸売業者の卸業権確立の歩みを簡略に辿った上で,戦後における医薬品の卸流通の特色を明らかにし,医薬品の流通チャネルの現状を踏まえながら,医薬品の流通体制における卸薬業界の現状と動向を把握し,そこに内在する今後の問題点ないし課題を摘出することによって,医薬品の卸流通を明らかにする。卸薬業界は薬務行政と医療行政の影響を直接受け,卸薬業界や個々の卸売業者ないし卸企業を取り巻く経営環境は,一段と厳しくなってきている。この点に関する説明も医薬品の生産,小売流通,薬価設定などと並んで重要なことである。現在の医療・薬務行政は行政主導型で行われているから,医薬品の卸に深く関連する行政措置・施策と卸薬業界を含めた薬業界全体の自主的な方策や施策に触れながら,卸企業の生き残りの危機と卸経営の環境の厳しさについてまずまとめておかなければならないと考える。
著者
鳥羽 達郎 劉 偉
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.225-251, 2016-12

小売企業の国際展開は,海外に店舗を構えることを基本とする。消費者の立場からそうした店舗を簡単に見てみると,ひとつの企業が展開する国内外の店舗に大きな違いを感じることはない。しかし,品揃えや販売方法を注意深く観察してみると,さまざまな違いを見出すことができる。また,そうした店舗展開の背後では,それらを実現するための仕組み作りやその運営に多大な努力が注がれている。小売企業の国際展開は,海外に店舗を構えるだけでは完結しない。それでは,どのような取り組みが要求されるのだろうか。また,その取り組みには,どのような視点や姿勢が必要になるのだろうか。本稿は,中国を軸にアジア市場で成長発展することを目指すローソンを事例に取り上げ,小売企業の国際展開に求められる取り組みやその際に必要な視点について検討することを目的としている。
著者
森岡 裕 岩内 秀徳
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.223-241, 2002-11

アジア危機以降,成長し続けるアジアという神話は崩れたが,極東地域(アジア-太平洋地域)が, 21世紀においても世界経済における成長の中心であることは否定できない事実である。 一国あるいは一地域の経済成長を規定する要因は,資源,資金,インフラの整備等様々であるが,質の高い労働力(人的資源)の存在・育成を無視することはできない。成長する経済は,量・質ともに人的資源の拡充を要求する。そこで21世紀の極東地域の発展を,人材育成システムに焦点をあてて考察したのが今回の研究である。極東地域(アジア-太平洋地域)における人材育成システムを研究するために,極東地域を南北にわけ,北についてはロシア極東地域を,南についてはマレーシアを対象とした。ロシアは計画経済から市場経済へ移行中であり,市場経済に適応しうる人材の育成が焦眉の課題となっている。そこでロシア極東地域において人材育成を行っている高等教育機関(大学)を中心に,ロシア極東での人材育成の現状(課題と成果)について森岡が担当した。マレーシアは,アジア危機からの立ち直りを見せ,IT関連を中心に野心的な発展計画を立案・実行している。その際に大きな課題となるのが,上記の計画を担いうる人材の量的・質的充足である。そこでマレーシアにおける人材育成の問題を,岩内が担当した。