著者
保坂 健太郎
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.44, pp.137-144, 2018-07

南硫黄島から2017年に採集されたきのこ類についてリスト化するともに子実体写真で紹介する。合計12標本(2門2綱4目9科11属11種)が採集され、全て腐生菌もしくは木材腐朽菌であった。多くは南硫黄島に自然分布する種であると思われる。
著者
鈴木 創 鈴木 直子
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-11, 2015-08

オガサワラオオコウモリPteropus pselaphonは、小笠原諸島に分布する唯一の固有晴乳類である。野外調査と文献調査から、31科42属105種 (91種及び亜種・変種・品種等14区分を含む) の植物と昆虫1種が餌として記録された。利用された植物105種において、固有種は12種 (11.4%)、固有種以外の在来種 (広域分布種) は7種 (6.7%)、外来の自生種は10種 (9.5%)、外来の栽培種は76種 (72.4%) であった。植物の摂食部位は148で、内訳は果実が68種 (45.9%)、花 (花軸含む) が43種 (29.1%)、葉 (葉柄含む) が37種 (25.0%) であった。全体の餌区分において外来の栽培種と外来の自生種を合計した割合が81.9%に及び、現時点の特に父島におけるオガサワラオオコウモリの食性が外来植物に偏っている実態が確認された。一方で、小笠原固有種や広域分布種等の在来の自生種の餌利用も多数確認された。このことから、オガサワラオオコウモリが小笠原の森林生態系において、重要な生態系サービスの提供者 (種子散布者・花粉媒介者) であることが示唆された。
著者
川上 和人 鈴木 創 堀越 和夫 川口 大朗
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.44, pp.217-250, 2018-07

南硫黄島の鳥類相の現状を明らかにするため、2017年6月14日~27日の期間に現地で調査を行った。その結果、過去に繁殖が確認されていた各種鳥類の生息が確認され、いずれの種についても特に大きな個体数の変動はないものと考えられた。ただし、コルと山頂の間では過去10年で高茎草本を中心とした密度の高いブッシュが発達しており、このような場所ではミズナギドリ科、ウミツバメ科の営巣が減少していた。セグロミズナギドリ Puffinus bannermaniは2007年の調査では山頂付近でのみ確認されていたが、今回の調査から標高300mの崩落地内の岩石地でも営巣していると考えられた。山頂周辺ではオーストンウミツバメ Oceanodroma tristramiの巣立ち前後の雛や成鳥が見つかり、南硫黄島における初めての繁殖の証拠となった。海鳥の営巣は、海岸部では植生が沿岸部に認められる場所において、山上部では森林が発達した場所で密度が高い傾向があった。UAVによる調査で南部の海岸に面した崖上ではアカアシカツオドリ Sula sulaの集団繁殖地が国内で初めて確認された。同じくUAVによる調査で北部の崖上のモクビャクコウ Crossostephium chinense群落において地上に下りている複数のクロアジサシ Anous stolidusが確認された。ここでは証拠は得られなかったものの営巣している可能性があると考えられた。アナドリ Bulweria bulwerii、カツオドリ Sula leucogaster、アカオネッタイチョウ Phaethon rubricaudaでは、羽毛にシンクリノイガ Cenchrus echinatus及びナハカノコソウ Boerhavia diffusaの果実を付着させた個体が見られ、これらの海鳥が種子散布者となっていることが示唆された。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.69-77, 2020-03

小笠原諸島の西之島は、2013年からの火山活動によって大きく面積が拡大した。2013年以前から存在していた島の大部分は、新たな溶岩流やスコリアに覆われ、ほぼ新島に近い状態となった。本調査は、西之島の植物、植生、土壌の現況を明らかにすることを目的として、2019年9月に現地調査を行った。現地調査の結果、維管束植物として、オヒシバ、イヌビエ、スベリヒユの3 種を確認した。これまでの記録を基に検討すると、これら3種は2013年噴火以前から生育していた個体群由来と考えられた。土壌については、表層土壌を採取し、全炭素量、全窒素含量を測定した。さらに、今後のモニタリングのために、5地点において方形区(10m × 10m)を設置し、方形区内の植生調査を行った。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
Kumekawa Yoshimasa Fujimoto Haruka Miura Osamu Yokoyama Jun Ito Katsura Tebayashi Shin-Ichi Arakawa Ryo Fukuda Tatsuya
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.43, pp.1-17, 2017-06

To clarify the morphological and phylogenetic differentiation of Bandona boninensis Suzuki 1974 in Chichi-jima Island of the Bonin (Ogasawara) group of Islands, we studied the external morphological characters and performed sequencing of the cytochrome c oxidase subunit I (COI) gene of mitochondrial DNA (mtDNA) and 28S rRNA of nuclear DNA (nrDNA). The sequences of COI and 28S rRNA were identical among the individuals of B. boninensis. These results suggest that B. boninensis experienced a rapid expansion of its distribution in Chichi-jima Island without undergoing any morphological and molecular differentiation.著者らは小笠原諸島の父島に生息するムニンカケザトウムシBandona boninensis の形態的および系統的分化を明らかにするために、父島の4 地点から採集を行い、体長、触肢腿節の長さ、背甲長および背甲幅、鋏角長、第1~4 脚の腿節長といった形態計測を実施し、ミトコンドリアDNA のCOI 領域および核DNA の28SrRNA 領域に基づく系統樹を作成した。その結果, ムニンカケザトウムシのCOI および28S において塩基置換は見られなかった。この結果は、ムニンカケザトウムシが父島内で系統的分化をほぼ起こしていないことを示す。また、採集を行った個体がすべて雌個体であったことから、これまでの報告の通り、父島においては単為生殖種として生息している可能性が高い。