著者
安達 圭一郎
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.91-100, 2012-03

本研究では, 性同一性障害(Female to Male)と自称する青年(A)とのメールを通じた初期のインタビュー場面で生じたインタビュアーの逆転移とインタビュイーイメージの変遷について検討することを目的とした。インタビュアーは性同一性障害と自認する若者とは初めての関わりであったため, インタビュー開始前から多くの文献を参照し, 一般的な性同一性障害当事者達が置かれている境遇とそこにおける彼らの生きにくさに注目して関わった。こうした間接的な逆転移は, その後のA理解に大きく影響し, インタビュアー側の「焦り」「無力感」「怒り」といった逆転移感情と結びついたAイメージを生成した。さらに, そのことは, インタビュー構造の崩壊とインタビュアーのエナクトメントをも引き起こすことになった。しかし, Aのメールを転機に, インタビュアーは自己の逆転移感情に気づき, 全体的対象としてのA理解が可能となった。こうした経緯を, やまだ(2007)の対話的モデル構成法を援用して質的に検討した。This study was proposed to clarify how interviewer's countertransference and interviewee image changed through exchanging E-mail with an adolescent (A) recognizing him/her self "Gender Identity Disorder" (GID: female to male) in an early interview session. Because it was the interviewer's first time to have contact with such an individual, prior to the interview interviewer read many articles concerning GID. Interviewer imagined A as a so-called general GID patient, feeling his/her life should be hard in needy circumstances. Afterwards, interviewer's indirect countertransference influenced understanding of A and formed a partial image of A connected with interviewer's feelings (i.e., impatience, helplessness, and anger). Moreover, this situation caused partial destruction of interview setting and facilitated interviewer's enactment. However, taking advantage of E-mail from A, interviewer was conscious of the countertransference feelings and could understand A as a whole person. This process was qualitatively studied and discussed in consideration of Methodology of Dialogue Model Construction (Yamada, 2007).
著者
有村 達之
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-9, 2014-03-31

ヨーガを用いた心理療法および認知行動療法について, どのようなものがあるのか, また, その有効性と安全性, 経済性について文献検索を行った。PubMedおよびPsycINFOを用いて, ヨーガを用いた心理療法について文献を探索した。ヨーガを用いた心理療法については6種類が見いだされた。ヨーガを用いた認知行動療法については見いだすことができなかった。そのうちRCTを含む介入研究などで有効性がよく検討されていたのはマインドフルネスストレス低減法(MBSR)のみであった。また, 免疫学的効果や発達障害への効果を示唆する研究も存在した。安全性については, ヨーガと免疫学的異常との関連性を示唆する研究が1 件見いだされた。経済性については関連する研究は見いだせなかった。ヨーガを取り入れた心理療法は, 慢性疼痛やがんに伴う抑うつや不安に対しての効果があることが示唆されたが, 全般的に, 有効性, 安全性, 経済性のエビデンスは非常に不足しており, それらを検証する研究の必要性が論じられた。
著者
和田 由美子 深澤 和也
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.10, pp.127-136, 2011-03

高齢者施設職員への質問紙調査により, 認知症高齢者における人物の見当識障害について検討した。施設に入所している認知症高齢者(n=29) が「よく接する施設職員」, 「たまに面会にくる人(月1回程度)」, 「よく面会にくる人(週1回程度)」が誰かを理解できるかについて3段階で評価を求めたところ, 軽度の認知症では人物の見当識にはほとんど障害が見られず, 認知症の重症度が進むにつれて見当識障害が顕著になった。また, 見当識障害の程度は対象人物によって異なっており, 施設職員に対する見当識障害が重度の認知症の8割で見られたのに対し, 面接に来る人に対する見当識障害は4割に留まった。アルツハイマー型認知症における人物の見当識障害は, 脳血管性認知症, 診断名不明と比べてより顕著であった。「毎日面接に来ている娘のことはわからないが, たまに面会に来る娘婿のことははっきりと理解している」というような症状を示す認知症高齢者を知っているかについて自由記述で回答を求めたところ, 「配偶者, 子どものことはあまり覚えていないが, 婿や嫁の事ははっきり覚えている」という症例が1例報告された。このような症例が生じる原因について, 認知症高齢者の覚醒水準と人物の意味記憶の観点から考察した。Disorientation in person among elderly residents with dementia was examined using a questionnaire survey administered to nursing home staff. The nursing home staff evaluated whether each elderly resident with dementia (n=29) knew "who the nursing home staff he/she interacts with are", "who a familiar person visiting him/her more than once a week is", and "who a familiar person visiting him/her once a month is" on a 3-point scale. The result indicated that disorientation in person was not evident in the mild dementia group, but its prominence depended on the severity of eachd resident's dementia. The severity of the disorientation in person also varied according to the category of person the elderly interacted with; 80% of the elderly with severe dementia showed disorientation in person for the nursing home staff, whereas only 40% of them showed disorientation in person for a familiar person. The disorientation in person among the elderly with Alzheimer's disease was severer than that in elderly with vascular dementia and dementia that cannot be attributed to known factors. We also asked an open-ended question "Have you ever seen or heard about dementia cases similar to those of the elderly dementia patient who easily recognized his/her son-in-law visited him/her occasionally but did not recognize his/her daughter visited him/her every day? ". We learned of one such case where "an elderly with dementia did not recognize his/her partner, son, and daughter, but recognized his/her son-in-low and daughter-in-low". The possible factors behind such cases were discussed in terms of the dementia patients' arousal level and semantic memory for people.
著者
河津 巖 田中 英嵩
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-15, 2015-03-31

特別支援学校(肢体不自由)で小学部, 中学部, 高等部合わせて12年間在籍した重度の障害を有する高等部生が大学を受験した。本研究では, 重度の障害がある高等部生の大学進学への夢がどのようにして生じ, 育まれ, 実現したか, その意志形成において, 本人と教師の間で行われた教育現象の構造, 法則を明らかにすることを目的とした。 そこで, 高等部生に特別支援学校で関わった教師たちの協力を得て, フォーカス・グループインタビューを行い, M-GTA を使って構造化し, 高等部生の自己実現を支える法則について考察した。その結果, 今回の研究で見出された新たな知見として【バックアップ】のサブカテゴリーである〈葛藤の呼び起こし〉そして【合わせ鏡】の〈共有された教育観〉, 【A の成長】の〈自己肯定感〉, 【教師の成長】の〈自己の生き甲斐〉が注目された。さらにカテゴリーとサブカテゴリー間の因果関係を捉えることにより, 【教育の本質】である〈信念と希望〉が導き出され, そのモデルが構築された。
著者
糟谷 知香江
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.13, pp.37-46, 2014-03-31

本論では日本の福祉現場で生み出された技法である「人生紙芝居」を中米・コスタリカにおいて活用した事例を報告する。コスタリカでのフィールド調査において, スラムに暮らすニカラグア人夫妻にインタビューを実施して生活史を聞き取った。そして, その生活史をもとに紙芝居を制作して, 語り手と家族の前で上演した。考察では, この技法の利点についてナラティブ・アプローチの観点から以下の仮説を提示した。(1)語り手の経験が生起した順に整理される, (2)語り手に自らの経験への理解を促進させる, (3)他者との交流手段となる, (4)紙芝居は, 絵があるので内容が子どもにも伝わりやすい。以上のように, 人生についての紙芝居, そして紙芝居の制作過程とが心理的支援の機能を有している可能性が示唆された。
著者
児玉 恵美
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.12, pp.13-26, 2013-03-31

本研究では, 1)卒業論文を提出し終わったばかりの大学生の卒業論文作成に対する認識と, その自尊感情との関連を調査し, 2)卒業論文作成について, 学生と卒業論文を指導する教員の考え方の相違を探索的に検討した。結果, 学生は卒業論文作成を重大なものと認識していることが示された。そして, 卒業論文作成過程におけるストレス度が自尊感情と負の相関を示し, 卒業論文作成状況に対する肯定的な認知が自尊感情と正の相関を示していた。また卒業論文作成について, 多くの学生がそれを肯定的な体験と意味付け, 研究の実施や新しい知識の獲得を楽しみ, 周囲の人との関わりを学んでいることがわかった。一方教員は学生に, 研究に対する姿勢や, 諦めずやり遂げる精神などを期待していた。そして卒業論文作成について, 学生・教員ともに, 達成感を得て自己成長できる体験だと捉えていることが示唆され, これらが卒業論文作成の教育的意義の大事な一側面を表していると考えられた。
著者
久崎 孝浩
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.69-79, 2012-03

本研究は, 子どもの心の理論発達レベルと母親の愛着スタイルとの関連性について検討した。4~6歳の子どもはWellman & Liu (2004) の一連の心の理論課題に取り組み, その子どもの母親は愛着スタイルに関する質問項目に自己評定で回答した。その結果, 自分自身の愛着恐れ型の側面を高く評定した母親の子どもほどパスした心の理論課題の数が少なく, 愛着恐れ型の側面を高く評定した母親との相互作用は子どもの心の理解の発達に阻害的な影響を及ぼす可能性が示唆された。養育者の愛着スタイルが子どもとのどのような相互作用を通じて子どもの心の理解の発達に促進的あるいは阻害的影響を及ぼすのかという, その影響経路を今後明らかにすべきであることが問われた。
著者
一門 惠子 古閑 法子 佐々木 順二
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-12, 2012-03

自閉症児を対象とした療育キャンプ(通称やまびこキャンプ)における参加児の活動状態に応じた支援担当学生の「思い」について分析, 検討した。参加児17名は, 8~18歳の男児13名, 女児4名であった。調査対象は, 直接子どもを担当した本学学生24名で, 男子9名, 女子15名であった。自由記述式のアンケート調査をキャンプの1週間後に実施した。回収率は100%であった。学生の「思い」のカテゴリー分析は著者らの合議によった。結果は454のカテゴリーが抽出されたが, 内訳は, ポジティブな思い(喜び・安心・安堵など)229(65.9%), ネガティブな思い(不安・心配・苦慮・困惑など)199(43.8%), 中立的思い26(5.7%)であった。学生たちの「思い」には子どもの逸脱行動の生起が大きく関与していた。