著者
佐々木 順二
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-16, 2005-03

大正期の和歌山県立盲唖学校において和歌山聾唖興業界が設立される経緯と理由を、学校支援組織が果たした役割、卒業後問題、初代校長辻本與次郎の教育理念との関係の観点から解明した。和歌山県立盲唖学校は、小学校教育の目的・内容を準用した教育と、障害に応じた職業教育を提供することで、生徒には、精神面での自発性、身体面での健康、そして社会生活を営むための常識と職業的技能の装備を期待した。しかし、学校の財政的基盤は脆弱であり、教育力不足、教員への過重負担、自校校舎の不在という教育的課題に直面していた。これらの教育的課題には、和歌山市周辺の有志による人的・財政的支援を受けた学校後援会及び新築期成同盟会が対処していった。この過程で、和歌山聾唖興業界が比較的裕福な家族を中心に設立されたが、同会は卒業生の就労困難と社会的孤立への対処を目指しており、聾唖者の自活と国民としての人格の向上という辻本の教育理念を反映するものであった。
著者
岡 典子 中村 満紀男 米田 宏樹 佐々木 順二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、インクルーシブ教育についてその本質と課題を明らかにするため、インクルーシブ教育がもっとも盛んに議論されており、しかし同時に、インクルーシブ教育に関わる問題をもっとも深刻に抱えるアメリカ合衆国を対象として、インクルーシブ教育の理念的・制度的・方法論的出発点としての特殊学級の成立と展開の過程ならびにその教育的・社会的意味について検討した。特殊学級は、今日、インクルーシブ教育推進者によって、その対極に位置する特殊教育の象徴的存在として、特殊教育批判の重要な一角とみなされてきている。しかし、彼らの批判に反して、実は特殊学級には開設初期から既に、今日のインクルーシブ教育に連なる理念やそれを達成する方法あるいは実践が含まれていたのである。たとえば、インクルーシブ教育をめぐる現代の議論では、個別的ニーズへの着目と通常教育との一体化という理念のみが先行しているように思われるが、このような認識と議論は、特殊学級においても初期の段階から重要な課題として存在してきたし、障害種によって方法と程度は異なっていたが、その対応策も考案されてきた。アメリカの特殊学級は、すべての都市において、またすべての障害種について同一の様相を示していたわけではない。たとえば統合と分離(separation)あるいは隔離(segregation)をめぐる議論とその背景、特殊学級に対する障害当事者の見解、特殊学級の発展や挫折を生じさせた諸条件、教育内容や方法の開発・改善、スティグマなどは、いずれも時期によって、あるいは地域や障害種によって異なる実相をもつ。したがって、インクルーシブ推進者が主張するような特殊学級がすべて排除的・排他的であったという批判は正鵠を得たものではないし、むしろ特殊学級において何が達成され、何が実現できなかったのかを詳細に解明することで、インクルーシブ教育の実現に必要な課題と手段が具体化できるのである。
著者
佐々木 順二
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.221-230, 2010

明治末期から昭和戦前期の日本の聴覚障害教育の方法的整備に耳鼻咽喉科学が果たした役割を明らかにするために、九州帝国大学医学部耳鼻咽喉科学教室の臨床・研究環境の整備が国内の聾唖教育の方法的整備にどのように関与したのかを分析した。同教室による聾唖教育の方法的整備への関与の内容を要約すれば、(1)無響室、声音及言語障碍治療部等の設置による聾唖や残聴利用の基礎的・臨床的研究の促進、(2)臨床・研究上の知見に基づく、福岡盲唖学校の口話教育・残聴利用の教育との連携、(3)聾唖教育関係者への日本初の検査設備・機器の紹介という三点であった。今後、同時期における聴力検査の実質的効果、耳鼻咽喉科医師による聾唖教育の制度的・方法的整備への影響等、さらに解明していく必要がある。
著者
一門 惠子 古閑 法子 佐々木 順二
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-12, 2012-03

自閉症児を対象とした療育キャンプ(通称やまびこキャンプ)における参加児の活動状態に応じた支援担当学生の「思い」について分析, 検討した。参加児17名は, 8~18歳の男児13名, 女児4名であった。調査対象は, 直接子どもを担当した本学学生24名で, 男子9名, 女子15名であった。自由記述式のアンケート調査をキャンプの1週間後に実施した。回収率は100%であった。学生の「思い」のカテゴリー分析は著者らの合議によった。結果は454のカテゴリーが抽出されたが, 内訳は, ポジティブな思い(喜び・安心・安堵など)229(65.9%), ネガティブな思い(不安・心配・苦慮・困惑など)199(43.8%), 中立的思い26(5.7%)であった。学生たちの「思い」には子どもの逸脱行動の生起が大きく関与していた。