著者
久崎 孝浩
雑誌
心理・教育・福祉研究 : 紀要論文集 = Japanese journal of psychology, education and welfare
巻号頁・発行日
no.19, pp.19-37, 2020-03-31

本論では,心の理論の中核にある心的状態の自他弁別がいかに発達するのかについて理論的検討を試みた。心の自他弁別の発達における共同注意,一人称的視点,内受容感覚の覚知の働きについて先行研究や有用な理論をもとに議論し,次のことが示唆された。(1)自己の心的状態を主観的かつ意識的に経験できるようになると共同注意場面で視点の自他相違を探知して心の自他弁別を発達させる。(2)心的状態を主観的かつ意識的に経験するためには一人称的視点が必要で,その一人称的視点を生み出すのは内受容感覚の覚知である。(3)洗練された内受容感覚の覚知が発達することで,様々な心的状態を主観的かつ意識的に経験できる。(4)洗練された内受容感覚の覚知の発達とは,子どもの成長とともに親子のやりとりが複雑化して内受容感覚の覚知が外受容感覚,認知,固有感覚等と複雑に統合していく過程である。(5)内受容感覚の覚知の発達によって,他者の内受容感覚状態の円滑かつ多様なシミュレートが可能になり,他者の心的状態の推測の効率と精度が高くなる。
著者
久崎 孝浩
出版者
九州大学大学院人間環境学研究院
雑誌
九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.69-76, 2002

Human beings don't randomly arouse emotions, but sometimes arouse emotions under consciousness concerning how they are recognized by others and meet expectations in others or rules in social groups. Emotions participated consciousness what oneself ought to be. especially shame and guilt have recently been paid considerable attention. So, I discussed appraisals, emotional experience, physiological reaction, and emotional expression of shame and guilt from the latest findings, and I tried to define them. Secondly, I inscribed the differences between shame and guilt in terms of emotion function. Finally, I discuss how and when shame and guilt appear, referring to Lewis's emotion development theory.
著者
久崎 孝浩
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.327-335, 2005-10-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

The present study explored developmental factors that would contribute to individual differences in behaviors relevant to shame and guilt of young children. The children's behaviors relevant to shame and guilt were observed by an experimental procedure. The children were led to happen to destroy an experimenter's doll, and their behavioral variables relevant to shame and guilt were measured. Their mothers answered the questionnaire tapping developmental factors: children's temperament, the frequency of maternal disciplines, and the frequency of maternal emotional experiences. A factor analysis of children's behavioral variables revealed that there were apologizing traits and repairing traits. Moreover, children who received more physical punishment were likely to apologize to the experimenter for destroying the doll. Children whose mothers experienced more shame were less likely to repair the broken doll rapidly. Boys who were temperamentally more insistent and expressing more positive emotions were likely to apologize to the experimenter for destroying the doll.
著者
久崎 孝浩
出版者
九州ルーテル学院大学人文学部心理臨床学科
雑誌
心理・教育・福祉研究 : 紀要論文集 = Japanese journal of psychology, education and welfare
巻号頁・発行日
no.17, pp.33-49, 2018-02-28

本論は,子どもが同一事象に対して“他者の心”が自己とは異なること(心の主観性)をどのように理解していくのかについて理論的探求を試みたものである。近年,子どもの心の理解の主たる発達的要因として養育者の心を想定する傾向(mind-mindedness)が関心を集めているが,まず,mindmindedness研究の問題点を発達メカニズムの観点から幾つか指摘した。次に,養育者との情動的なやりとりに着目し,安定した愛着関係で頻繁に観察される養育者の情動的映し出しに焦点をあてた。続いて,子ども側の心の理解におけるより適応的なメカニズムとしてシミュレーションに着目し,ミラーニューロンを基盤とした“共鳴”と,自己の心的状態に関する経験的知識あるいは二次的表象を基盤とした“想像”という2 つのプロセスがあることを論じた。そして最後に,養育者による情動的映し出しを通じて,子どもは自己の心的状態に関する経験的知識を豊かにすることで自己の心的状態に対する覚知が可能になるとともに,“共鳴”シミュレーションを発達させることで他者の心的状態を的確に理解することが可能になって,心の主観性を理解していく可能性を提言した。
著者
久崎 孝浩
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.69-79, 2012-03

本研究は, 子どもの心の理論発達レベルと母親の愛着スタイルとの関連性について検討した。4~6歳の子どもはWellman & Liu (2004) の一連の心の理論課題に取り組み, その子どもの母親は愛着スタイルに関する質問項目に自己評定で回答した。その結果, 自分自身の愛着恐れ型の側面を高く評定した母親の子どもほどパスした心の理論課題の数が少なく, 愛着恐れ型の側面を高く評定した母親との相互作用は子どもの心の理解の発達に阻害的な影響を及ぼす可能性が示唆された。養育者の愛着スタイルが子どもとのどのような相互作用を通じて子どもの心の理解の発達に促進的あるいは阻害的影響を及ぼすのかという, その影響経路を今後明らかにすべきであることが問われた。