著者
緒方 健
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.104-120, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)
参考文献数
7

2020年初頭からの世界的なCOVID-19感染症蔓延時、台湾では2022年春まで感染者を低く抑え込み、世界の注目を浴びたが、感染症対策の一環としてスマートフォン・携帯電話を通じた情報の取得と利活用が行われていた。今後日本で危機管理にスマートフォン・携帯電話を通じた情報の取得と利活用を行う際の示唆とすべく、情報利活用の先進地ゆえに課題先進地でもある台湾の事例を素材に、明らかになった課題について若干の検討を行う。
著者
小西 葉子 芝池 亮弥 鄭 舒元 曹 洋 吉川 正俊
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-23, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

本稿は、法学の研究者と情報学の研究者が共同して、差分プライバシーを社会実装する際の法的課題を検討することを通じて、「高度化するデータ活用と個人情報保護の均衡を保つ」という社会的要請に応える研究の成果を示す。差分プライバシーとは、攻撃に対して返されるクエリ結果にノイズを付加することを要求し、プライバシー保護技術の安全性を定義する指標である。確率的意味を持つパラメーターによりプライバシー保護の程度が左右されることから、法的評価が困難な差分プライバシー技術であるが、本稿は差分プライバシーを用いたプライバシー保護の意義と限界に着目し、その法的な位置づけを明らかにする。研究手法としては、米国の国勢調査において実装された差分プライバシーをめぐる法的紛争の検討や、日本法との接続の観点から、高度な技術的手段に求められる透明性の水準・性質などの諸問題に迫る。
著者
渡邊 卓也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.16-29, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

不正指令電磁的記録に関する罪(刑法19章の2)は、サイバー犯罪条約の要請により、コンピュータウィルスによる被害を防止してプログラムに対する信頼を保護し、情報処理の円滑な機能を維持するために導入された。その客体は、コンピュータを使用者の「意図」のとおりに動作させない「不正な指令を与える電磁的記録」と定義されるが(刑法168条の2第1項1号)、反「意図」性を如何なる基準によって判断すべきかは、必ずしも明らかではない。そこで、反意図性要件の意義について、近時の判例を参照しつつ論じた。具体的には、仮想通貨のマイニングを実行するために設置されたコードにつき反意図性が争われた、コインハイブ事件が対象である。同罪の立法経緯や罪質に鑑みれば、規範的観点からみた許容性こそが判断の本質である。判例の示した抽象的な基準はともかく、具体的な判断には問題があり、これを解決するためには立法による対処が望ましい。
著者
池田 大地 森田 光
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー
巻号頁・発行日
vol.18, pp.62-75, 2018

<p>日本の森友学園問題をはじめとして、公的機関による決定事項に対する疑惑に注目が集まっている。関係者が、事実を隠蔽したり、他者の認識をミスリードするために改ざんをするようでは、根本解決に向けての議論ができないばかりか、社会の浄化作用を機能不全に陥らせることが懸念される。</p><p>これに対して、著者らは、不正や疑惑が出れば、その事実を解明するため、過去の事実に遡るための手段が重要であるとの立場から研究してきた。遡って事実の解明ができるならば、不正抑止にもなり得るからだ。</p><p>本稿では、事実の定義、文書管理機能、改ざん防止機能の三点から考察し検討を加えた。特に、第一項の「事実の定義」は核心部分であり、簡便に事実から情報の形に生成し、事実に関係付けられる情報同士を相互参照することで、疑惑や不正の因果関係を検証することができるようにするものである。第二項は定義された事実を情報として保存する文書管理機能のことを示す。特に、文書保存ができれば十分な機能であるが、象徴的な意味でGitという名称を用い、Gitのトランスペアレント(透明)で文書の加筆訂正などの更新や削除などバージョン毎の相互参照性可能なモデルの機能のことを意味する。また、第三項は改ざん防止機能であり、情報セキュリティを守ると根幹部分を示す。ここでは、他にも類似するモデルは多く存在するけれど、いろいろな実装が進んでいるためブロックチェーンの実装を使う場合を想定して議論する。文書改ざん防止機能を果たすものには、他にもブロックチェーンの源流のマークルツリー[7]などモデルが多く存在する。以上の三機能から文書管理の仕組みを構築できる。</p>
著者
村上 康二郎
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.28-47, 2022-12-15 (Released:2022-12-23)

アメリカでは、プライバシー権の根拠について、信認義務説またはPrivacy as Trust論と称される学説が有力に主張されるようになっており、我が国の学説にも影響を与えるようになっている。もっとも、信認義務説については、アメリカにおいても批判がなされているし、日米の制度的背景の相違から日本への導入について批判的な見解も存在する。そのため、アメリカの信認義務説を日本に導入することの是非については、日米の制度的背景の相違を踏まえた慎重な検討が必要である。本稿は、現時点において、アメリカの信認義務説をそのまま我が国に導入するのは難しいという立場に立つものである。むしろ、信認義務説からどのような示唆を獲得するのかということが重要である。特に、プライバシー権の根拠について、我が国では、多元的根拠論が有力化してきているが、この多元的根拠論に対して、信認義務説は有益な示唆を与えてくれるものと考えられる。
著者
渡邊 卓也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24352039)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.16-29, 2020

<p>不正指令電磁的記録に関する罪(刑法19章の2)は、サイバー犯罪条約の要請により、コンピュータウィルスによる被害を防止してプログラムに対する信頼を保護し、情報処理の円滑な機能を維持するために導入された。その客体は、コンピュータを使用者の「意図」のとおりに動作させない「不正な指令を与える電磁的記録」と定義されるが(刑法168条の2第1項1号)、反「意図」性を如何なる基準によって判断すべきかは、必ずしも明らかではない。</p><p>そこで、反意図性要件の意義について、近時の判例を参照しつつ論じた。具体的には、仮想通貨のマイニングを実行するために設置されたコードにつき反意図性が争われた、コインハイブ事件が対象である。同罪の立法経緯や罪質に鑑みれば、規範的観点からみた許容性こそが判断の本質である。判例の示した抽象的な基準はともかく、具体的な判断には問題があり、これを解決するためには立法による対処が望ましい。</p>
著者
郭 薇
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.167-183, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

従来の法情報学は、法実務や法学教育を支える情報群を対象としてきたが、メディア報道やネット言説など公共圏における法情報のあり方についての検討を積極的にしてきたわけではない。本稿では、法にかかわる情報が用いられる多様な文脈に着目し、法情報学の可能性を検討する。まず、近時日本の刑事立法を事例に、法情報が大衆化することとの意味とその問題点について検討を行う。次に、実証的な法学研究の成果を踏まえたうえで、社会にとっての法情報の意義を考察する。最後に、法情報の社会効果に関する研究を発展させるため、法情報を分類し、法情報学の課題を再考する。
著者
数永 信徳
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.134-152, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

ブロードバンドの普及や映像配信技術の進展による人々の視聴習慣の変化に対応するため、インターネットを活用した放送コンテンツの同時配信に期待が寄せられている。その一方で、放送コンテンツの同時配信については、同一のコンテンツであっても、著作権法上の課題から、放送と同じコンテンツを視聴できないことがあるという指摘がある。そこで、本稿では、IPマルチキャスト放送に著作隣接権(送信可能化権)の制限が認められる著作権法の法的解釈と実務上の運用実態を再検証し、放送コンテンツの同時配信への、レコード製作者等の著作隣接権の制限の適用の可否について考察していくこととする。はじめに、著作権法と放送法で異なる「放送」の定義について概観し、次に、IPマルチキャスト放送の法的位置付けについて確認していく。その上で、メディアを巡る新たな技術の進展との関係における著作権法上の課題について、「時間」、「空間」、「内容」の要素に分けて、法制度と実務上の運用実態について分析を行っていく。
著者
栁川 鋭士
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.47-63, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

改正された道路交通法及び道路運送車両法並びに保安基準が2020年4月1日に施行され、日本において、いわゆるレベル3の自動運転車の公道での実用化が法律上可能となった。レベル3の自動運転車の事故における民事裁判においては、事故発生時の運転状況を記録した証拠が特に重要となる。道路運送車両法は作動状態記録装置の設置を義務付けており、ドライブレコーダー、EDRと共に事故状況を再現するための重要な電子証拠となる。これらの電子証拠は、自動運転車の事故状況の立証において決定的に重要となり得ることから、証拠調べ手続における当該証拠の取扱い、とりわけ、その証拠の同一性及び正確な再現性の確保が必要である。そこで、本稿では、刑事訴訟における「証拠の関連性」概念を参考にして、民事訴訟においても、「証拠の関連性」概念による裁判所の裁量規制(考慮要素の提示)を行うことによって、適正な事実認定が確保されることを提唱する。
著者
時井 真
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.153-166, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

特許進歩性の判断においては、①主引用例を提出し請求項発明と主引用例の間の相違点を認定した上で(第一ステップ)、次いで②当業者が請求項発明を容易に想到することができたかという手順を経る(第二ステップ)。現在、ITや検索エンジンの進展により急速に引用例検索技術が進展して第一ステップの難度が下がり、その結果、相対的に第二ステップの判断の重要性が増している。本稿の第一の目的は、第二ステップの判断の主役の一つである「示唆」の概念の現況を、直近の裁判例から明らかにすることにある。その結果、日本の裁判例では、従来技術に主引用例と副引用例を結びつけ請求項発明を想到する動機付けとなる示唆以外に、逆に引用例と副引用例との結びつきを妨げ、動機付けを否定する逆示唆の裁判例が多数存在することが判明した。最後に補論としてこの第二ステップ(示唆及び逆示唆)と情報ネットワーク社会との関係についても若干考察した。