著者
黒川 みどり
出版者
愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教育学研究科 共同教科開発学専攻
雑誌
教科開発学論集 = Studies in subject development (ISSN:21877327)
巻号頁・発行日
no.1, pp.113-121, 2013

日本学術会議(Science Council of Japan)が出した提言「新しい高校地理・歴史教育創造―グローバル化に即応した時空間認識の育成」は、2006 年に発覚した世界史未履修問題に端を発し、「グローバル化」に対応すべく「歴史を考える力」をいかに育てるかということに焦点が充てられている。「提言」、そしてそれを受けて活発化している歴史教育をめぐる議論では、即自的に「思考力」の証を求める傾向が強いが、思考力をより高めるための「知」を、いかに良質かつ豊富なものにするかというところに発想を転換することも必要なのではないかと私は考える。したがって、大部かつ詳細な「提言」のなかから、それが最も批判の中心に据える「知識詰め込み型」という教授法のあり方の問題と、教授する内容―教科書の問題の主として2点に絞りながら、教員養成に携わる立場から歴史教育のありようを考え、ひいては歴史学を拠点に教科開発の意味を展望する。「知」の原点に立ち返り、「知識」と「思考力」を対置させるのではなく、両者は本来一体であることに意を払うべきであり、本稿は、その点を中心に据えて、教科開発という枠組みのなかで再度歴史教育のありようを問い直そうとする試みである。
著者
尾形 和男
出版者
愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教育学研究科 共同教科開発学専攻
雑誌
教科開発学論集 = Studies in subject development (ISSN:21877327)
巻号頁・発行日
no.1, pp.19-32, 2013

中学生における家庭の夫婦関係が家族の目標構造、生徒の達成目標志向、学習方略、学習コンピテンスに及ぼす影響に関する研究 本研究は中学生の家庭の夫婦関係が家族の目標構造、生徒の達成目標志向、学習方略、学習コンピテンスにどの様な効果を及ぼすのかと言うことについて分析を加えた。244 名の大学生に、中学時代のことについて質問紙により調査した。質問内容は中学時代の「父親と母親の関係」、「家族の目標構造」、「達成目標志向」、「学習方略」、「学習コンピテンス」からなる。パス解析の結果、夫婦関係の良好な家庭では、「学習への取り組み方の重視」する家庭の目標構造が強まり、それが達成目標志向である「マスタリー型」を増加させ学習コンピテンスの「学習の効率化」を促進させていた。また、同時に「学習への取り組み方の重視」は学習方略の「深い処理の方略」を増加させ学習コンピテンスの「学習の効率化」と「勉強と学校適応」を促進していることが示され、正の影響が多く確認された。しかし一方、夫婦関係が良くない家庭では夫婦関係が学習コンピテンスの「得意科目」を減少させることが示された。また、夫婦関係からは家庭の目標構造を形成することがなく、家庭の目標構造から負の影響が多く存在する傾向があることも示された。The purpose of this study is to investigate the effect of marital relationship on family goal structure, personal achievement goal orientations, learning strategies and learning competences in junior high school students. 244 university students completed questionnaires about their father and mother relationships, family goal structure, achievement goal structures, learning strategies and learning competences in their own junior high school course. Path analysis revealed that the good marital relationship brought influence on effective learning competences beyond the marital relationship which is not good. In especially marital relationship which is good increased the family goal structure, achievement goal structures, learning strategies and learning competences. The marital relationship which is not good didn't have effective family goal structures but had tendency to decrease learning competences.
著者
山田 智
出版者
愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教育学研究科 共同教科開発学専攻
雑誌
教科開発学論集 = Studies in subject development (ISSN:21877327)
巻号頁・発行日
no.1, pp.123-131, 2013

近年教育を巡る議論が盛んである。中でも歴史教育を巡る議論が様々な形で深められている。成田龍一氏の『近現代日本史と歴史学』はこの分野での最も刺激的な業績のひとつである。そこで本書の検討を通じて歴史教育についての私見を述べたいと思う。成田氏は日本の近代歴史学を3 つの時期に区分し、日本の歴史教科書はそのうち最も古い部分に規定されているとする。彼はこのような現状を批判的にとらえているが、私は過去の歴史学の問題意識が現在の歴史教育にも充分に意義を持っていると考える。なぜならば、現在の日本が直面している諸問題は、60年前の日本の歴史学が直面した諸問題と様々な面で共通しているからである。歴史教育と歴史学との協力が求められている中で、歴史教育は、歴史研究が蓄積した過去の問題意識の意味を正確に理解したうえで、これを教育に反映する必要がある。そのためには、教員養成課程での学術的な経験が不可欠である。Who teaches History? - Possibility of the history research in education in history Recent days, education has been actively. Above all, discussion on historical education has been deepened. Ryuichi Narita's "KINGENDAI-NIHONSHI TO REKISHIGAKU" is one of the most thought-provoking work in this field. In this paper, I re-consider his study and state my own view about this problem. Narita divides Japan's modern history research into three periods and points out that the Japanese history textbook is specified to research of the first stage. He criticizes such present situation. However, I think that an old awareness of the issues of the first stage has a meaning still nowadays. This is because that the problems of Japan what we face now has much in common with that in 60 years ago. While cooperation with education in history and history research is called for, the education in history fully needs to understand the meaning of an old awareness of the issues which history research has accumulated, and it needs to be reflected in education. For that purpose, the academic experience in a teacher training course is indispensable.