著者
金 光林
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.56, pp.9-16, 2020-06

筆者は東アジアの姓氏の発生と変遷過程についてこれまで研究を進めてきた。この研究をさらに発展させる形で、今回は東アジアの族譜の形成と発展についてまとめた。 本稿においては、先行研究の成果を踏まえながら、中国・朝鮮・日本の族譜(系図)の形成と発展の過程を辿り、中国族譜の編纂目的・体制(形式)・機能について調べ、中国と韓国・朝鮮の族譜の数と所蔵状況について確認した。そして膨大に残されている族譜が現代の研究資料としてはどういう価値を持ち、そこからどういう学問的成果が期待できるのか、という問題について考えてみた。 族譜は膨大な数の資料を残しながら、従来、この資料を対象にした研究が活発には行われなかった。それは族譜が収録された個々人の家族・宗族関係、出生、死亡などの私的な記録に偏り、膨大の資料の割には社会との関連で活用できる情報が乏しいこと、現存する族譜は中国でも、朝鮮でも近代初期に編纂されたものが多数であり、事実関係に信憑性が足りないものも多く、文献として活用する場合慎重な扱いが必要であり、族譜の編纂目的、それの持つ機能が現代社会の価値観にあまりなじまないということが族譜を対象とした研究が振るわない原因だと考えられる。そのために、族譜は歴史研究においては補助資料として活用されるに留まっていた。しかし、族譜に対して、新しい視点と多様な方法を持ち込むことで新たな学問的成果が期待できるようになった。
著者
沼岡 努 NUMAOKA Tsutomu
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-18, 2018-02

本稿の考察の対象は、合衆国南部アンティベラム時代の農村社会におけるいわゆる「中間層」にある。その大半をヨーマンリーが占めたことから、考察の中心はヨーマンとなる。アメリカ史における「中間層」およびヨーマンリーの定義、歴史的役割に関してはいまだに議論が多い。そこでこの小論では先ず「中間層」の中で数的優位を占めたヨーマンリーの研究史的回顧を試みた。ヨーマンの定義を耕地面積および奴隷数の観点からおさえた後に、実際のヨーマンの生活実態および彼らの経済活動を考察した。ヨーマンの生活は質素ではあったが困窮をきわめる程ではなく、作物栽培と家畜飼育を基軸とする自給自足的な経済的営みであった。剰余作物が出た際彼らは外界との接触、特にプランターとの取引をおこなった。ヨーマンは作物の生産、収穫物の処理等、様々な点で普段からプランターにある程度依存し、また協力を求めたが、一方のプランターも不足しがちな生活食糧を購入することができ、基本的には相互補完・協力関係を形成した。また、ヨーマンの中にはプランテーション経営の中核的役割を果たす奴隷監督に就く者もいた。この意味で南部ヨーマンのプランテーション社会における存在価値は高かったといえる。だがその反面、「中間層」に属する小売商人、酒場経営者たちの奴隷との非合法的取引はプランターの不安・恐怖の原因となり、地域コミュニティーにかなりの影響を与えた。
著者
星野 三喜夫
出版者
新潟産業大学東アジア経済文化研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.40, pp.35-60, 2012-07

かつてアジア太平洋の経済協力フォーラムのAPECを立ち上げ、以降、アジア太平洋のリーダーを自負している日本が、この地域の経済秩序のルール作りに加わらないという選択肢はあり得ない。日本のTPP参加は、現在の日本の閉塞状況を打破し、経済再生を図る好機であり、できるだけ早く行うべきである。レベルが高く包括的な自由貿易協定のTPPへの参加は、投資分野における紛争解決手続きであるISDS条項や日本の農業問題もあり、確かにチャレンジであるが、日本は長期的な視点で将来を展望しTPPに参加して、そのメリットを享受すべきである。参加交渉やルール作りのプロセスでは他の参加国とのシビアな交渉が待ち受けているであろう。そのためには、TPPの正しい理解と正確な情報の下に、日本はその立ち位置を定め、TPP参加の意義やメリット・デメリット、守るべき点・譲っていい点、もたらされる影響等を整理し、それを国民に丁寧に説明した上で国内での意思を強固にして、確固不抜の戦略を立ててしっかりとした戦術で関係国との交渉に臨み、日本を有利に導くことが望まれる。
著者
片岡 直樹 KATAOKA Naoki
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.33-47, 2017-07

日本における乾漆像には脱活乾漆像と木心乾漆像の2種類がある。このうち脱活乾漆像は中国(唐)からもたらされた技法によるもので、7世紀半ばから8世紀(白鳳時代~天平時代)にかけてつくられた。木心乾漆像は日本独自のもので、8世紀末から9世紀初頭(天平時代末期~平安時代初頭)につくられた。本稿では日本の乾漆像の主要な作例について、その成立過程と制作技法を紹介するとともに、中国・韓国の作例との比較を通して若干の私見を述べることにしたい。
著者
小林 健彦
出版者
新潟産業大学附属研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.39, pp.45-60, 2011-06

日本列島の中では、文献史資料に依って確認を取ることが可能な古代以降の時期に限定してみても、幾多の自然災害―気象災害、津波や地震災害、、火山噴火、伝染病の蔓延等―に見舞われ、その度に住民等を苦しめて来た。現在の新潟県域に該当する地域に於いても、当該地域特有の気象条件より齎される雪害を始めとして、大風、大雨、洪水、旱魃、地震、津波、火山噴火、そして疫病の流行といった災害が発生当時の民衆に襲い懸っていた。しかし、民衆はそれらの災害を乗り越えながら現在に続く地域社会を形成し、維持して来たのである。日本人に依る地域社会の形成は、災害に依る被害とその克服の歴史であると言っても差し支えは無いであろう。筆者は従前より、当時の人々がこうした災害を如何にして乗り越えて来たのかという、「災害対処の文化史」を構築するのに際し、近年自然災害が頻発している現在の新潟県域を具体的な研究対象地域として取り上げながら、その検証作業を行っている処である。本稿では、平安時代より鎌倉時代にかけての時期に発生し、当該地域に甚大な被害を齎したとされる、「謎の巨大地震」に関して、文献史学の分野より接近可能な事象に就いて、その事例検証と、当時の人々に依る対処法とに就いて、検討を加えたものである。
著者
小林 健彦
出版者
新潟産業大学附属研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.39, pp.45-60, 2011-06

日本列島の中では、文献史資料に依って確認を取ることが可能な古代以降の時期に限定してみても、幾多の自然災害―気象災害、津波や地震災害、、火山噴火、伝染病の蔓延等―に見舞われ、その度に住民等を苦しめて来た。現在の新潟県域に該当する地域に於いても、当該地域特有の気象条件より齎される雪害を始めとして、大風、大雨、洪水、旱魃、地震、津波、火山噴火、そして疫病の流行といった災害が発生当時の民衆に襲い懸っていた。しかし、民衆はそれらの災害を乗り越えながら現在に続く地域社会を形成し、維持して来たのである。日本人に依る地域社会の形成は、災害に依る被害とその克服の歴史であると言っても差し支えは無いであろう。筆者は従前より、当時の人々がこうした災害を如何にして乗り越えて来たのかという、「災害対処の文化史」を構築するのに際し、近年自然災害が頻発している現在の新潟県域を具体的な研究対象地域として取り上げながら、その検証作業を行っている処である。本稿では、平安時代より鎌倉時代にかけての時期に発生し、当該地域に甚大な被害を齎したとされる、「謎の巨大地震」に関して、文献史学の分野より接近可能な事象に就いて、その事例検証と、当時の人々に依る対処法とに就いて、検討を加えたものである。
著者
星野 三喜夫 HOSHINO Mikio
出版者
新潟産業大学附属東アジア経済文化研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.42, pp.1-18, 2013-06

2年半に亘り国内で議論されてきたTPP交渉への日本の参加が確実になった。TPPはアジア太平洋自由貿易圏構築に向けた多国間通商秩序であり、参加が遅れたにしろ、世界経済規模第3位の日本がこのルール作りに加わる意義は大きい。交渉参加に先立つ日米事前合意において途中参加の日本は「参加料」を払わざると得なかったという側面もあり、TPP交渉プロセスにおいて困難が予想され、日本外交の実力が試される。日本はTPPの戦略的重要性や日本のTPP参加の意義を再確認し、確固不抜の戦略と戦術をもって利害や主張が対立するTPP交渉に臨むことが望まれる。
著者
小峯 敦
出版者
新潟産業大学
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.105-128, 1999

本稿の目的は,「政策におけるケインズ革命の意義」に1つの解釈・解答を与えることにある。そのために,まずケインズの理論・政策・実際へのインパクトの三者の関係が整理される。考慮される期間は1910年代中盤から1932年頃である。結論として,政策におけるケインズ革命は確かに存在したと主張する。ただしここでの「革命」は,特に大蔵省などの政策担当者が,ケインズの理論と思考を意識(対抗)せざるを得なかった,という意味である。イギリスでは1920年代初頭から20年の年月を経て管理経済が徐々に浸透した。ケインズは管理経済の理論的基盤を整備し,しかも政策提言という形でその理論の説得を行い,政策の実現に腐心した。理論と実践の相乗効果で,経済の管理化は1920年代以降,無視し得なくなった。ケインズの影響力は(政策提言が実現しなかったとしても)極めて大きかった。この意味で,政策と思考におけるケインズ革命は20年余の歳月をかけて完成したと言うことができる。第1部は『インドの通貨と金融』から金本位制の復帰問題までを扱う。ケインズは危機意識(イギリスの衰退)と使命感(経済の制御で厚生増大)を終生持続した。第2部は失業対策からケインズ革命までを扱う。ケインズの管理経済という新しい学説に批判されて,大蔵省の「財政正統説」やイングランド銀行の「金融正統説」が妥当性を失っていった。
著者
小林 健彦 Kobayashi Takehiko
出版者
新潟産業大学附属研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.38, pp.57-73, 2010-06

日本列島の中では、文献史資料に依って確認を取ることが可能な古代以降の時期に限定してみても、幾多の自然災害―気象災害、津波や地震災害、伝染病の蔓延等―に見舞われ、その度に住民等を苦しめて来た。現在の新潟県域に該当する地域に於いても、当該地域特有の気象条件より齎される雪害を始めとして、大風、大雨、洪水、旱魃、地震、津波、火山噴火、そして疫病の流行といった災害が発生当時の民衆に襲い懸かっていた。しかし、民衆はそれらの災害を乗り越えながら現在に続く地域社会を形成して来たのである。筆者は、従前より、当時の人々がこうした災害を如何にして乗り越えて来たのかという、「災害対処の文化史」を構築するのに際し、近年自然災害が頻発している新潟県域を具体的研究対象地域として取り上げながら、その検証作業を行なっているところである。本稿では、前稿に引き続き、室町時代の中期以降、中世後半期に至る事例の検出と、民衆に依る災害対処の手法とに就いて、更に検証作業を進めた内容を明らかにするものである。