著者
児玉 龍彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL7, 2021 (Released:2021-08-12)

新型コロナウィルスは1年で3万塩基の配列のうち24箇所程度に変異を起こす。比較的安定的なRNAウィルスである。3ヶ月程度ごとに新たな変異を持つウィルスが選択され、感染者数が上昇し、自壊するように下降する波を描く。 こうした周期性を生み出すメカニズムとして、一定の変異は自然に起こっているが、選択は、分子レベル、ホストの免疫、社会的な隔離や治療、動物との人獣共通感染などの相互作用のマルチスケールフィードバックが想定され、数年のうちにパンデミックは終息することが期待されている。 問題は、波のたびにエピセンター(震源地)でbasic cladeと呼ばれる比較的安定な起源となるウィルスの保因者が増え、そこから変異株が生み出されていくことにある。特に問題となるのは、感受性を抑え終息を加速化させるワクチンへの抵抗性のウィルスが増大することである。 周期性を生み出すマルチスケールのフィードバックのメカニズムから見たコロナウィルスの終息への対応策を考えたい。
著者
児玉 龍彦
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.156-160, 2018-02-20 (Released:2019-02-20)
参考文献数
7

遠藤 章博士によるスタチンの発明は,人類史上はじめてコレステロール合成の本格的な制御を可能にし,肝臓やマクロファージをはじめとするヒトの細胞におけるコレステロール代謝の解析が大きく進み,メガスタディによる動脈硬化の予防の実証を可能にした.そのインパクトは20世紀の世界の医薬品開発と臨床医学を大きく変えた.年1兆円以上のブロックバスターを生み出し,グローバルなメガファーマの成立をうながした.だが,スタチンの影響はそれにとどまらない.コレステロールのメガスタディの評価は新たな論争を生み出し,単純化した標準治療や,コレステロールをはじめとする脂肪制限の栄養学には大きな批判も生まれている.スタチンの多面的作用の検討から,人体内の神経,血管,骨免疫系などにおける膜脂質とベシクル輸送におけるコレステロールのシグナル分子としての役割を明らかになりつつある.遠藤章博士のスタチンの発見は,医学薬学のパンドラの箱をあけ,21世紀の生命情報科学の創成をうながしている.
著者
児玉 龍彦
出版者
The Japanese Society for Lymphoreticular Tissue Research
雑誌
日本リンパ網内系学会会誌 (ISSN:13429248)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5-6, pp.261-269, 1999-01-30 (Released:2009-10-30)
参考文献数
39

A hallmark of atherosclerosis is the deposition of plasma cholesterol in atherosclerotic plaques in arterial walls. Key cellular components of atherosclerotic plaques are foam cells, which are derived from monocytes-macrophages. In order to elucidate the molecular mechanism of foam cell formation, we cloned and characterized cDNA for type I and II MSR. Type I and II MSR can bind an extraordinary wide range of ligands using its “charged collagen structure”, including modified low density lipoproteins (mLDL) and bacterial pathogens. MSR also mediates phagocytosis of apoptotic cells and cation-independent macrophage adhesion in vitro. Targeted disruption of type I and II MSR gene in mice results in a marked reduction in the size of atherosclerotic lesions in an animal deficient in apolipoprotein E. Macrophages from type I and II MSR deficient mice show a marked decrease in mLDL degradation activity in vitro, whereas mLDL clearance from the plasma occurs at a normal rate. In addition, type I and II MSR-knockout mice show an increased susceptibility to infection with Listeria monocytogenes or herpes simplex virus type I, indicating that type I and II MSR may play a part in host defense against pathogens.