著者
益田 義賀
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.323-331, 1996-05-05

ここに古ぼけた一枚の写真がある(図1). 1954年7月3日付の読売新聞の複写である. "第二群像"という特集記事で, 「汗ダクで零下273度を創る」と題して「東北大学金属材料研究所極超低温グループがクロムカリ明バンの断熱消磁によって, この世ならぬ極超低温の異常世界で起こる興味深いいろんな珍現象を追及しはじめた.」と面白おかしく報じている. 日本の新聞記事に絶対零度が現れたのは, おそらくこれが最初であろう. 写真には, 日本の低温物理を背負って立つことになる, 30歳になるやならずの連中の顔が並んでいる. 日本の低温研究の夜明けである.
著者
浅井 祥仁
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.813-820, 2011-11-05
被引用文献数
2

ヒックス粒子と,標準理論を超える新しい素粒子現象の発見を目指してLHC(Large Hadron Collider)実験が始まった.この一年で加速器が順調に調整され,毎日10〜20pb^<-1>のデータが蓄積されるようになってきた.様々な成果のうち,テラスケールでのQCD研究,W/Zゲージ粒子の研究,超対称性・暗黒物質に対する新しい知見やヒッグス粒子探索を中心に2010年の実験成果をまとめる.LHCは順調に稼働しており,ヒッグス粒子や超対称性など,これから暫く目が離せない.
著者
上田 和夫 常次 宏一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.704-712, 1993-09-05

セリウム,アクチノイドの金属化合物で強い電子相関によって生じる重い電子系は,固体物理の中心課題の一つです.重い準粒子を舞台に磁性,超伝導,励起ギャップの出現など実に多様な現象が繰り広げられています.最近,重い電子系の基礎的モデルである近藤格子について,1次元の基底状態相図が明らかになりました.1次元とはいえ,既に個性豊かな種々相が登場し,重い電子系の多様性を垣間見ることが出来ます.
著者
宅間 宏
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, 2005-08-05
著者
肥山 詠美子 木野 康志 上村 正康
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.27-35, 2006-01-05
被引用文献数
2

物理学には, 数値計算上「少数粒子系のシュレーディンガー方程式を精密に解くこと」に帰着する課題が多い.これにより新しい物理的知見が得られる場合もある.この目的に役立つであろう方法の1つとして, 筆者らが提唱し発展させてきたガウス関数展開法を解説する.すべてのヤコビ座標のセットを用い, 各座標のガウス関数の積を基底関数(等比数列レンジ)として全系のハミルトニアンを対角化し固有関数を得る.これにより, 関数空間を十分広く取ることができ, 種々の物理的状況に精度よく対応できる.得られた固有関数を活用して, 散乱状態をも解くことができる.普遍性の高い解法であり, 原子分子からクオーク系の計算にまで適用されてきた.個々の技法の中には, 他の課題にも利用できるものもあろう.
著者
藤川 和男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.685-692, 1986-09-05
被引用文献数
2

無限個の自由度を扱う場の理論においては, 古典的な対称性が必ずしも量子化した理論では保たれず, いわゆる量子異常 (アノマリー) 現象が生ずる. この現象は一方では場の理論が持つ新しい可能性とか物理的内容を意味しており, 他方では基本的な対称性 (例えばアインシュタインの一般座標変換) が量子論では破れるといった結果にも導く.
著者
仁科 伸彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.309-314, 1992-04-05
著者
竹内 一将
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.599-607, 2015-08-05

To be, or not to be, that is the question. -ハムレットに登場するこの有名な台詞は,父の仇討という後戻りできない選択に葛藤するハムレットの苦悩を描いたものである.ここまで複雑な状況は珍しいかもしれないが,後戻りができない変化というものは,自然現象においても様々な場面で起こりうる.例えば,近年よく耳にする生物種の絶滅危惧問題は,ひとたび絶滅してしまえば,その種はもう二度と現れないからこそ,大きな問題になる.物理学においても,低温の量子流体における量子渦や,連鎖的超新星爆発による銀河の星形成のモデルなど,一旦なくなったり止まったりするとなかなか元の状態に戻らなくなる現象は珍しくない.一般に,「一度入ったら二度と出られない状態」は吸収状態と呼ばれる.先程の生物種の例では,個体が一匹もいなくなった状態が吸収状態である.こうしてみると,環境などのパラメータが変わることで引き起こされる,絶滅するか否かという命運の変化は,吸収状態に落ちるか落ちないかという,一種の相転移だと考えられる.このような吸収状態転移は,統計力学,特に非平衡の統計力学の対象として長らく研究が続けられてきた.そして,少なくとも単純な理論的設定の下では,様々なモデルが普遍的な非平衡臨界現象を示すことが明らかになった.Directed Percolation(DP,異方的浸透現象)普遍クラスと呼ばれるこの臨界現象は,最も基本的な非平衡相転移として理論的に深く理解されており,高エネルギー物理におけるRegge極の場の理論とも直接の対応関係を持つ.一方,実験的には,DP臨界現象の十分な証拠は長らく見つからなかったのだが,著者らは2007年,液晶の乱流状態において,DPクラスの臨界現象が明瞭に現れることを発見した.DP臨界現象が実験的に確認されたという事実が意味するのは,それが理想的な条件下のみで現れる理論的産物ではなく,現実の非平衡現象を記述する力を持っているということである.現に,近年になって,流体における層流-乱流転移や,コロイド,超伝導渦の運動の可逆性に関する相転移など,いくつかの具体的な現象と吸収状態転移との関わりが実験的にも明らかになってきた.本解説記事では,液晶乱流における実験事実の紹介を軸として,吸収状態転移,特にDPクラスがどのようなものかを概観する.非平衡臨界現象の理論の一般的枠組みや,DPとRegge極の場の理論との関わりについても簡単に触れ,それがどのような実験事実で検証されたかを述べる.そのうえで,流体系やコロイド,超伝導渦などで吸収状態転移がいかに現れるか,近年の実験的進展も紹介する.非平衡系を構成する多数の自由度が「生きるか,死ぬか」.その狭間には,非平衡臨界現象の興味深い物理学があるということを感じて頂ければ幸いである.
著者
藤 博之
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.801-809, 2013-12-05

結び目のJones多項式とChern-Simonsゲージ理論との関係が明らかとなって以来,量子場の理論は結び目不変量の研究にしばしば影響をもたらしてきた.特にここ10年の進展では,結び目不変量の研究においては「圏化」と呼ばれる概念が導入され,新たなクラスの結び目不変量が発見されており,一方理論物理学では弦理論において「D-ブレーン」の概念が導入され,結び目不変量に対する物理的理解がより深まっている.近年ではこれらの観点を融合し,結び目不変量の圏化によって得られた結び目不変量を統一的に取り扱う枠組みの研究が進展を遂げ,興味深い結果が得られてきた.本稿では,これらの研究に関する進展の概要を紹介する.