著者
河盛 阿佐子
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.368-375, 1992-05-05

光エネルギーによる葉緑体のチラコイド膜上の電荷分離に続く電荷移動は, 電子スピン共鳴で微視的過程を追いかける格好の対象である. 筆者がこの複雑な生体系の研究に着手し, 暗中模索した1980年当初から考えると, いまはこの系が研究材料の宝庫であることを確信するに到った. 電荷の担い手はクロロフィル・ラジカルなどタンパク質に含まれるフリーラジカルや, マンガンなどの遷移金属元素であるが, 観測にかかるスペクトルは実に様々な情報をもたらす, その解読は物性物理の問題を解くことであるが, この種の謎解きの面白さはこの分野がかなり解明されてきた現在でもまだ暫く続くだろう.
著者
柳 哲文 中尾 憲一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.37-43, 2012-01-05

宇宙原理は現代宇宙論の根幹となる作業仮説であり,その観測的検証は観測的宇宙論において最も大きな挑戦の一つといえるだろう.本稿ではIa型超新星の距離-赤方偏移関係,CMB観測,赤方偏移ドリフトなどを用いた宇宙原理の観測的検証に関する最近の研究について報告する.近年の観測技術の発展は宇宙原理の観測的検証を可能にしつつあり,それゆえ,宇宙原理を前提としない宇宙モデル,すなわち非一様な宇宙モデルの理論的な研究が重要になってきた.このような宇宙モデルにおける観測量について簡単に解説しながら,これまでに得られた制限と将来の展望について報告する.
著者
池内 了
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.865-872, 1992-11-05

観測された事象を基に宇宙の年齢や平均密度など, この宇宙の基本パラメータを決めようとする観測的宇宙論が急進展している. その一つの重要な目標は, 銀河というこの宇宙を構成する基本単位と, その大規模な分布がいつ形成され, どのように進化してきたかを明らかにすることである. そのためには, より遠くの, 従ってより過去の銀河を見つけ出し, 年齢順に並べてゆくことが必要である. 現在はまだ点の情報で, 全体の進化を論じうる線の情報や, 大スケールの構造を調べうる面の情報にはなっていないが, 宇宙の過去の情報が垣間見えるようになってきた. それらをまとめつつ, どのような宇宙進化のシナリオが構想されるかを考えてみよう.
著者
片山 伸彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.658-665, 2006-09-05
被引用文献数
2

物質を支配する法則と反物質を支配する法則に違いがあれば,元々は物質と反物質が同量だけあった初期宇宙から出発して現在の宇宙に物質のみが残っている事実を説明できる可能性がある.一方,素粒子に働く弱い力が「物質と反物質の物理の対称性」を破っていることが1964年,中性Kメソンを使った実験で発見された.以来40年以上,素粒子物理学者は宇宙創成の謎を解く鍵ともいえるこの対称性の破れの起源を解明するべくさまざまな理論を提案し実験を行ってきたのである.茨城県っくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)では,世界最高の輝度を誇る電子・陽電子衝突型加速器(KEKB Bファクトリー)を用いて,2番目に重いクォークであるbクォークを大量に作り出し,bクォークを含む系における「物質と反物質の物理の非対称性」を発見した.これにより,物質と反物質の対称性の破れの起源として,1973年に6クォーク模型を提唱した小林-益川理論の予言が検証されたのである.本解説では,最近のBファクトリー実験の成果を中心に対称性の破れの研究の歴史を振り返り,この分野の将来計画についても概観する.
著者
久米 潔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.360-365, 1994-05-05

磁気共鳴は誕生以来来年で50周年を迎える.この解説では,筆者のグループで実際に携わってきたいろいろな実験の中から,物理として面白そうな実例をあげて,磁気共鳴の物性研究に果たした役割について,考えてみることにしたい.
著者
竹内 繁樹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.263-273, 1999-04-05
被引用文献数
2

「量子計算」という言葉を耳にした方も多くなってきたのではないでしょうか. しかし, 「重ねあわせ状態を維持して計算を行う」という説明には「重ねあわせ状態なんてすぐに壊れてしまう」という常識から, あるいは「観測によって波束を収縮させ」という言葉には怪しげな雰囲気を感じて, 今一つ疑念や近寄りかたさを感じていらっしゃるかもしれません. でも, ここで紹介するように, それらの問題への真正面からの取り組みがすでに始まっています. この稿では, 現時点でどのような実現の方法が考えられており, 実際どのような実験が行われているのかを紹介いたします. 今急速に立ち上がりつつあるこの分野の魅力を感じていただければ幸いです.
著者
小松 雅宏
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.189-192, 2012-03-05

ニュートリノ振動実験OPERAは2011年9月23日,ヨーロッパ合同原子核研究機構(CERN=セルン)にてニュートリノが光速よりも速いとする結果を公表した.CERNから照射されたニュートリノが730kmの距離にあるイタリアグランサッソ地下研究所(LNGS)に建設されたOPERA実験装置へ光速で予想されるよりも約60ナノ秒早く到達しているという結果を示すものであり,非常な驚きをもってむかえられた.本稿では2011年10月22日から11月6日まで行われたニュートリノ速度の測定に特化したビームによる結果も踏まえた概要を紹介する.