著者
石村 多門
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.636-644, 1999-08-05

いわゆる「構造主義」の思想的核心として, 「構造的因果性」なる概念を取り出すことができよう. それは, フランスの哲学者アルチュセールが提起した, 全く新しい因果概念である. 「因果性」という言葉で, 我々がまず真っ先に思いつくのは, 時間的先後関係によって因果性を捉える「継起的因果性」の観念であろうし, 少数の人は, 全体が部分を規定するという「全体的因果性」を思い浮かべるかもしれない. しかし, そうした因果観念は「非科学的」なものにすぎず, これらの観念に依拠して思索を進めている限り, 科学的認識を構築することはできない, というのがアルチュセールの主張であった. 本稿では, こうした挑戦的な企図に立った「構造的因果性」概念の意義について, これまで余り論じられてこなかった視角から敷延することに努めたい.
著者
井上 達也
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.814-817, 1995-10-05

人為的であれ自然現象に対してであれ,一般に設計はある要求条件に対しそれを充足するよう行われる.速くという条件に対し高速鉄道を設計したり,地震に耐えるという要求に橋梁の耐震設計を実施したりである.特に要求が自然現象に対してである場合,自然現象の詳細な特性把握が適切な設計を実施する上で重要であり,それが厳密性を有し正確であればあるほど要求に対する適合性或いは耐力の高い設計となる.原子炉の耐震設計も自然現象に対してであるからこれと同様であって,一連の設計の中で要求条件の特性把握に相当する"想定する地震の大きさの決定"が重要である.これを含め,わが国原子力発電所の耐震設計は,学者,専門家らによって策定された国の耐震設計審査指針によって設計されており,ここに紹介する原子炉の耐震性もそれをもとにした設計の考え方の紹介である."原子炉"と総称したが,具体的には原子炉建屋に入力する地震動の大きさ決定に説明の主眼を置いており,それを受けて建屋,原子炉本体などの順で実施する建物・機器の解析・設計についても言及している.なお,耐震設計技術指針が同設計審査指針を解説しており,背景,算定式,評価法が詳述されている.阪神・淡路大震災の発生により地震時の安全性に高い関心が寄せられている.関連して,原子炉の安全性は大変高いといわれているが,それは何故か.解説するよう依頼を受け説明を試みた.
著者
古田 彩
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.512-519, 2004-08-05
参考文献数
29
被引用文献数
1
著者
風間 洋一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.242-252, 2001-04-05
被引用文献数
1

自然界の統一理論の最有力候補である超弦理論は,異なる様相を持った理論間をつなぐ「双対性」と呼ばれる性質を梃子として,1995年頃から新たな飛躍的発展段階に入った.この新時代のパラダイム的役割を果たしているのが,「M理論」と呼ばれる超弦理論自体の統一の構図である.本稿では,この謎めいた名称を冠された,まだ未発達ではあるが野心的な理論の生誕と現状,及びその将来的課題を解説する.
著者
細谷 暁夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.286-290, 2004-05-05

ブラックホールの物理学と熱力学の間にほぼ完全な類似があることが知られている.ここでは,ブラックホール固有のエントロピーと通常の熱力学的エントロピーの和が常に増大するという,一般化された第2法則に対する簡単な証明を与える.さらに,一般化されたエントロピーの増え分は,ブラックホールの外で行われる量子操作による知識量よりも大きいことが示される.
著者
綿村 哲
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.756-762, 2000-10-05
被引用文献数
1

アインシュタインの一般相対性理論と場の量子論を統合する理論体系は,幾何学そのものの拡張を必要としているのか? 量子重力理論の最も有力な候補と思われている超弦理論の最近の発展に伴い,非可換空間または量子空間と呼ばれる拡張された"空間"が理論の中に自然に現れることが分かってきた.このことは,アインシュタイン理論におけるリーマン幾何学の役割を,量子重力においては非可換幾何学という体系で置き換えなければならないことを意味している.本稿では,非可換空間上の場の理論を見ながら,非可換幾何学とはどのようなものなのか,なぜそれを考える必要があるのかを解説する.
著者
戸田 盛和
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.729-732, 1971-10-05
著者
有馬 朗人
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.654-669, 1973-09-05

原子核の磁気モーメントについての研究は, 随分長い歴史があります. そこでの重要な発展の契機が理論実験を通じて, 日本で行なわれたものが多いことを誇らしく思っています. この小論で, 私は奇A核の磁気モーメントについて, 波動関数のわずかな配位混合の重要性を指摘します. しかもただやみくもに混ぜるのではなく, 多体問題的に言えばくりこみに類似の機構を考慮に入れることであることを指摘します. そして磁気モーメント以外にも同様の考慮の重要性を示します. これは堀江久氏と一緒に展開した理論です. 波動関数の変化という見方を離れ, 演算子を補正する形で見なおすと, 主としてg_sが変化し, 新たにg_p[Y^<(2)>s]^<(1)>という項が生じることを示します. このg_sの変化はきわめて重要で, 有効g_sは自由核子のg_sの半分になります. そしてM1-転移の実験で見事に証拠づけられます. それぞれ低いスピン状態ではこのような考慮だけで殆どすんでしまいますが, 高いスピン状態j&gsim;9/2の磁気モーメントでは宮沢氏が導入したダイメソニックスの影響によってg_lが5%〜10%増加することを考慮する必要性もあることについて述べ, あわせて最近の発達について論じたいと思います.
著者
磯部 〓三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.830-837, 1979-10-05

宇宙空間には, 一立方センチ当り10^<-13>個程度の固体微粒子(星間塵)がある. その存在に関する示唆は, すでに18世紀に暗黒星雲の実視観測からハーシェルによってなされていた. 光学観測が中心であった今世紀半ばまでの天文学においては, 星や散光星雲の光を背景にしてのみ星間塵の観測がなされていた. しかし, 近年の赤外線, 紫外線, 電波の観測により, 星間塵自身の諸性質およびそれを取り巻く環境がより細かく観測されるようになり, 星や太陽系の誕生等の問題に星間塵が重要な役割をはたしていることが判ってきた. ここでは, 星間塵に関する観測結果を列挙し, その組成の解明がどのように進んできたかを書いてみる.
著者
大場 一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, 2010-08-05
被引用文献数
1
著者
北島 正弘 長谷 宗明 Petek Hrvoje
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.888-892, 2004-12-05

フェムト秒レーザー技術の進歩により種々の物質でコヒーレントに励起された格子振動や分子振動を実時間領域で観測でぎるようになった.しかし,100 fs(1 fs=10^<-15>秒)以下に現れるコヒーレントフォノン生成のダイナミクスは未知の研究領域であり,光励起キャリアとフォノンの強い相互作用の観測が期待できる.我々は10 fsの超短パルスレーザーを用いることにより,シリコンのコヒーレントフォノンの発生,およびコヒーレントフォノンの発生前の信号の中から光励起キャリア系とフォノン系との結合によるファノ干渉を実時間で明確に観測することに成功した.その結果の詳細および物理的意義等について紹介する.
著者
中島 信一 長谷 宗明 溝口 幸司
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.607-611, 1998-08-05
被引用文献数
1

フェムト秒レーザーによって励起されたコヒーレントフォノンは, 時間領域で観測される位相の揃った原子の集団振動である. このコヒーレントフォノンの性質や, 発生メカニズム等については未知の部分も多い. 時間領域分光法は, 従来の振動分光法であるRaman散乱と比較して, フォノンのダイナミクスを調べる新しい研究手段として期待されている. 本稿ではフェムト秒時間領域のコヒーレントフォノンの振舞について述べる.
著者
北島 正弘 長谷 宗明 Petek Hrvoje
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.888-892, 2004-12-05
参考文献数
15

フェムト秒レーザー技術の進歩により種々の物質でコヒーレントに励起された格子振動や分子振動を実時間領域で観測でぎるようになった.しかし,100 fs(1 fs=10<SUP>-15</SUP>秒)以下に現れるコヒーレントフォノン生成のダイナミクスは未知の研究領域であり,光励起キャリアとフォノンの強い相互作用の観測が期待できる.我々は10 fsの超短パルスレーザーを用いることにより,シリコンのコヒーレントフォノンの発生,およびコヒーレントフォノンの発生前の信号の中から光励起キャリア系とフォノン系との結合によるファノ干渉を実時間で明確に観測することに成功した.その結果の詳細および物理的意義等について紹介する.