著者
浅井 尚輝 森本 弘一
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.155-162, 2012-07

デジタル機器が氾濫している私たちの現代生活は,その内部を知らなくても,機械が結果を表示してくれたものを何の疑いもなく利用している。我々は,構造を知らない「ブラックボックス」をわからないまま使っているのである。そこで,デジタル機器の自作デジタル体温計の教材化を行った。数学を使って測定値処理をさせることで,デジタル体温計の仕組みを理解する1つの方法を提案する。学校現場で使用することを考慮して材料は比較的安価なもの,工作の作業は簡単であること,使用の手順も簡便なものとした。温度センサーを回路に組み込み,標準温度計と共に水温を測定した。測定値は電圧で表示される。10個の測定した電圧値をコンピュータ処理すると,温度上昇に比例して電圧値が上がり,高い相関が得られた。この相関関係から回帰直線を作り,温度センサーで実際の体温を測定すると,水銀体温計の測定値に近い数値を示した。これよりデジタル体温計の仕組みと,数値処理で科学と数学の接点が得られる実験となった。また,別の温度センサーを使って追試してみた。上記と同様の相関が得られたため,比較実験が可能になると考える。この自作デジタル温度計を作成することで,子ども達は少しでもデジタル機器の構造の理解が深まることが期待される。学習指導案も提案している。
著者
廣木 義久 山崎 聡 平田 豊誠
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-56, 2011-07

砂の形成に関する小・中・大学生の理解を調査し,小・中学校における岩石の風化作用に関する学習の問題点を議論した。小学5学年の単元「流れる水のはたらき」の学習前の児童においては,砂の形成メカニズムに関する考えは極めて多様であるが,「流れる水のはたらき」の学習後は,侵食モデル(砂は川で石や岩が水流によって削れてできる)で説明する児童と,衝突モデル(砂は川で礫同士がぶつかり合って砕けてできる)で説明する児童が増加する(それぞれ29.9%,25.6%)。そして,中学校における単元「活きている地球」の学習後は,侵食モデルが52.5%と増加する一方,風化モデルで説明する生徒の割合は8.8%にとどまった。これらの結果から,侵食モデルと衝突モデルは小学5学年の「流れる水のはたらき」の学習で獲得され,侵食モデルは中学1年の風化・侵食作用の学習後に強化されていることがわかる。岩石の風化作用による砂の形成を理解させるための方策としては,中学校における岩石の風化作用の授業に土の学習を取り入れることが有効であると考えられる。
著者
川﨑 弘作 中山 貴司 松浦 拓也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.241-249, 2012-11

本研究では,振り子に関する子どもの認識を基盤とし,振り子の概念を獲得させるための学習指導法を考案することを目的とした。認識調査に基づき考案した学習指導法は,次の(1)〜(3)の3点に集約できる。(1)振り子の周期と「おもりの重さ」「振れ幅」「糸の長さ」の3条件との関係を,「速さ」と「移動距離」という視点から考えさせる,(2)振り子の始点と終点は同じ高さになることを提示する,(3)「おもりの重さ」によって「速さ」が変わらないことを提示する。そして,小学校第5学年の児童69名(実験群35名,統制群34名)を対象に,実験群には考案した学習指導法を,統制群には通常の学習指導を行った。振り子に関する概念調査を行った結果をもとに共分散分析を行ったところ,学習から2ヶ月後の概念調査時において実験群の方が統制群よりも得点が有意に上昇しているという結果を得た。以上のことから,本研究で考案した学習指導法は,獲得した概念の定着に有効であることが明らかになった。
著者
山谷 洋樹 鈴木 誠
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.359-368, 2012-11

本研究は,男女や地域による生命観の違いを明らかにすることを目的とする。筆者らが開発及び改良した生命観測定尺度を用いて,小学校6年生,中学校2年生を対象に,生命観を構成する生物概念及び生命概念の各下位概念に含まれる項目平均値を下位尺度得点として求めた。その結果,次のことが明らかとなった。1 生命観には男女間で,両学年の「アニミズム」「命」の数値は女子の方が男子に比べて有意に高く,都市部に住む中学校2年生並びに農村部に住む両学年で女子の方が男子に比べて「命」の数値は有意に高くなるという差がみられた。また,中学校2年生では,女子の方が男子に比べて有意に高い得点を示す下位概念の数が多くなるという差がみられた。2 生命観には地域間で,都市部の方が農村部に比べて有意に高い得点を示した下位概念を含む上位概念は,小学校6年生では生命概念であり,中学校2年生では生物概念であるという差が見られた。両学年の男子では,都市部の方が農村部に比べて「機械論」の数値が有意に高いという差がみられ,地域を取り巻く環境の差が要因になっていると考えられる。