著者
吉田 保志子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.390, 2005 (Released:2005-03-17)

鳥類による農作物被害では、カラス類によるものが面積でも量でも最大となっている。カラス類はゴミや作物の収穫くずなどの人為起源の食物を摂食することが知られており、個体群管理のためには、これら人為起源の食物のコントロールが重要と考えられるが、農村地域における生息密度や食物に関する情報は不足している。そこで本研究では、年間を通したカラス類の個体数と採餌物の変動を調べた。 茨城県南部の平地農業景観に5ヶ所に分けて総延長76kmの調査ルートを設定し、見通しの良さに応じてルートの両側各20から100mを調査範囲として、合計11.4km2を自転車で月1回調査した。調査においては、出現したハシブトガラスおよびハシボソガラス(以下ブト、ボソと称する)の個体数、行動、採餌物を記録した。 記録個体数は、ブト、ボソともに秋冬期に多く春期に少ない傾向を示した。群れサイズ別に見ると、単独または2羽での出現はどの月においてもほぼ一定数を占め、群れは主に秋冬期に出現していた。非積雪地ではブト、ボソいずれにおいても周年なわばりを維持するという報告があることから、単独または2羽での出現個体の多くはなわばり個体である可能性が高く、群れは主に非繁殖個体によって構成されるのではないかと考えられた。 ブトとボソの採餌物は大きく異なっており、ブトは人家のゴミおよび畜舎で得た食物が多かったのに対し、ボソはほとんどの食物を農地で得ており、作物くず(ラッカセイ、稲、サツマイモ等)と農地の昆虫・動物(アメリカザリガニ等)が多かった。なお、調査ルート沿いのゴミ集積所は金網製の箱形が多く、そうでない集積所でもカラス類によるゴミ荒らしの観察件数は少なかったため、採餌されたゴミの多くは裏庭のゴミ穴等から得たものと思われた。
著者
野村 康弘 倉本 宣
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.445, 2005 (Released:2005-03-17)

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種のメタ個体群を把握し、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。調査対象地は多摩川の河口から51-59kmの範囲にある14の生息地で行った。調査方法は成虫が出現した時期から、個体に識別番号と個体群の情報をマーキングし、個体コード、性別、捕獲した地点をそれぞれ記録した。調査は2004年7月-10月にかけて行った。総捕獲数は6271匹で、再捕獲数は1630匹だった。その中で生息地間を移動した個体は85匹であった。各個体群の面積と移出率(移出個体数/再捕獲数)を対数モデルで検討したところ、強い負の相関が認められた(R=0.675、p<0.01)。また、出水後の調査により、多摩川における本種の生息地のほとんどが水に浸かるということが明らかになった。以上のことから小さい生息地が多数あることにより、本種の移動、生息地間ネットワーク化を促進し、出水による絶滅回避の確率を高くすると思われる。大きい生息地が少数存在している場合には、大規模な出水により個体群は大きなダメージを受ける可能性が高いことから、本種の保全戦略としては小さな生息地が多数存在するように管理することが重要であると考えられる。
著者
横畑 泰志
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.43, 2005 (Released:2005-03-17)

哺乳類、鳥類の寄生虫には人間や家畜、家禽に有害なものが見られるため、それらの宿主の日本国内への持ち込みには法的規制(感染症法、家畜伝染病予防法など)や検疫による対応が行われており、結果的に寄生虫の自然界への逸出もある程度防がれていると考えられる。しかし、有史以来のヒトや家畜などの移動によって、寄生虫を含む多くの寄生生物が自然分布の範囲外に分布を広げてきたであろう。野生動物の寄生虫でも、シカ類の第4胃に寄生する数種の毛様線虫が養鹿業に伴い大陸間で互いに、あるいは日本から大陸へと宿主ごと持ち込まれ、野外に定着している例が比較的よく知られている。演者は 24 種 2 亜種の日本の外来哺乳類について文献情報を収集し、飼育下での情報も含めて宿主 8 種から 28 種の外来寄生蠕虫類の報告を得た(横畑、2002)。また、日本産陸生脊椎動物に見られる外来寄生虫として、「外来種ハンドブック」(改訂版、2003)の巻末リストに吸虫類 1 種、条虫類 5種(2 種は国内移動)、線虫類 19 種(1 種は国内移動)、昆虫類 1 種を挙げたが、その多くは住家性ネズミ類に寄生しており、国内の野ネズミには見られないものである。その後、鳥類などで該当する事例が散見されており、今後も調査の進展に伴い種数が増加してゆくであろう。また、野生動物とヒトや家畜などに同種の寄生虫が見られる場合は、家畜などに寄生する外来のものが野外に逸出することによって野生動物に見られる土着のものとの交雑が進んでいるであろうが、検証はほとんど行われていない。 国内では、エキノコックスのように人間に重篤な患害を及ぼすもの以外では十分な研究は行われていない。日本の陸生脊椎動物は、しばしば島嶼隔離や人為的な生息地の縮小・分断化によって個体群が小規模化しており、そうした状況下では寄生虫群集も単純化しているものが多い。したがって外来寄生虫の侵入も容易であると考えられる。
著者
中島 俊彦 鈴木 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.602, 2005 (Released:2005-03-17)

ある特定の花に選択的かつ連続的に訪花する行動を一貫訪花という。モンシロチョウには一貫訪花とランダム訪花の2つの訪花パターンがみられることが知られている。野外では花蜜をめぐる多くの競争者がいるため、蜜のある花とない花が存在する。したがって、モンシロチョウは報酬の得られる確率により一貫訪花を行うか否かを決定している可能性が考えられる。そこで本研究では花の蜜含有確率がモンシロチョウの訪花パターンに及ぼす影響について調査した。 蜜含有確率の異なる実験区(A;100%、B;50%、C;25%、D;12.5%)を設け、黄色と青色の人工花を交互にそれぞれ8花ずつ配置したケージ内でモンシロチョウの訪花行動を観察した。訪花した花の報酬の有無や訪花する花色の推移を記録し、Bootstrap法によりその個体の訪花パターンを解析した。 実験区A,Bでは同色花推移率が高く、一貫訪花をする個体が多くみられた。実験区C,Dでは同色花推移率は比較的低く、ランダム訪花をする個体が多くみられた。一貫訪花をした個体とランダム訪花をした個体が経験した蜜獲得確率はそれぞれ62.3%と16.4%であった。また、一貫訪花した個体とランダム訪花をした個体のどちらも蜜のある花に訪花した後は高い確率で同色花に訪花した。一方、蜜のない花に訪花した後の異色花へ訪花する確率(switching率)は一貫訪花をした個体で9.2%、ランダム訪花をした個体で48.2%であった。また、異色花へのswitchingの意思決定にはそれまでの訪花履歴(蜜獲得率や蜜のない花への訪花頻度など)は関与していないことが判明した。これらのことからモンシロチョウは報酬が得られれば同色の花に訪花するというルールに基づいた訪花をしていることが示唆された。よってモンシロチョウは蜜含有確率の高い花では一貫訪花をする確率が高く、効率よく採餌をしていると考えられた。
著者
安部 哲人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.200, 2005 (Released:2005-03-17)

海洋島への生物の侵入過程には不明な点が多い.火山島での数少ない研究事例としてクラカタウ島,スルツェイ島,ロング島などがあるだけである.一般に海洋島生態系にはさまざまなシンドロームがあるが,その中の一つに植物の性表現に関してフロラが雌雄異株性に偏っていることがあげられる.この理由については大きく分けて,1.雌雄異株が侵入しやすい,2.侵入してから雌雄異株になった,という2つの対立する仮説がある.しかしながら,実際に誕生して間もない海洋島での生物の侵入過程を観察できる機会は世界的にもほとんどないため,検証することは非常に困難である.その意味でも噴火31年後の小笠原諸島西之島の生物相の現状は興味深い. 2004年7月に調査した結果,西之島のフロラはわずか6種で構成され,前回報告された1978年以降で2種増加したのみであった.種子散布型の内訳は海流散布4種,付着型鳥散布2種であった.このことから,他の火山島での侵入過程と比較しても,西之島の生物相は侵入のごく初期の段階を脱しておらず,海洋島では侵入速度がはるかに遅いことが示された.植生は1978年以降,大きく拡大していたが,溶岩部分には全く植物が侵入できておらず,新たに拡大したのは砂礫が堆積した平地部分のみにとどまっていた.島内ではカツオドリをはじめとする海鳥が高密度で営巣しており,種の侵入や植生に対しても少なからず影響がありそうな反面,植物の果実を食べる山鳥は全くみられず,被食型鳥散布種子が侵入できる確率は非常に低いと考えられた.また,フロラの構成種は全て両性花植物であり,被食型鳥散布種子を持つ種も見られなかったことから,侵入に関して雌雄異株の優位性は認められなかった.一方で,非常に貧弱なフロラであるにもかかわらずハマゴウやスベリヒユなどの花には540分間で複数種の訪花昆虫が観察された.このことは自家和合性のある種でなくても定着が十分可能であることを示唆する.
著者
村上 正志 平尾 聡秀 久保 拓弥
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.362, 2005 (Released:2005-03-17)

植食性昆虫の群集構造を制限するメカニズムとして、捕食者や寄生者を介した植食者間の見かけの競争が重要である可能性が示唆されている。しかし、これまでのほとんどの研究は実験条件下での検証であり、野外においてはわずかに一例が報告されているにすぎない。森林生態系において、ジェネラリスト寄生者である寄生蜂は被食者である潜葉性昆虫間に見かけの競争を引き起こす可能性があるが、これは空間構造をもつ生息場所を舞台として生じており、空間構造が見かけの競争の有無に影響を及ぼしていると考えられる。寄生者の分布様式に空間的な集中が見られるならば、近接する樹木個体上に生息している潜葉性昆虫個体群の間に見かけの競争が生じていることになる。本研究では、森林生態系において潜葉性昆虫_-_寄生蜂群集を対象として、空間スケールに依存した生物間相互作用の定式化を試みる。調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。30m四方の調査プロットを5つ設定し、樹木7種の位置を計測した。また、すべての樹木個体から潜葉性昆虫を定量的にサンプリングし、潜葉性昆虫を飼育することによって樹木パッチあたりの寄生率を調べた。生物間相互作用の空間パターンの解析に際しては、寄生の空間相関モデルを検討した。モデルでは正の空間相関が検出されたときに見かけの競争があることを仮定している。寄生蜂の空間分布パターンは潜葉性昆虫種や寄生蜂種、モデルで仮定する近傍情報に依存して様々な変動を示したが、近傍までの距離が比較的近い場合,寄生の空間パターンとして正の空間相関が見いだされる傾向があった。これらの結果から,森林内で寄生蜂は空間的に集中し、潜葉性昆虫の間に見かけの競争が生じていることが明らかになった。
著者
中田 兼介 森 貴久
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.590, 2005 (Released:2005-03-17)

円網性クモは網を定期的に張り替えるが、その際にしばしば網の大きさや横糸の間隔を変える事が知られている。この現象はクモが網場所の質に応じて網糸への投資量を調節しているためであると考えられている。この調整が餌収益の上昇に結びつくためには網場所の質を知る必要があるが、クモは過去の採餌経験からこれを推定していると考えられる。この意味で円網は採餌のためのデバイスであると同時に情報獲得のデバイスでもあると言える。一方、円網性クモは、餌捕獲量の減少、網の破壊、成長に伴う最適な造網場所の変化などの理由によってしばしば網場所を移動させる。このとき新しい網場所は過去に利用した事のない場所である事が一般的で、クモは移動直後にはその場所の質を知る事無しに、どのような網を張るかについて意思決定しているだろう。本研究では、このようなクモの網場所移動直後の造網行動がどのようなものになるのかを、「採餌経験からの網場所の質の推定には誤差が伴うが、その誤差は網サイズが大きくなればなるほど小さくなる」という仮定の元で最適網糸投資モデルを作り解析した(この仮定を置いた理由は、網サイズが大きくなる事は、より広い空間をサンプリングする事であり、推定の際のサンプリング量の増加は推定の精度の上昇に繋がると考えられるからである)。その結果、網場所移動率が小さいほど移動直後には最適網糸投資量が大きくなる、という結果が得られた。このような最適モデルからの予測が実際に当てはまるかどうかについて、コガネグモ科の円網性クモ数種を使い、1)野外で人為的に網を壊してやることで網場所移動を引き起こし、新しい場所に造網させた時の最初の網の総糸量、2)連続した二日間同じ場所に造網している頻度、計測し、これらのデータを種間で比較する事で検討した。
著者
田中 晋吾 大崎 直太
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.588, 2005 (Released:2005-03-17)

寄生性昆虫の中には、寄主の行動を操作することにより天敵から逃れるものがいる。しかし、寄生者が操作することができる寄主行動には限界があり、寄主本来の性質を大きく外れることはないものと考えられる。そのため、寄主を操作することで適応度が高まるならば、積極的な操作が好まれるだろうし、操作しても効果が望めないのであれば、積極的に操作せず他の要素を優先するだろう。寄主操作には高度な特異性が要求されると考えられるが、同じ寄生者が寄主の性質に合わせてどこまで特異性を発揮できるのか興味深い。多寄生性寄生蜂アオムシコマユバチは、自らの繭塊を二次寄生蜂から守るために、寄主幼虫オオモンシロチョウの行動を操作することが知られている。本種寄生蜂は終齢の寄主幼虫から脱出するとその場で繭塊を形成するが、寄主幼虫はすぐには死なずにその場に留まり、繭塊に近づくものに対して威嚇をする。本種寄生蜂の利用する寄主はオオモンシロを含めてわずか数種ほどだが、その性質はきわめて対照的である。群集性のオオモンシロとエゾシロチョウの幼虫は行動も比較的活発だが、単独性のモンシロチョウ幼虫はおとなしい。このような寄主幼虫の性質の違いは、二次寄生蜂からアオムシコマユの繭を防衛する効果に影響を与えるかもしれない。寄主操作の効果が寄主幼虫の性質を反映したものであれば、前2者では寄主操作の効果は高いものと思われるが、モンシロチョウでは寄主操作の効果はあまり期待できないだろう。本研究では以上の予測を検証した上で、操作することで得られる利益が少ないと思われるモンシロチョウを利用することのメリットを、主に産卵数などの他の寄主利用に関する要素との兼ね合いによって説明する。
著者
門脇 浩明 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.91, 2005 (Released:2005-03-17)

生物群集の形成過程において、種間相互作用は競争種間の形質置換や資源分割、分布様式を決定するメカニズムとして注目されてきた。本研究では、キノコ(硬質菌)をめぐる昆虫群集を対象として、種間相互作用と環境要因の2つの視点から群集の構造と形成過程の説明を試みた。タコウキン科の一種ヒトクチタケには3種のスペシャリスト昆虫(カブトゴミムシダマシ・ヒラタキノコゴミムシダマシ(いずれも甲虫)とオオヒロズコガの1種(蛾))がほぼ同じ密度で棲息・産卵し、幼虫が激しく食害した。空間分布解析の結果、甲虫2種は共存するが、甲虫と蛾は原則的に共存せず、後者では種間相互作用が産卵を通じて影響した可能性があった。これに対して飼育実験では、同一子実体に共存させた甲虫2種の間にほとんど影響はなく、甲虫と蛾の間には負の影響が認められた。一方、群集構造と環境要因との相関はほとんど認められなかった。これらの結果から、ヒトクチタケをめぐる昆虫群集では3種が互角な消費型競争を繰り広げ、それゆえに環境要因よりも種間相互作用のほうが群集形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。