著者
加納 隆
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.159-187, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
46

本稿では,動学的確率的一般均衡モデルのマクロ計量経済分析における役割を,Geweke (2010)による強解釈と弱解釈および最小解釈の3分類に従って批判的に略説する.最小解釈の応用例として,Kano and Nason (2014)による消費の習慣形成の金融政策ショック伝播メカニズムとしての役割に関する実証分析を紹介する.最後に将来研究への展望を議論する.
著者
猪狩 良介 星野 崇宏
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.269-293, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
42

マーケティングでは,生存時間解析を用いて消費者の購買タイミングを分析する購買間隔モデルが研究されている.本研究では,観測されない消費者異質性の動的変化を考慮した競合リスクモデルを提案し,複数チャネルにおける購買間隔モデルに応用する.具体的には,競合リスクモデルを用いて,ECサイトとリアル店舗における購買間隔モデルを構築する.さらに,購買間隔の競合リスクモデルにおいて,観測されない異質性の動的変化を状態空間モデルにより捉え,消費者異質性を階層ベイズモデルにより捉えるモデルを提案する.また,購買間隔に加えて購買金額も扱う同時モデルを構築する.提案モデルをECサイトとリアル店舗における購買行動をシングルソースで記録したデータに応用した結果,単一のチャネルのみを扱うモデルや動的変化を考慮しないモデルと比較して提案モデルは優れたパフォーマンスを示すことが明らかになった.加えて,チャネルによるマーケティング変数の効果の違いなども明らかになり,提案モデルの有用性が示された.
著者
古川 恭治
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.131-152, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
23

イベント発生ハザードを区分定数関数とすることで,ポアソン回帰によって生存時間分析を行うことができる.このアプローチは,Cox比例ハザード回帰などと比べて一般的ではないものの,ベースラインハザードの柔軟なパラメトリックモデリング,複数の時間依存共変量やランダム効果を含むモデルへの拡張を一般化線形/非線形モデルの枠組みで行うことができるという利点があり,大規模コホートの長期追跡データ解析ではポアソン回帰に頼らざるを得ない場合も少なくない.本稿はポアソン回帰による生存時間解析手法を定式化し,その特徴と性質について調べることを目的とする.特に,主要時間スケール因子の層別化の影響や時間依存共変量やランダム効果を含む場合の推定性能に焦点を当て,シミュレーションによってCox回帰など他手法との比較を行う.さらに,実データへの適用例を紹介し,ポアソン生存時間回帰が最も効果的とされる状況や今後の拡張について議論する.
著者
本田 敏雄
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.113-129, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
62

データ収集技術の飛躍的進歩により,説明変数の数pの非常に多い高次元データが得られるようになり,その統計解析が重要な話題となって久しい.そして代表的な解析手法であるLassoなどは,学部生向けのテキストにも紹介されるようになっている.またさらに,説明変数の数pが標本数nの指数オーダーと考えて差し支えないような超高次元データも,統計解析の対象になっている.この解説論文では,生存時間解析でもっともよく使われているといってもよいCox回帰モデルを中心に,(超)高次元の説明変数がある場合の生存時間に関する最近の研究について,著者自身の研究の観点から紹介する.
著者
大石 惇喜 白石 博
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-28, 2018-09-26 (Released:2019-04-02)
参考文献数
9

保険会社において,複合ポアソン過程に基づいた古典的リスクモデルを考えるとき,保険会社の余剰金がある境界を上回った部分に関して株主に配当として支払うという配当戦略問題がある.最適な配当境界は,破産時刻までに支払われる累積配当金現在価値の期待値を最大化するものとして与えられる.本論文ではまず,古典的リスクモデルを仮定し,サープラス過程(保険会社の余剰金を表す確率過程)のサンプルパスから最適配当境界の推定量をM-推定により構成する.M-推定量の一致性を示す際には目的関数の一様収束性が重要となり,それはGlivenko-Cantelliの定理として知られている.Glivenko-Cantelliの定理は関数の一様収束性を,関数族の大きさを測るエントロピーによって述べたものである.本論文では一様エントロピーの有界性を用いて関心のある関数の一様収束性を示すことで,構成した推定量の一致性を証明する.そのために,関心のある関数族が,関数の複雑度を表すVC-指数が3のVC-サブグラフクラスであることを示す.最後にシミュレーションを通して目的関数の一様収束性と,推定量の一致性について確認する.
著者
佐藤 忠彦 領家 美奈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-31, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
32

本研究は,同一説明変数に対する複数の異質な回帰係数を同時に推定可能にする階層ベイズ回帰モデルを提案し,その有効性を検証することを目的とする.提案モデルの有効性は,数値実験と実データを用いた解析で検証した.数値実験では,真のモデルを精度高く再現できるという意味で,提案モデルの有効性を確認した.また,POSデータを用いた実証分析では,提案した枠組みで市場反応を製品異質性と時点異質性に分解可能であることを示した.提案した枠組みは,反応係数の明示的な要因分解を実現し様々な社会科学現象のモデル化およびそのモデルに基づく意思決定で有効活用できる.
著者
塚原 英敦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.101-121, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
70

本稿では,21世紀に入り急激に注目が集まった接合関数モデルに関して,その本質的要素を簡単におさらいし,その歴史的展開を短く振り返った後,ファイナンス,保険数理,生存解析・寿命データ分析における応用例の検討を通じて,接合関数モデリングの特徴・利点・欠点を明らかにする.特に,2007–9年の世界金融危機において,接合関数モデルがどのような役割を演じ,どのような批判を浴びたのかについては,詳細に吟味する.
著者
劉 言
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.53-68, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
37

予測に基づく時系列の統計推測について考える.時系列の予測問題は調和可能安定過程を出発点として統一的に扱う.これにより,予測誤差と補間誤差はスペクトル密度関数の汎関数として表現することが可能である.スペクトル密度関数のモデルを当てはめることにより,予測誤差や補間誤差を最小にするコントラスト関数を導入する.多くの安定分布の確率密度関数は陽に表現できないため,時系列モデルの母数推定において最尤法を用いることが難しいが,コントラスト関数を用いれば,最小コントラスト推定量が母数の一致推定量となることが示せる.これに加えて,最小コントラスト推定量の漸近分布を示す.また,重要指標となる母数の仮説検定について,経験尤度比検定法を議論し,近年の理論的研究成果を与える.
著者
内田 雅之
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.245-273, 2022-03-03 (Released:2022-03-10)
参考文献数
105

離散観測データに基づく確率微分方程式モデルのハイブリッド型推定法および確率偏微分方程式モデルの適応的推定法について考察する.離散観測データを用いて確率微分方程式モデルの最尤型推定量を求める際に,疑似対数尤度の最適化を成功させるためには適切な初期値が必要である.初期値として縮約データおよび間引きデータを用いた初期ベイズ型推定量を導出して,その初期ベイス型推定量を用いて最尤型推定量を求める.この推定量をハイブリッド型推定量とよぶ.初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近的性質について示し,数値シミュレーションによって初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近挙動について検証する.次に,高頻度時空間データを用いて微小撹乱パラメータをもつ2階線形放物型確率偏微分方程式モデルのパラメータ推定問題を取り扱う.確率偏微分方程式モデルの未知パラメータの適応的推定量を導出し,得られた推定量の漸近的性質について考察する.さらに,大規模数値シミュレーションにより,適応的推定量の漸近挙動を検証する.
著者
伊藤 伸介
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.109-138, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ヨーロッパ諸国の中で,北欧諸国を中心に行政記録情報に基づく「レジスターベース」の統計作成システムが確立されてきた.デンマークのような北欧諸国やオランダのような国々では,学術研究のための行政記録情報の利用サービスも展開されている.それに伴い,行政記録情報の1つである医療健康データへのアクセスを可能にするための仕組みも整備されてきた.本稿では,デンマークとオランダの事例をもとに,行政記録情報としての医療健康データの二次利用の展開方向を洞察する.デンマークやオランダにおける医療健康データの二次利用の特徴は,IDによって各種のレジスターデータをリンケージした上で仮名化された医療・健康に関するデータの利用が可能になっていることである.これらの事例は,わが国における行政記録情報の利活用のあり方を検討する上でも参考になる点が少なくないと思われる.
著者
木村 映善 大寺 祥佑 佐々木 香織 黒田 知宏
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.47-80, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
80
被引用文献数
1

我が国は超高齢化社会に伴う医療費の拡大を控え,政策に資するエビデンスを導出するために,外的妥当性が高いと期待されるReal World Dataを用いた研究に注目しつつある.次世代医療基盤法の認定事業者は2019年末に第1号が認定されたばかりであり,管理,匿名加工,データ提供の方法論を模索中である.一方包括的かつ悉皆的な医療情報の収集体制を制度的に実現したフィンランドは,オプトアウト方式で全国の医療機関から個人番号つきで患者情報を収集し,様々なデータソースから個人番号を用いた個人単位のデータ連結を行い,二次利用用途に匿名化したデータを提供している.まさに認定事業者が担わんとしている役割を先行的に実現しているところであり,同国の現状を知ることは 我が国における今後の医療情報に関する政策の方向性を検討する上で,有意義であると推察される.渡航及び文献調査にもとづいて,フィンランドの健康医療情報に関するレジスタ,制度環境,匿名加工に関するガイドラインならびに最近の動向を紹介する.
著者
佐々木 香織 大寺 祥佑 木村 映善
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-108, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
40

わが国では診療情報の二次利用を促進する「次世代医療基盤法」が2018年5月11日より施行された.この法律により「認定事業者」なる機関が,日本全国の施設から診療記録を収集・保管し,更に膨大なデータから医療統計を用いた研究を行う専門家に対して「認定事業者」が匿名加工を施したデータを供与することが可能となった.イギリスのEnglandでは我が国に先んじて,Care dot Data(2013–6)という医療データの二次利用を促進させる政策を実行したが,市民からの信頼を得られず逆に不信感をつのらせ,2015年に一時中断し2016年には正式に廃止する結果となった.ところが2015–6年よりNHS Digitalを中心として,新たな制度と基盤を構築し始めたところ,その政策は成功を収める結果となった.そこで本稿はEnglandにおいて政策的失敗後に,如何にしてより包括的でより正確な医療統計を可能とするような医療情報の二次利用の基盤や社会システムを整備し,政策的成功へと導いたかを議論する.その目的はEnglandの経験や知恵が日本にどのように活かすことができるかを考察し,我が国により良い制度が構築できるよう提言することである.なお本稿における論考は専門家と専門知が如何に現代社会を支えているかを論じたルーマン(1990),ギデンズ(1993),ベック(1998)に依拠し,医療統計をはじめとした様々な統計の社会的な役割を含め,専門家と専門知に支えられた今日の社会秩序の構築と,それらに対する市民からの「信頼」に関する課題を視野に入れて進められる.
著者
縄田 和満
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-94, 1992 (Released:2009-01-22)
参考文献数
25

In recent economic studies, Tobit models (censored regression models) in which the dependent variables cannot be negative are widely used. Although the Tobit models are usually estimated by the maximum likelihood method, the estimator is inconsistent under heteroscedasticity and nonnormality of the error terms.Powell [1984] proposed a modified least absolute deviations estimator which is strongly consistent under heteroscedasticity and nonnormality. One of the major problems of Powell's estimator is its computational difficulty. Since the minimand is the complicated form, we cannot use standard methods to caluculate Powell's estimator.In this paper, I consider a new algorithm and evaluate Powell's estimator by the Monte Carlo experiments.
著者
芦川 敏洋
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-45, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
23

日本経済の潜在成長力や成長可能性に関する先行研究は数多く取り組まれているが,県レベルでの(セミ)マクロ経済分析になると,データ上の制約もあって限定的となる.そこで,本稿では,資本ストックデータを独自に試算し,47都道府県それぞれの潜在GDPとGDPギャップの推計を試みる.さらに,その推計値を活用する形で,近年の市場経済における長期停滞の要因を解く「長期停滞論」の視点から仮説を設定し,地域経済圏域を分析対象にして検証を試みる.国内の多くの県において「需要不足による長期停滞」なのか,特に東京都を中心とした東京大都市圏はその傾向が顕著なのか,それとも,それ以外の地方圏では「供給不足による長期停滞」であるのかを,潜在成長率やGDPギャップの動きなどに関する実証分析を通じて明らかにする.