著者
澤 正憲
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.179-211, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
61

実験計画法の分野において,モデルの関数形やその関数の積分値を推定するために,与えられた標本サイズのもとで最適な点配置を求める研究がなされてきた.特に超球体の表面あるいは内部で定義された関数の積分値の推定に関して回転可能計画 (rotatable design) を用いる研究領域がある.回転可能計画やその類似概念の研究は,統計的観点のみならず,数値解析学における求積公式 (quadrature) や組合せ論におけるユークリッドデザイン (Euclidean design) の研究領域において独自に展開されてきた.本稿では,回転可能計画,ユークリッドデザインの研究領域を探訪しながら,高次元の(矩形)求積公式の構成理論を概観する.また種々の実験計画法を求積公式の枠組みで再構築する意義として,応答曲面モデルが多項式である場合に,Box-Behnken計画,中心複合計画,Doehlert計画などの古典的な応答曲面計画で表現可能な近似多項式の最大次数の上界が得られることをみる.
著者
浅井 学
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.215-238, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
52

Realized Stochastic Volatility (RSV)モデルは,金融資産のボラティリティ・モデルの推定において,収益率と実現ボラティリティの両方の情報を使うため,SVモデルに比べて効率的な推定を行うことができる.RSVモデルの推定には,ベイジアン・マルコフ連鎖モンテカルロ法やモンテカルロ尤度によるシミュレーション最尤法を用いる方法が主流であるが,本研究ではカルマン・フィルターによる疑似最尤法について検討する.特に,単純なRSVモデルについて,効率性の比較を試みる.またボラティリティのモデル化において重要な性質である,非対称性・長期記憶・裾の厚い分布という3点について,RSVモデルの拡張を紹介し,カルマン・フィルターによる推定方法を説明する.最後に,アメリカ・イギリス・日本の株価指数のデータについて,さまざまなRSVモデルを用いて実証分析を行った結果を報告する.
著者
大森 裕浩
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.177-198, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
21

本稿では,多変量の金融資産収益率のボラティリティ・モデリングのために,これまでの研究で提案されているいくつかの確率的ボラティリティ変動モデル・実現確率的ボラティリティ変動モデルを取り上げ, ベイジアン・アプローチを用いてマルコフ連鎖モンテカルロ法によるモデル・パラメータの効率的な推定方法について紹介する.
著者
金森 敬文
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.97-111, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
15

密度比は2つの確率密度の比として定義され,さまざまな統計的推論と関連し,応用されている.本稿では,まず密度比の推定法について紹介する.また密度比を用いて,2つの確率密度の非類似度を測る尺度であるダイバージェンスを推定する方法について解説する.さらにダイバージェンス推定を2標本検定に応用した結果について述べる.理論的考察や数値実験を通して,提案法の優位性を示す.
著者
森岡 渉 岡部 篤行 貞広 幸雄
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.115-131, 2019-09-30 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

店の出店や閉店の戦略をたてる立地マーケティングにおいて,地域の店の盛衰状況動向を分析することは基本的な分析である.そこで,本研究では,盛衰動向状況の基礎的分析として,ジニ係数を活用した地域内の店舗立地集中度測定法を提案する.その方法は,基本的にジニ係数を踏襲しているが,新たに,順序統計量を用いて店舗の空間偏在度を統計的に検定する方法と,ジニ係数を求める際に用いるローレンツ曲線を活かして,店舗が集中している「ホットスポット」を検出する方法を開発した.それらの方法を,電話帳から得られる東京都渋谷区内の各4分の1地域メッシュ(250~mメッシュ)に含まれる各種店舗数データに適用し,渋谷区における店舗施設立地の全体的な集積度と局所的な集積度を測定し,方法の有効性を確認した.
著者
宮津 和弘 佐藤 忠彦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.113-146, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
34

心理会計のもとでは,経済学の原理である金銭の代替可能性が完全には成立しておらず,同じ金銭的価値の財でも,消費者の使用目的や購買状況に応じて,異なる価値基準を有する.本研究では,心理的状況の変化を心的負荷と在庫金額という二つの潜在指標で捉えてモデル化し,消費者の内面的要因が来店間隔に与える影響を解明する.これにより,一見非合理的とも思える消費者の購買行動を,行動経済学の観点から理解する.本提案モデルでは,心理的状況を閾値変数とした閾値型モデルに消費者の異質性を階層ベイズの枠組みで取り込み,マルコフ連鎖モンテカルロ法で推定する.小売店舗のID付POSデータを用いて実証分析した結果,消費者の購買行動には心理的状況が影響し,来店間隔の生起メカニズムに差があることを示した.
著者
近藤 恵介
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.69-98, 2015-09-30 (Released:2016-05-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

先行研究において日本の失業率の地域間格差は徐々に減少していることが指摘されている.そこで,本論文では,人口移動が地域労働市場間の調整としてどのように機能しているのかを1980年から2010年までの市区町村データを用いて実証的に明らかにする.本研究の特徴は,空間計量経済モデルを用いることで,人口移動の地域間の相互従属性を同時に考慮している点である.分析結果より,高失業率が人口移動のプッシュ要因として機能していたこと,また人口流出率と人口流入率がそれぞれ正の有意な空間従属性を示すことを明らかにしている.さらに,相対失業率の変化率と人口流出率の間には負の相関関係があることも明らかにしている.以上の分析結果から,失業率の高かった地域から失業者が流出することで翌期には失業率が低下し,一方で,失業率の低かった地域では失業者の流出が十分ではなく翌期には失業率が上昇していたことが失業率の地域間格差縮小の背景として示唆される.
著者
笠原 博幸 下津 克己
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.451-470, 2015-03-26 (Released:2016-02-12)
参考文献数
43

動的離散選択モデルを用いた計量経済分析では,観測されない異質性を適切に扱うことは重要な課題である.有限混合モデルは観測されない異質性を柔軟に扱うことが可能なため,多くの動的離散選択モデルを用いた実証研究において使用されてきた.しかしながら,近年までは,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別の可能性に関しては,研究成果が乏しかったこともあり,否定的な見解が一般的であった.本論文では,Kasahara and Shimotsu (2009, 2014a)の内容をレビューし,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別を可能とする比較的現実的な(時系列の長さ・定常性・一次マルコフ性などの)十分条件を紹介する.また,有限混合モデルにおける要素数の下限値の識別条件とその推定方法に関しても議論する.
著者
佐藤 俊哉
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.493-513, 1993 (Released:2009-01-22)
参考文献数
107
被引用文献数
1

リスク要因と疾病発生との因果関係を調べるための疫学研究で用いる生物統計手法に関するレビューを行う.疫学研究で興味のある,リスク要因への曝露の効果の指標を導入した後,曝露効果を推定するための古典的な研究デザインである,コホート研究,ケース・コントロール研究とそこで用いる生物統計手法を解説する.最近では,生物統計学の発展にともなって,コホート研究,ケース・コントロール研究に代わる新しい研究デザインがいくつか提案されているが,新しいデザインのうち代表的なネステッド・ケース・コントロール研究,ケース・コホート研究, 2段階ケース・コントロール研究の紹介を行う.また,疫学的観察研究から因果推論を行うための最近の研究成果についても報告する.その他の重要な話題である,誤分類の影響, Ecologica bias,経時観察研究,についても簡単ではあるが文献紹介を行う.
著者
清水 邦夫
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-140, 2018-03-30 (Released:2018-10-05)
参考文献数
126

角度のデータは,環境科学・気象学における風向,生態学における動物の運動方向,分子科学における二面角などにおいて現れる.また,イベントの生起時刻を24時間時計上に配置すれば角度データのように扱える.従来,ハート型,von Mises,巻き込みCauchy分布は角度の対称分布として良く知られている.本稿では,角度を含むデータを扱う統計学(方向統計学)において,ハート型,von Mises,巻き込みCauchy分布を含む新しい対称分布,分布の非対称化,球面・トーラス・シリンダー・ディスク上およびそのハイパー型多様体上の分布について,それらの諸科学・技術における応用例を交えて,主に2000年以降の最近の発展を概観する.
著者
鈴木 大慈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.141-157, 2018-03-30 (Released:2018-10-05)
参考文献数
43

Multiple Kernel Learning (MKL) について正則化法およびベイズ推定法を紹介し,その汎化誤差解析について概説する.正則化法については,ℓ1-正則化およびエラスティックネット型の正則化を考察する.エラスティックネット型の正則化はスパース性を誘導するℓ1-正則化と滑らかさを制御するℓ2-正則化の組み合わせで表される.ベースとなるカーネル関数の数は多くても,真の関数に必要なカーネル関数の数は少ないスパースな状況を考察し,これまで得られていたレートよりも速い収束レートを導出する.さらに,ガウシアンプロセス事前分布を用いたベイズ推定量を考察し,一次独立性の条件を仮定せずとも速い収束レートを達成できることを示す.
著者
足立 浩平
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.363-382, 2015

現行の標準的な因子分析の定式化では,因子負荷量と独自分散は固定したパラメータであり,共通・独自因子は潜在的な確率変数として扱われる.これとは対照的に,共通因子および独自因子もパラメータと見なして,モデル部全てをパラメータ行列で表現する因子分析の定式化が近年になって提示されている.これを行列因子分析と名づけて,その諸性質を論じることが本稿の主題である.論及することには,行列因子分析の解法が,線形代数の定理だけに基づく点で明解であり,低階数近似としての主成分分析とは対照的に,因子分析をデータ行列の高階数近似と見なせる論拠を与えることが含まれる.さらに,行列因子分析の解と標準的な因子分析の解を比較する数値例を提示し,行列因子分析を発展させたスパース因子分析法にも言及する.
著者
Yutaka Kano
出版者
Japan Statistical Society
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-144, 1983 (Released:2009-01-22)
参考文献数
7
被引用文献数
1

In factor analysis both the maximum likelihood estimator and the generalized least squares estimator for the structural parameters (i.e. factor loadings and unique variances) are shown to be consistent weakly or strongly under Anderson and Rubin's sufficient condition for weak identifiability.