著者
土井 守
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アカウミガメでは、通常受精卵の頂点付近から胚の固着と卵殻の白濁が進行した。しかし、転卵区ばかりでなく通常の孵卵条件下の受精卵でも胚が卵殻上部の位置で固着せず、孵卵15日目において卵殻下部の位置で発生が進行しているものも観察できた。そのため、初期胚は必ずしも卵上部で固着し発生が進行するとは限らないものと考えられた。また、アカウミガメの受精卵において移植時に生じる胚発生の停止は、産卵後12時間以上から約40日目までに起こるものと考えられた。孵卵に必要な温度と砂中水分含量は、自然下では降水量と密接に関係しており、積算温度は、1800℃を超えると孵化に至ることが確認できた。一方、飼育水槽内の水温が低下した時期に雌のエストラジオール-17β濃度、雄のテストステロン濃度の上昇が一致する動態が見られ、雌の血中エストラジオール17β濃度および雄の血中テストステロン濃度は、飼育海水温が低下する9月から2月にかけて上昇し、飼育海水温が上昇する5月から7月にかけて低下した。なお、雌のプロジェステロン濃度は、2月から5月にかけて上昇した。本研究では、産卵してもほとんど孵化が期待できない場合の移植時期と方法を明らかにすることができ、また雌雄のウミガメの産卵生理を内分泌学的に捉えることができた。希少動物種であるアカウミガメが北太平洋で唯一の産卵場所である日本の海岸で、できる限り多くのアカウミガメを保護・保全するために、この研究が役立つものと期待される。
著者
土井 守
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

和歌山県日高郡南部町千里の浜と愛知県渥美郡渥美町恋路が浜に産卵のため上陸したアカウミガメから採取した卵を用いて、1)受精卵の移植前後の発生率の変化と最適な移植時期の検討、2)発生の進行に伴う胚の固着現象の意義、3)発生過程で生じる卵殻の白濁現象の組織学的解明並びに卵白蛋白質成分の変化、5)飼育下の雌雄アカウミガメの繁殖生理に関する内分泌学的研究について実施した。1)産卵直後から産卵後16時間以内に転卵(移植)を行うと発生の停止が起こらないことや、産卵後約30日以降に行った場合でも発生率の低下が抑えられる可能性も推察できた。2)胚が固着する卵殻上部(切断径3cm/卵殻径4cm)の卵殻と卵殻膜を切断除去した状態で培養を進行させると、卵黄上部に位置した胚が培養7日目には卵殻(膜)切断面まで移動し、培養後約30日を越えると胚の固着強度が弱まり、培養後50日以降に水分吸収による卵殻内圧の上昇が起こった後、2個体正常に孵化した。3)卵殻の白濁部と非白濁部を詳細に検討した結果、組織学的な違いは認められなかったが、水分の透過性の違いが卵殻の両域を形成するものと思われた。また、発生の進行に伴って分子量約40000の蛋白質の出現と消失が認められた。5)飼育下雌個体の血中エストロジェン濃度と非透過性カルシウム濃度は6〜8月から上昇し、翌年の4〜5月に最も高い値を示し5〜6月に低下する年周期を示した。また、血中プロジェステロン濃度は4〜5月中旬に急激に上昇した。一方、雄の血中テストステロン濃度は、測定開始時の1月以降5〜6月にかけて高い値を維持し、特に3〜4月で激しい変動幅が確認され、同時期に追尾などの性行動も観察された。以上の研究より、アカウミガメの発生学的または繁殖生理学的な基礎的知見を明らかにすることができ、これらの結果は今後の保護対策に大いに役立つものと考えられた。
著者
Putranto Heri Dwi 楠田 哲士 稲垣 佳代 熊谷 岳 石井(田村) 理恵 氏家 陽子 土井 守
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.569-571, 2007-05-25
参考文献数
9
被引用文献数
2

アムールトラ雌2頭と雄1頭から糞を採取し,凍結乾燥後にメタノールでステロイドホルモンを抽出し,ETA法により糞中含量を測定した.雌のエストラジオール-17βと雄のテストステロン値は,年間を通しで顕著に変動した.雌2個体のエストラジオール-17βはそれぞれ26.4±8.0と28.0±14.2日間隔で上昇した.しかし,プロジェステロンは単独飼育した雌では変動せず,雄と同居させた雌では交尾後増加し,妊娠した1例で最終交尾から106日後に出産するまで高い値が維持されていた.
著者
楠 比呂志 土井 守
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.281-286, 2009-02

希少種の保全や外来種問題、また農作物への獣害や人獣共通感染症など、環境から産業、また健康までの広範多岐にわたって、ヒトと野生動物との関わりにおける困窮の度合いが、加速度的に増している。こうした憂慮すべき事態を打破するための技術の開発や対策の立案、そして人材の育成は、広く生物学系の最高学府に課せられた最優先課題のひとつであると著者らは考えている。そこで日本野生動物医学会の第14回大会が、獣医学系のない神戸大学大学院農学研究科を会場として、平成20年9月3日から7日までの5日間にわたって開催されたのを機に、産業動物を中心とした実学的な総合動物学の一分野である畜産学・応用動物学系の大学や大学院における野生動物教育の実態を明らかにすることを目的として、任意のアンケート方式による全国調査を実施したので、その集計結果について報告する。なお本報告は、第14回日本野生動物医学会大会の講演要旨集に記載されたものを、改変して再録したものである。
著者
楠 比呂志 長谷 隆司 佐藤 哲也 土井 守 奥田 和男 上田 かおる 大江 智子 林 輝昭 伊藤 修 川上 茂久 齋藤 恵理子 福岡 敏夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-30, 2006
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

国内の3施設で飼育されていた18頭の成熟雄チーターから,経直腸電気射精法で採取した31サンプルの精液の性状を分析した。なお18頭中13頭は,繁殖歴がなかった。18頭の雄の精液の性状は,精液量が0.91±0.11ml,精液pHが8.1±0.1,総精子数が32.6±5.4百万,生存精子率が84.9±1.9%,精子運動指数が53.7±3.8,形態異常精子率が66.1±3.4%,正常先体精子率が68.5±5.1%で,これらの値は,他のチーターにおける報告値の範囲内であった。繁殖歴がある雄とない雄の精液を比較したところ,先体正常精子率以外のパラメーターについては,両者間で有意な差はみられず,繁殖歴がない雄の正常先体精子率(59.8%)も致命的なほど低くはなかった。以上の結果から,飼育下の雄チーターにおける低受胎の主因が,精液性状の低さである可能性は少ないと考えられた。
著者
井門 彩織 足立 樹 楠田 哲士 谷口 敦 唐沢 瑞樹 近藤 奈津子 清水 泰輔 野本 寛二 佐々木 悠太 伊藤 武明 土井 守 安藤 元一 佐々木 剛 小川 博
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.257-264, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

チーター(Acinonyx jubatus)において,種を保存するうえで飼育下個体の繁殖は極めて重要である.しかし,飼育下での繁殖は困難とされ,繁殖生理の解明が重要となっている.本研究では,飼育下での環境変化がチーターの発情に与える影響と要因を探ることを目的として,4頭の飼育下雌チーターの行動観察及び糞中エストラジオール-17β含量の測定を行った.各放飼場には,1日に2~3個体を交代で放飼し,雄の臭いや鳴き声などが雌の行動と生理にどのような影響を与えるのか調べた.その結果,4頭中1頭で,放飼方法を雌2頭交代から雌雄2頭交代に変化させることによって,行動の増加と糞中エストラジオール-17β含量の上昇が見られた.また,一部の雌の繁殖状況が同時に飼育されている他の雌の発情に影響を与えるのかを調査するため,育子中個体の有無で期間を分け,各期間で行動数と糞中エストラジオール-17β含量を比較した.その結果,同時飼育の雌に育子中個体がいた期間では,行動数と糞中エストラジオール-17β含量が発情と共に増加した.しかし,育子中個体の育子が終了した後の期間では,糞中エストラジオール-17β含量の変化と関係なく行動数に増減が見られた.以上のことから,雌チーターにおいては雄との嗅覚的接触が発情を誘発するとともに,同一施設で飼育される雌の繁殖状況が他雌個体の繁殖生理と行動に影響を与えている可能性が考えられた.
著者
楠田 哲士 松田 朋香 足立 樹 土井 守
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1022, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】排卵様式を知ることは、その種の繁殖生理を正確に理解する上でも、また希少種の飼育下繁殖計画を進める上でも重要である。例えば、イエネコは交尾排卵動物であるが、個体によっては飼育環境等により稀に自然排卵することが報告されている。野生ネコ科動物も同様であると考えられているが、報告例が少なく不明な点が多い。排卵調査には、定期的に超音波等で卵巣検査を行うか、頻回採血からLHサージを捉える方法があるが、これらの方法を野生種に適用するのはほぼ不可能である。そこで本研究では、糞中の卵巣ステロイドホルモン代謝物の動態と性行動の観察から排卵状況を間接的に調査した。また、本法の妊娠判定への有用性についても検討した。【方法】動物園飼育下のトラ18頭(アムール、ベンガル、スマトラの各亜種含む)から糞を週1~3回採取し、凍結乾燥後にステロイドホルモン代謝物をメタノールにて抽出後、卵胞活動の指標としてエストラジオール-17β(E)またはアンドロステンジオン(AD)、黄体活動の指標としてプロゲステロン(P)含量を酵素免疫測定法により定量した。また、内2頭で採血を行い、血中P濃度を測定した。【結果】血中と糞中の各P動態を比較した結果、類似した変動傾向が確認でき、両値間に高い正の相関(r=0.95,n=61)が認められた。発情期中に雄からの乗駕や交尾行動がみられた個体では、その翌日には発情兆候が消失しP値が上昇した。非妊娠時のP上昇期間は46.6 ±1.6日間(34例)であったのに対し、妊娠した場合には、妊娠期間である104.3日間(4例)高値が維持された。一方、交尾がみられなかった場合や単独飼育個体のP値は、ほぼ基底を維持し(稀に上昇あり)、EまたはAD、発情兆候に約1ヶ月の周期性が認められた。以上のことから,1)トラは稀に自然排卵が起こるが、通常交尾排卵型で、2)排卵を伴う約2ヶ月と排卵を伴わない約1ヶ月の2種類の発情周期があり、3)最終交尾から約40~50日後に、糞中P含量が高値を維持していることを指標に妊娠を判定できることが示された。
著者
加藤 征史郎 土井 守 楠 比呂志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

世界自然保護連合が危急種に指定し、ワシントン条約では付属書Iに記載されるチーター(Acinonyx jubatus)は、ネコ科の野生動物の中では飼育下での自然繁殖が難しいと言われている。本研究の目的は、家畜などで確立された種々の研究手技を用いてチーターの飼育下個体の繁殖生理を明らかにするとともに、その人工繁殖技術を開発することにある。姫路セントラルパーク、姫路市立動物園、群馬サファリバーク、アドベンチャーワールドおよび浜松市動物園などの協力のもと、雄19頭、雌19頭,合計38頭のチーターを材料に用いて、当該研究期間に得られた主な研究成果は以下の通りである。1. チーターの精液性状は劣悪で、特に形態異常精子率が高いことが判明した。2. 精子の先体染色法にはナフトールイエローS・エリスロシンB染色が適当であった。3. 精子の保存用希釈液には、TEST-yolk液が米国で使用されているラクトース液(PDV)よりも好適であった。4. 雌の血中プロジェステロンは、9〜12週間隔で周期的に変動することを明らかにした。5. 妊娠判定に、腟スメア検査が有用である可能性を示唆した。6. 卵胞発育と排卵の誘起に、PMSGとhCGの投与が有効であることを、腹腔鏡下での観察により明らかにした。7. 子宮角内への精子注入カテーテルの非外科的経腟挿入を試みたが、子宮頸管より奥への挿入は物理的に困難であった。8. 卵核胞期の未熟卵母細胞は、低率ながら第一成熟分裂終期まで体外成熟できる可能性が示唆された。
著者
橋田 哲士 長神 大忠 上田 佳代子 西角 知也 中川 大輔 瀧田 豊治 栗田 大資 上道 幸史 深井 正輝 久保田 浩 上田 かおる 大江 智子 奥田 和男 楠 比呂志 土井 守
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.847-851, 2006-08-25
被引用文献数
3

雌バーラル(Pseudois nayaur)の血中プロジェステロン(P_4)濃度の年変動を調査し,繁殖季節や発情周期,春機発動などバーラルの繁殖生理を明らかにしようとした.雌バーラル9頭から週1〜2回血液を採取し,ラジオイムノアッセイによりP_4濃度を測定した.血中P_4濃度は,11月または12月(冬)から5〜6月(晩春)までの期間のみ周期的に変動した.この変動に基づく発情周期は,平均24.9±0.5日間であった.血中P_4濃度の上昇開始期前後に,他の雌を追い回す行動や外陰部からの粘液漏出が認められ,これらはバーラルの発情を示す外見的指標になると考えられた.交尾後,妊娠した個体の血中P_4濃度は,周期性を失い,高い値を維持した.調査した37出産例において,出産は4〜9月の間にみられ,5月と6月に全体の約70%が集中していた.出産年月日から推定した受胎時期は10〜4月で,12月が54%と最も多かった.12月は,血中P_4濃度の変動期間の初期にあたることから,ほとんどのバーラルは繁殖季節開始後の早い時期に妊娠し,妊娠しない場合は約25日間の発情周期を繰り返していることが明らかとなった.