著者
廣井 直樹 宮崎 保匡 寺井 秀樹 中島 早苗 斉藤 早代子 金子 幸代 山室 渡 比嘉 眞理子
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.341-346, 2005-09-01
参考文献数
11

食欲不振・嘔吐・嘔気を主訴に入院した70歳の女性。心拍数は72回/分・整であり,動悸や手指振戦はみられなかった。入院後も自覚症状は改善せず,徐々に気力の減退が著明となり食事摂取不能・全身の疼痛も出現した。TSH 0.1μIU/ml以下,FT3 20.0pg/ml以上,FT4 12.0ng/dl以上,TRAb 5.6IU/Lでありバセドウ病による無欲性甲状腺機能亢進症と診断した。Thiamazol 30mg/dayにて内服治療を開始したが精神症状の改善はみられず,さらに抗精神病薬を開始するが内服すら不可能な状況となった。高Ca血症を認めたため血清Caの補正を行ったところ,血清Caの低下に伴いうつ症状は改善した。本症例では一般的な甲状腺機能亢進症患者にみられるようなイライラや不眠,振戦,動悸や頻脈などの活動性亢進に伴う種々の症状は認めなかった。高齢者の場合,食欲不振や嘔気・嘔吐,無動,抑うつ傾向など比較的衰弱した印象が前面に出ることがあり,このような病態を無欲性甲状腺機能亢進症と呼ぶ。バセドウ病における精神症状発症の原因はいまだ明らかではないが,高Ca血症が影響しているとの報告もある。今回われわれは高Ca血症がうつ症状の進展に関与したと思われる無欲性甲状腺機能亢進症の1例を経験したので報告する。
著者
枝松 秀雄
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.290-295, 2005-09-01

人工内耳は,両耳とも聾のために補聴器では全く音感が得られないような患者の内耳の蝸牛内に第8神経を電気刺激する電極を埋め込む手術と,手術後の言語聴取のためのリハビリテーションから構成され,聴覚機能の回復と社会復帰を目指す一連のチーム医療である。人工材料の埋め込みによる感覚機能の回復を目指す医療のなかでも,人工内耳は既に世界でも日本でも症例数の多さから,安定した良好な成績の医療として高く評価されている。手術前には,筆談によるコミュニケーションしかできない患者のなかには,手術後にリハビリを受けて聴覚機能を取り戻し,外来予約も自分で電話できるようになる,あるいは音楽会にも出かけられる症例も存在する。高度難聴の患者は社会的にも経済的にも弱者であるため,人工内耳による聴力回復は唯一の福音である。人工内耳は耳鼻科の高度先進医療として開始されたが,保険認可された現在でも施設認可のために各都道府県に申請を行う。その認可基準には,年間の耳科手術数,常勤医数,人工内耳経験医,言語療法のためのスタッフなどが必要とされる。東邦大学医療センター大森病院耳鼻咽喉科は,2005年2月に人工内耳の施設認可を受けた。今後は,城南地区の基幹病院として高度難聴症例に人工内耳治療を積極的に行っていかなければならない。
著者
黒崎 久仁彦
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.262-263, 2005-07-01

医師法では医師の異状死届出が義務づけられているが,異状死に関する具体的な判断基準がいまだに確立されていないこともあり,実際の医療現場において相当数の安当性を欠く異状死取扱いが行われている。近年,医療行為に関連した死亡例について,どこまでが異状死であるかの解釈を巡って医学界内で論議を呼んでいるが,このような医療関連死に立会った医師は,医療上のミスの有無だけではなく,患者家族の十分なインフォームド・コンセントが得られているかという点も考慮した上で,異状死届出の必要性を判断しなければならない。最近の医療関連死の増加に伴い,医学的および法的にこれらの症例を適切に処理することができる中立的専門機関の早急な設立が期待される。

1 0 0 0 OA 再結成

著者
岡島 行一
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, 2005-01-01
著者
柳川 秀雄 小早川 信一郎 片山 康弘 杤久保 杤久保
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.291-298, 2004-09-01

目的:光学部エッジデザイン,支持部の形状がそれぞれ異なるシリコーン製眼内レンズ(IOL)を用いて,後嚢混濁面積の差異,後嚢への水晶体上皮細胞(LEC)の遊走の程度について比較検討した。方法:白色家兎(51羽)に4種類のIOLを嚢内移植した。IOLは全てキャノンスター社製で,スリーピースでラウンドエッジ(3PRE)のAQ2013Vとシャープエッジ(3PSE)のAQ310NV,ワンピースでラウンドエッジ(1PRE)のAA4203Fとシャープエッジ(1PSE)の改良型IOLの4種類である。超音波摘出術施行3週間後に眼球を摘出し,後嚢混濁面積の解析,LECの観察を行った。結果:AQ2013V群,AA4203F群のそれぞれの混濁面積はAQ310NV群や改良型IOL群に比べ有意に大きかった。1P両群で,支持部におけるLECの増殖抑制が認められた。また,3PRE群や1PRE群のほぼ全眼に,IOL後面へのLECの遊走が認められたのに対し,3PSE群や1PSE群では遊走抑制が認められた。結論:シリコーン製IOLにおいて,シャープエッジデザインのものは後発白内障抑制に効果が期待できる。シャープエッジの1P型IOLは,(1)支持部におけるLECの増殖抑制と,(2)エッジにおけるLECの遊走抑制が期待でき,後発白内障抑制に効果的であることが示唆された。

1 0 0 0 OA 難聴の治療

著者
小田 恂
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.69-73, 2004-03-01

耳疾患の病態生理に関して20世紀の初頭までにはかなり解明されていたが,難聴の治療には結びつかなかった。20世紀の前半,ペニシリンの発見により感染症の治療ができるようになってから急性化膿性中耳炎の治療ができるようになり,1950年代以降は手術法の改良によって慢性中耳炎による難聴の聴力改善が可能になった。1970年ごろから突発性難聴など急性感音難聴の薬物治療ができるようになり,1980年代以降には人工内耳の手術によって高度感音難聴の治療も可能となった。また,補聴器は技術の改良によって小型・軽量化され伝音難聴,感音難聴のどちらにも適応するようになってきた。このように,20世紀はそれまで顧みられなかった難聴の治療が可能になった時代である。