著者
松本 敏治 菊地 一文
出版者
植草学園大学
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-15, 2019

<p> 松本・崎原・菊地・佐藤(2014)は,「自閉症は方言を話さない」とする印象が全国で普遍的であることを報告している。しかしながら,共通語を使用してきたASD が学齢期あるいは青年期において方言を使用するようになる事例が存在するとの報告が教員・保護者からあった。該当する5 事例について,方言使用開始時期および対人的認知スキルに関する55 項目についての質問紙を実施した。方言使用開始時期は,7 歳,9 歳,16 歳,16 歳,18 歳で事例によって差がみられた。獲得されているとされた対人的認知スキルのうち,方言使用開始前後の時期に獲得されたとする項目数の割合は,26%〜97%であった。また,それ以前に獲得されていた項目数と方言使用開始時期に獲得された項目数の割合を領域別で求めたところ,意図理解および会話の領域での伸びが顕著であった。これらの結果にもとづいて,ASD の方言使用と対人認知の関連について議論した。</p>
著者
松本 敏治 菊地 一文
出版者
学校法人 植草学園大学
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-15, 2019-03-31 (Released:2019-08-21)
参考文献数
16

松本・崎原・菊地・佐藤(2014)は,「自閉症は方言を話さない」とする印象が全国で普遍的であることを報告している。しかしながら,共通語を使用してきたASD が学齢期あるいは青年期において方言を使用するようになる事例が存在するとの報告が教員・保護者からあった。該当する5 事例について,方言使用開始時期および対人的認知スキルに関する55 項目についての質問紙を実施した。方言使用開始時期は,7 歳,9 歳,16 歳,16 歳,18 歳で事例によって差がみられた。獲得されているとされた対人的認知スキルのうち,方言使用開始前後の時期に獲得されたとする項目数の割合は,26%〜97%であった。また,それ以前に獲得されていた項目数と方言使用開始時期に獲得された項目数の割合を領域別で求めたところ,意図理解および会話の領域での伸びが顕著であった。これらの結果にもとづいて,ASD の方言使用と対人認知の関連について議論した。
著者
前田 仁士
出版者
学校法人 植草学園大学
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.59-65, 2021-03-31 (Released:2021-03-26)

片頭痛の実態は重い神経障害であり,人口の約10%が日常的に悩んでいる。国際頭痛学会では,4 〜72時間続く再発性の原発性頭痛障害を片頭痛と定義している。頭痛は片側性かつ脈動性が多く,中等度から重度の強さが日常的な身体活動によって悪化し,めまいや悪心あるいは羞明および音過敏を伴うことが多い。片頭痛には周期的な病態の変化があり,「予兆期」,「前兆期」,「頭痛発作期」,「postdrome(後発症状)」と移行する。発作の約3 日前から体調の変化を感じる予兆期には視床下部,脳幹,大脳辺縁系,および特定の皮質領域が活性化し,約3 分の1 の患者は視覚,感覚,言語または脳幹の障害からなる前兆を伴う時期があるが,その際大脳皮質に特有の“spreading depression (CSD)”が生じる。Postdrome ではめまい,倦怠感,身体の痛み,集中力の欠如,抑うつ症状などが残存し,これが仕事などに対する意欲の低下にもつながる問題となっている。片頭痛の発症メカニズムは1938 年から研究され始め,現在も治療薬開発のために世界各国で研究が続いているが,近年になって分子生物学や画像解析技術の進歩により,ようやくその病態解明に光明が現れている。
著者
外山 信司 髙野 良子
出版者
学校法人 植草学園大学
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.65-76, 2019-03-31 (Released:2019-08-21)
参考文献数
12

藩校は藩士の子弟のために諸藩が設立した学校で,私塾・寺子屋とともに近世の教育を担った。明治維新後の近代化と教育の発展は近世に培われたが,教育改革が課題となる中,教育の原点とも言うべき近世の教育について明らかにすることは意義があろう。下総佐倉藩の藩校は1792(寛政4)年,堀田順によって創設された。さらに堀田正睦は藩政改革の一環 として藩校を拡充し,「成徳書院」と改めた。朱子学と武芸を根幹とした教育が行われ,蘭学・英学などの洋学が積極的に取り入れられた。しかし,藩校は15 歳から24 歳までの藩士子弟が就学するのに対し,その前段階の教育については,従来の藩校研究,教育史及び地域史研究においても成徳書院に付随して概要が述べられるにとどまっていた。そこで,本論考では8 歳から14 歳までの藩士子弟が学ぶ教育機関であった東塾・西塾を中心に史資料「両塾諸生心得書」を読み解き,佐倉藩を例に藩校の初等段階での教育がどのように展開されたかについて述べる。
著者
川口 由起子
出版者
植草学園大学研究委員会
雑誌
植草学園大学研究紀要 (ISSN:18835988)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.85-96, 2020

<p> 本稿の分析の対象は,人権侵害に関する苦情や批判を直接のきっかけとして謝罪に至る日本国内の広告等の発行物の文章事例である。本稿の目的は,その謝罪の発信者の伝達内容と意図に対して,日常会話理解の理論における話し手の意図概念を用いた分析が適用可能か,検討することである。語用論先行研究では,推論的に導出される非字義的内容は取り消し可能であるとされてきた。本稿は,2019 年の1 文章事例で,聞き手が導出する非字義的内容の取り消しを認めない批判が存在することを確認し,先行研究の事例と比較検討した結果,当該事例では取り消し可能性の問題が発話と話し手を対象とする道徳的非難と倫理的免責性に関連していること,および,先行研究における意図概念と取り消し可能性の議論に修正が必要であることを示した。</p><p>スマートフォン等からインターネット上の情報にアクセスしやすくなり<sup>2)</sup>,SNS(ソーシャルネットワークサービス)等で低コストで意見が発信できるようになった。その結果,公メッセージに対する迅速かつ多数の批判が容易になり,いわゆる「炎上」状態に至ることもある。批判を受けた公メッセージの撤回の告知や謝罪も,紙媒体だけでなくウェブサイトやSNS 公式アカウント等で発信されるようになった。これらの結果,公メッセージと,批判を受</p><p>けて取り下げ謝罪をする場合の告知の両方が,広く一般市民の目に触れることとなった。</p>