著者
森田 麻登 森島 泰則
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-44, 2017 (Released:2018-08-01)

時間感覚と気分・感情には関連があると考えられているものの,十分な研究は行われていない。そこで本研究では,時間を短く感じる状況と長く感じる状況を想起してもらい,それぞれの特徴を比較検討した。さらに,この2つの状況と抑うつ傾向の関連についても探索的に検討を行うことを目的とした。271名の調査対象者に対し,抑うつ尺度および,主観的時間の長さが変化するような状況・場面について自由記述を実施し,テキストマイニング分析を行った。その結果,時間を短く感じる状況では「快」等,ポジティブな内容の割合が多く,「快」「趣味・娯楽」「他者」の3つに関連がみられた。また,時間を長く感じる状況では「不快」等,ネガティブな内容が多く,「不快」は「学業」と,「退屈」は「アルバイト」と関連がみられた。さらに,抑うつ者は,時間を短く感じる状況として「睡眠」に関する内容を記述する割合が高かった。得られた結果から,心理的時間には,感情価や抑うつ傾向が関連している可能性が示唆された。
著者
森田 麻登 Asato Morita
出版者
共栄学園短期大学
雑誌
共栄学園短期大学研究紀要 (ISSN:09115358)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.167-176, 2011-03-31

本研究の目的は、快と不快の感情価が主観的な時間経過の評価に及ぼす影響を検討することであった。大学生16 名(男性3 名、女性13 名)を対象に、快と不快の感情価を喚起する24 枚の画像を一定時間(3 秒、6 秒、9 秒、12 秒)呈示し、1 枚呈示されるごとに表示されていた時間を秒単位で主観的に評価するよう求めた。呈示された時間間隔と主観的な評価時間のずれを比較したところ、不快条件下で評価された時間は、快条件下で評価された時間よりも有意に長かった。また、不快条件下での評価時間は快条件下での評価時間と比べて、呈示された時間間隔に近いことが確認された。本研究の結果より、感情価によって引き起こされる記憶の情報量、興味・感心、さらに動機づけの強さが主観的な経過時間の評価に影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
森田 麻登
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.305-316, 2012-03-15

本研究は、日本の精神科医療において、伝統的な診断分類と操作的な診断基準の両者が並列的に存在している現状を明らかにした。精神医学領域の各分野からの報告をもとに、伝統的な診断分類と操作的な診断分類の有用性と限界についてまとめた。操作的な診断基準は客観的であり有用な道具であるものの、使い方によっては弊害とも成り得る。一方、伝統的な診断分類は、精神科患者の主観的な体験を理解する手がかりを提供するため、臨床場面で有用である。そこで、操作的な診断名に伝統的な診断分類からの記述を加えることは、患者や家族が精神障害の原因や経過についての理解を容易にする可能性が示唆された。操作的な診断基準は科学性を持ち、伝統的な診断分類は有益性を持っているため、両者をうまく活用することで治療者は多面的に患者を捉えることができ、全人的な医療を進められる。つまり、伝統的な診断分類と操作的診断基準を相対するものとして捉えるのではなく、臨床場面で有益な精神病理学的と研究において有益なDSM 診断と認識し、両者を相補的に用いることが必要である。