- 著者
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守屋 康正
- 出版者
- 横浜国立大学
- 雑誌
- 横浜経営研究 (ISSN:03891712)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.4, pp.357-373, 2004-03
1970年代前半,ラジカセやポケット電卓が市場にでまわり,電子機器のポータブル化が浸透を始めていた.当時急速な進化を遂げつつある半導体技術の賜物であり,その中核は情報技術を劇的に進化させるマイクロプロセッサである.マイクロプロセッサはまさに産業の米ともいえる存在で,それまで空調設備の備わった快適な部屋に鎮座していたメインフレームの存在を脅かし,一方では人の目に触れずに電化製品や産業機器の中へと浸透を開始した.しかしながら,人々が今日のように携帯電話を持ち歩き,ワイヤレスでかつてのメインフレームの何万倍もの処理速度をもつパソコンを利用する姿を,当時誰が想像できたであろうか.いつの世にも将来の予測は極めて難易度が高い.バトラー・ランプソン,チャック・サッカー,ボブ・メトカルフ,アラン・ケイをはじめとするゼロックスPARCの著名な研究者たちは,30年以上も前に今日の情報化社会を展望し,自らの夢の実現に向けた研究成果としての技術的な礎を築いた.これらが技術の進化の過程であるとするならば,米国西海岸のシリコンバレー型モデルとでもいうべき新しい産業構造の興隆が,情報技術の進化にもたらした影響も計り知れない.シリコンバレー型モデルとは,半導体,コンピュータ本体,周辺機器,OS,アプリケーションソフトウエア,ネットワーク基盤,ネットワーク機器,ネットワーク管理ソフトウエア,各種サービスプロバイダなど,コンピュータやネットワークのアーキテクチャを構成するベンチャー企業の固有技術を統合するマルチベンダ型の事業モデルをさす.すなわち,メインフレーマとその傘下の企業が提供するクローズドなシングルベンダシステムの対極である.このシリコンバレー型モデルに参加する企業群は,デファクトスタンダードに沿ったオープンシステムの一翼を担うだけではなく,各層内での競争と協調を繰り返しながら,情報技術の進化を加速した.インターネットを中心とした情報技術分野では,市場受容への適合の力学が存在する.すなわち,優れた技術が市場に適合するとは限らず,市場内の顧客数の閾値,判りやすい商品技術の訴求力,あるいは市場操作能力が適合の条件となる場合が多い.インターネットが商用公開された当時には,多くのプレーヤーがポータルポジションの獲得のためのワンストップ化にしのぎを削り,外部の技術とコンテンッを呑み込んで質量を高めるブラックホールさながらの様相を呈していた.ユビキタスな社会環境が浸透し始めた今日ではこのようなココンペティションの激しさが増している.本書では,このようなユビキタスの技術と事業の相関と競争原理の考察に関する報告である.