- 著者
-
渡辺 孝男
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 環境科学特別研究
- 巻号頁・発行日
- 1985
仙台市では冬季(12月-3月)にスパイクタイヤの使用によって道路粉塵が多量に発生し、ことに都心部での汚染が著明で、環境問題となっている。本研究は仙台市内および対照地区である田尻町下より得たハトの肺、高度道路粉塵汚染空気中で飼育したラットの肺を対象にSi.Al.Ti.Pb.Ca等道路粉塵関連の最素を中心に、環境粉塵濃度と吸入量との対応、生体反応を観察し、長期人体影響の予測を試みた。1)土鳩による道路粉塵曝露調査;1984年3月と1985年2月に捕獲した曝露群と対照群の合計120羽の土鳩の肺の元素分析の結果、曝露群に有意に高値を示すのは、Al,Pb,Ti,Caの4元素であり(P<0.01)、また 遊離珪酸と相関するSi濃度も同様に高い傾向を認めた(P=0.06)。曝露群の肺中の各元素濃度の相互関係では、Si,Ti,Alの3元素間と、Ti,Al,Fe,Cdの4元素間では、相互に有意な相関関係を認めた。以上の所見は、道路粉塵曝露による、Si,Al,Ti,Ca,Pb等の肺内への侵入・蓄積を示す。また、道路粉塵の長期慢性曝露の生体影響の観察に、土鳩による生体学的モニタリングの有用性が明らかとなった。2)動物曝露実験による道路粉塵の生体影響; ラットを用いて、冬季間(12月-3月)の道路粉塵曝露の結果、曝露群ラットの肺中元素濃度が対照群より高値を示したのは、Al,Siの2元素であった。なお、ラットの肺中元素濃度は土鳩のそれに比してかなり低レベルであった。道路粉塵曝露による生体影響では、曝露群で若令期の体重増加の抑制傾向を認めた。しかし、加令とともにその差は小さくなり、曝露中止後はその抑制傾向を回復し、曝露群と対照群、非曝露群との間で差を認めない。臓器重量および一般血液、血清生化学性状では、3群間に特定の有意な変動を認めない。なおラットの道路粉塵曝露実験は、1年1期間の短期間であり、道路粉塵の生体への慢性影響の観察には、さらに長期の継続的道路粉塵曝露実験が必要かつ重要である。