著者
永田 豊 吉田 次郎
出版者
東京大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1986

海洋中に放出された河川水・温排水と周囲水との間に形成されるフロントは排出水の拡散を抑制する。フロントの形成は比較的小規模な放出条件においても見られるが、現象が大規模化し地球自転効果が有意に効きはじめるとより明確になる。本研究では、大規模排水にともなう温水あるいは汚染物質の拡散予測の問題に関連して、排水と周囲水の間に形成されるフロントの果たす役割をそこに生じる波動あるいは渦動に焦点を当てて研究したものである。数値実験・水槽実験の両手法を通した研究を行なったが、前者では主として地球自転効果のフロント強化作用の解明につとめ、フロント前面での水の収束発散がいかにその生成に影響するかを明確にした。波動・渦については主として回転水槽実験を通して研究したが、沿岸からの排水にたいして、その放出角度が渦動の性質に大きな影響を与え、北半球では海岸線沿い左方向の速度成分を持たす形で放出した場合に非常に早い段階から渦の発生・水塊の分裂が起こることを示した。この分裂は、従来水槽の中央部で水平速度成分を抑えた形での放水実験のときに現れた分裂現象とは本質的にその性質が異なっている。条件をより単純化するため、放水口を水槽の中央に移し種々の水平速度を与えた場合についても渦の発生の様子を調べた。その結果強制的な流れが水塊の縁に沿う形で放水が行なわれるときと、放水口が明らかに水塊の内部に位置してしまう場合とでは異なった不安定・渦の分裂が起こることが示された。これは前述の沿岸に放出口を置いたときのフロントの性状に対する放出角の影響の仕方をよく説明するものである。このような放出角に対する温排水の振舞の違いは、福島第一原子力発電所の場合にも明らかに認められており、自転効果の現れを示すと考えている。またここで得られた結果は数値予測を行なう場合の渦動拡散係数の取り方などに有効な指標を与えるものであると考えている。
著者
渡辺 孝男
出版者
東北大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

仙台市では冬季(12月-3月)にスパイクタイヤの使用によって道路粉塵が多量に発生し、ことに都心部での汚染が著明で、環境問題となっている。本研究は仙台市内および対照地区である田尻町下より得たハトの肺、高度道路粉塵汚染空気中で飼育したラットの肺を対象にSi.Al.Ti.Pb.Ca等道路粉塵関連の最素を中心に、環境粉塵濃度と吸入量との対応、生体反応を観察し、長期人体影響の予測を試みた。1)土鳩による道路粉塵曝露調査;1984年3月と1985年2月に捕獲した曝露群と対照群の合計120羽の土鳩の肺の元素分析の結果、曝露群に有意に高値を示すのは、Al,Pb,Ti,Caの4元素であり(P<0.01)、また 遊離珪酸と相関するSi濃度も同様に高い傾向を認めた(P=0.06)。曝露群の肺中の各元素濃度の相互関係では、Si,Ti,Alの3元素間と、Ti,Al,Fe,Cdの4元素間では、相互に有意な相関関係を認めた。以上の所見は、道路粉塵曝露による、Si,Al,Ti,Ca,Pb等の肺内への侵入・蓄積を示す。また、道路粉塵の長期慢性曝露の生体影響の観察に、土鳩による生体学的モニタリングの有用性が明らかとなった。2)動物曝露実験による道路粉塵の生体影響; ラットを用いて、冬季間(12月-3月)の道路粉塵曝露の結果、曝露群ラットの肺中元素濃度が対照群より高値を示したのは、Al,Siの2元素であった。なお、ラットの肺中元素濃度は土鳩のそれに比してかなり低レベルであった。道路粉塵曝露による生体影響では、曝露群で若令期の体重増加の抑制傾向を認めた。しかし、加令とともにその差は小さくなり、曝露中止後はその抑制傾向を回復し、曝露群と対照群、非曝露群との間で差を認めない。臓器重量および一般血液、血清生化学性状では、3群間に特定の有意な変動を認めない。なおラットの道路粉塵曝露実験は、1年1期間の短期間であり、道路粉塵の生体への慢性影響の観察には、さらに長期の継続的道路粉塵曝露実験が必要かつ重要である。
著者
池田 孝之 平良 博紀 小場 京子 崎山 正美
出版者
琉球大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1986

1.壁面緑化省エネ効果実例実験の方法(1)実験対象は、屋上緑化収集事例より沖縄県読谷村の住宅とした。当地は始めは米軍家族用住宅として造られた屋根スラブのみの平屋コンクリート住宅約30戸の住宅地である。実験は、屋根スラブ上面に棚をこさえ緑をはわせた緑化住宅と屋根スラブのみの住宅を比較対象とした。(2)測定は、気温を中心に屋根緑ネット内,屋根上部空気層,屋根表面,天井内,室内,戸外で行なうと同時に、室内湿度,屋根面日射量,微風速も測定した。測定器具は、自記温度計(マルチロガー12CH,銅・コンスタンタン熱電対),自記湿度計ロビッチ自記日射計,風速型指示風速計を用いた。(3)期間は、残暑厳しい10月22〜25日の4日間の快晴日で、自動記録で終始継続的に行われた。2.壁面緑化のふく射熱緩和効果一日の最も大きな温度変化は、緑化なし屋根面で、19.9℃(6:17)〜43.0℃(14:4)と23℃の変動があるのに対し、緑化住宅屋根面では終日22℃(6:14)〜25.7℃(16:44)と大きな変動はなく安定している。特に、13時〜15時には、両邸の差は最大23℃と著しい。直ぐに日射を受ける屋根面と、緑を施した場合とではふく射熱の差が大で、緑による遮へい効果の高さがうかがえる。(2)室内温の日変化は、緑化なし住宅が23.3℃〜29.7℃で6℃の変動に対し、緑化住宅では24.3℃〜28.7℃と変動が小さい。両邸における室温の差は17時に最大3℃となる。(3)但し屋根面温度の著しい差がそのまま室内温に反映される訳ではなく、天井ふところによる緩和作用も大きいことが伺える。(4)緑なし住宅の室温や天井内温が緑化住宅のそれと同様な値となるのは21〜22時頃からであり、日中のふく射熱がかなり遅くまで蓄積されていることを如実に示す。
著者
瓜生 道也
出版者
九州大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

本研究では、八代海に面する八代平野全域にわたるスケールで観測を行い、沿岸地域の大気運動に影響する海陸風の解析を試み、その特徴を明らかにすることを目的とした。観測実施日は昭和60年8月6日午前6時から翌8月7日午前10時30分までであった。全般的な気象状況としては、九州南海上に台風が接近していたがほぼ穏やかな晴天で強風等の異常は認められなかった。しかし夕立のため1・2回欠測にせざるを得ない観測点もあった。観測場所は熊本県八代市およびその北部地域で、内海的な八代海と背後に山岳を控えた平胆な平野部から成る。ここに5つの観測点を設置し、係留気球により気圧・気温・湿度・風向・風速の5要素を地上から700m上空まで、約50m間隔で測定した。測定は1時間30分毎とし、気球浮揚時には地上における気圧をアネロイド気圧計で、気温・湿度をアスマン型温湿計で測定した。観測データは、1測定高度につき時間平均した後、空間・時間補間して確定データを作成した。このデータより、海風の風向時間帯はほぼ午前6時頃から午後7〜8時頃までと思われる。しかし、海風時間帯は断続的であり陸風との区別がつきにくい場合があった。これより八代の海陸風を特徴づけているのは、背後の山岳地域の山谷風であると考えられる。局地風循環の数値シミュレーションでは、先ず1次元モデルで風の日変化・斜面角と位相の関係などを調べた。その結果斜面では境界層が非常に薄くなり、また位相は早くなるという特徴があり、観測結果の物理的解釈ができるように思われる。さらに2次元モデルで海陸風と斜面の関係を調べたが、斜面の長さの有限性がより現実的な結果をもたらした。
著者
井上 博愛
出版者
東京大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

本研究においては、空気、又は酸素のみを酸化剤として、熱・触媒電気あるいは光を利用して、排水中の汚染有機物質の効率よい酸化除去プロセスの確立をめざすもので、5つの分担課題により研究が行われた。1.触媒湿式酸化反応による難分解汚染物質の除去:難分解性物質の酸化コバルト触媒による酸化速度を解析し、総括の速度式を導いた。その速度と種々の物質の水素引き抜きの難易とが、よい対応を示すことを明らかにした。さらに、触媒充填における工学的課題についても検討を加え、装置内で効率よく反応を行わせるための触媒担持方式を明らかにした。2.湿式酸化反応による有機汚染物質の改質除去:湿式酸化処理による廃液の好気性生物処理実験を行い、湿式酸化によって、廃液の生物分解性が向上することを明らかにしたが、さらに生物処理の効率を高めるため、新たに開発した多孔質樹脂を利用した生物膜を用いた実験を行い、条件によっては可成りの効率の向上が認められた。3.電解酸化分解による廃液処理の高度化、過酸化水素生成条件および、分解に伴う廃液の酸化処理過程との効率よい結合をめざし、処理装置の設計と、その最適条件の検討が行われた。1段プロセスおよび2段プロセスの、両者の経済評価が行われた。4.高活性触媒を用いた廃液の常温処理:疎水性ポリマー担持白金触媒の調製法を改善し、高分散化をめざすことによって、アルコールの直接酸化活性を著しく向上することが出来た。さらに、二元金属化および分解促進機能を有する担体の利用が試みられた。5.光触媒を用いた廃液の常温処理、酸化チタンの光触媒作用、微量金属銅添加効果を明らかにし、トリハロメタン類の有機汚染物質の脱塩素分解反応を行わせ、その脱塩素速度、および分解速度の解析が行われ、光触媒が極めて優れた効果を与えることを見出した。
著者
堀江 悟郎
出版者
関西大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

1. 資源調査ランドサット5号のデータを使用して、都市内緑地の表面温度低下の程度などについて解析を行なった。解析に使用したデータは夏秋冬の3種とし、対象は都内緑地、新宿副都心、住宅地である。緑地分布と温度分布の両図を比較すると、夏季においては緑地と低温域とがきわめてよく一致している。緑地がほとんど存在しない中野区、豊島区の一部地域では特に温度の高い傾向がみられる。秋季と冬季についての解析によれば、夏から冬へ季節が移るのに伴い、温度分布と植生の相関が次第に小さくなる。また、森林の割合が同程度の場合は一ブロックの森林面積が大きいほど温度が低く、面積が同じであれば森林割合の大きいほど温度低下の傾向がある。以上のように緑地の温度低下の実態や、季節、植生の差などの影響が明らかとなった。ランドサットデータの熱赤外バンドの分析は熱環境調査に役立つ。2. 地表が土、コンクリート、芝生の3種および街路樹のある街路を含む市街地空間で、建物、地表面、樹木の表面温度と、地上1mの空間における熱放射環境の測定を行なった。表面温度の日変化は、枯芝、土、緑芝、コンクリートの順に較差が小さくなり、樹木の葉面は気温の変化とほぼ等しい。夜間の放射温度は相対的に囲われた空間ほど高い。樹木は、日射遮蔽と低い葉温による長波ふく射温度上昇の抑制により、草地は地表面温度の上昇抑制により、熱環境緩衝機能を有することが明らかとなった。3. 緑のある住宅内坪庭の熱環境を測定して気象台データおよび高層住宅ベランダのデータと比較解析を行なった。坪庭では、気温は昼夜間ともベランダより低く、湿度は昼間高く夜はほぼ等しい。屋内は、坪庭住宅では扇風機を、高層住宅では冷房機を使用しているため比較できない。申告によれば、通風のあるときは涼しく、通風がなければ冷房または扇風機に依存せざるを得ない状態である。
著者
住 明正 新田 勍 岸保 勘三郎
出版者
東京大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1986

大気中の二酸化炭素の増加は、温室効果により、大気中の気温を上昇させ、大規模な気候変化を引き起こすとされている。しかしながら、従来のモデルの計算では、海面水温を気候値に固定して行なって来た。しかしながら、最近の大気ー海洋結合モデルの結果によれば、同時に、海面水温も増加するという結果が得られている。しかし、海面水温が上昇すると、当然、積雲活動が変化する。それ故に、【CO_2】の気候変化に対する影響を見積るためには、この積雲活動のふるまいを正しく理解する必要がある。このためには、積雲活動の振舞を充分に表現出来るような大気ー海洋結合モデルを用いれば良いのであるが、現在の計算機の能力では時期尚早である。そこで、本研究では、高分解能の東大大気大循環モデル(T4-2全球スペクトルモデル)を用い、海面水温上昇を既知として、その後の、積雲活動の分布の変化を計算し、【CO_2】の増加に伴う、気候の変化の予測を行うことを目標とした。その結果、熱帯域では、海面水温が東西に一様であっても、積雲群は特長的な分布をすることが分かった。つまり、海洋の西半分に、二本のITCZ(熱帯収束帯)が、そして、赤道上では、海洋中央から東に積雲群が分布する。この傾向は、初期値、海面水温の絶対値には、依らなかった。【CO_2】による海面水温の上昇は、東西に一様になるという結果が得られているので、そのような温度アノマリーを与えると、当然の様に、海洋西半分のITCZの積雲活動が強化される。その結果は、亜熱帯ジェットの強化、そして、低気圧活動の強化と一連の現象をへて、中緯度に伝わっていく。しかしながら、それは、東西一様ではなく、大陸の西半分で顕著であった。日本のように、大陸の東端には、それ程顕著な影響は見られなかった。この結果を確証するには、更なる実験が要る。