著者
齋藤 寛 柴田 義貞 高村 昇 渡辺 孝男 中野 篤浩 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故において、事故時に乳幼児であった世代から甲状腺がんが多発したことはよく知られているが、この詳細なメカニズムについてはまだ明らかになっていない。一方で、事故直後に放射能の除染を目的として鉛をはじめとする重金属類が空中から散布されたことが明らかになっており、すでに鉛の汚染状況についての地図も作成されている。しかしながら、これによる住民の健康影響については、これまで全く調査が行われていない。近年、in vitroにおいて、カドミウムやニッケルといった金属に曝露したcell lineにおける遺伝子不安定性が報告されており、放射線被ばくと同様、金属曝露も遺伝子不安定性の原因となることが示唆されてきている。そのため我々は、主にウクライナ放射線医学研究所との共同研究で、チェルノブイリ原発事故のもう一つの側面として、同地区における金属汚染の実態を明らかにし、さらにこれによる染色体レベルでの変異解明を目的としている。本年度は、昨年度までの解析結果に加えて毛髪を用いた微量金属の再評価を行ったが、毛髪と金属汚染レベルでは相関関係はみられなかった。その一方で血液中の微量元素については有意に上昇しているものがみられ、今後さらなる評価が必要であると考えられた。7月にはこれまでの研究成果の総括を行うために、研究代表者、分担者に加えてウクライナの海外共同研究者、さらに国内や中国、ベラルーシ共和国などからも専門家を招聘しての国際会議を開催し、グローバルな視点からの金属汚染の現状についての報告と今後の取り組みについて協議した。
著者
渡辺 孝男
出版者
東北大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

仙台市では冬季(12月-3月)にスパイクタイヤの使用によって道路粉塵が多量に発生し、ことに都心部での汚染が著明で、環境問題となっている。本研究は仙台市内および対照地区である田尻町下より得たハトの肺、高度道路粉塵汚染空気中で飼育したラットの肺を対象にSi.Al.Ti.Pb.Ca等道路粉塵関連の最素を中心に、環境粉塵濃度と吸入量との対応、生体反応を観察し、長期人体影響の予測を試みた。1)土鳩による道路粉塵曝露調査;1984年3月と1985年2月に捕獲した曝露群と対照群の合計120羽の土鳩の肺の元素分析の結果、曝露群に有意に高値を示すのは、Al,Pb,Ti,Caの4元素であり(P<0.01)、また 遊離珪酸と相関するSi濃度も同様に高い傾向を認めた(P=0.06)。曝露群の肺中の各元素濃度の相互関係では、Si,Ti,Alの3元素間と、Ti,Al,Fe,Cdの4元素間では、相互に有意な相関関係を認めた。以上の所見は、道路粉塵曝露による、Si,Al,Ti,Ca,Pb等の肺内への侵入・蓄積を示す。また、道路粉塵の長期慢性曝露の生体影響の観察に、土鳩による生体学的モニタリングの有用性が明らかとなった。2)動物曝露実験による道路粉塵の生体影響; ラットを用いて、冬季間(12月-3月)の道路粉塵曝露の結果、曝露群ラットの肺中元素濃度が対照群より高値を示したのは、Al,Siの2元素であった。なお、ラットの肺中元素濃度は土鳩のそれに比してかなり低レベルであった。道路粉塵曝露による生体影響では、曝露群で若令期の体重増加の抑制傾向を認めた。しかし、加令とともにその差は小さくなり、曝露中止後はその抑制傾向を回復し、曝露群と対照群、非曝露群との間で差を認めない。臓器重量および一般血液、血清生化学性状では、3群間に特定の有意な変動を認めない。なおラットの道路粉塵曝露実験は、1年1期間の短期間であり、道路粉塵の生体への慢性影響の観察には、さらに長期の継続的道路粉塵曝露実験が必要かつ重要である。
著者
加藤 陸奥雄 石井 孝 渡辺 孝男 吉田 勝一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.83-88, 1966
被引用文献数
8

ドライアイスから発散する炭酸ガスを誘引源とする蚊採集用トラップ(図4, 図5)を考案した. 1964年夏, 宮城県名取市下余田にある畜舎(豚舎, 牛舎)に加藤式蚊トラップをつけ, この近くに新らたに考案したトラップを設置して, 2種トラップ間での 1) 採集蚊の種類数構成比較, 2) 夜間1時間ごとに採集した場合の採集蚊数変動比較を行なつた.結果は次の通りである : 1) 採集された蚊はコガタアカイエカ, キンイロヤブカ, シナハマダラカ, アカイエカ, オオクロヤブカの5種類で, 採集蚊の種類数構成は多くの場合2種トラップ間で有意的差があつた(表1, 図7). 2) 夜間1時間ごとに採集した場合の採集蚊数変動はコガタアカイエカ, アカイエカ, シナハマダラカについては2種トラップ間で顕著な差を示したが, キンイロヤブカにおいてはあまり顕著でなかつた.
著者
松山 恒明 小金沢 孝昭 鎌田 慶朗 渡辺 孝男 田中 武雄 中屋 紀子 本田 強
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、総合講義「学校給食」の実践を行なう中で、研究会や現地見学を行いながら、教員養成課程で行なうべき「学校給食」関連の講義内容を検討してきた。調査・検討の結果、まず第一に学生の反応であるが、学校給食や食に関する内容について関心が高く2年間とも各300人の学生が受講した。学生たちは、学校現場で行われている学校給食に関心が高く、またこれらを客観的に捉えることのできるこの講義に興味を示した。学校給食への理解については、講義開始時のアンケートで子供たちと食べる昼食程度にしか学校給食を捉えていなかった学生も、講義終了時には学校給食が食や環境、健康を理解する上で重要な教育機会であることに気づくようになった。この点については各年度に行なった学生アンケートに詳しく報告されている。第二に講義内容であるが、2年間の講義実践と学生の反応によって教員養成課程の「学校給食」の講義内容は概ね4つの領域で講義すると、「学校給食」の持っている教育機会を説明することが可能であることが明らかになった。1つは学校給食の現状とその安全性についててある。ここでは学校給食がどのような目的のために、どのように運営されているのかを実践報告を交えながら講義した。2つは、こどもたちの食生活がどのような状況にあるのかを明らかにすることである。日々の食生活でどのような点に問題点があるのか、学校給食で補える課題を整理した。3つは学校給食で食べている食がどのように生産されているのか、食についての基礎知識の習得である。とくに食と環境とのつながりにも留意した。4つは食と健康とのつながりについての基礎知識の習得である。食事が健康にどのように関連しているのかを具体例をあげて講義した。これらの研究成果は、昨年度の中間報告書と今年度の最終報告書に整理してあるが、この研究を通じて、学枚での食・栄養教育の重要性ならびに教員養成課程での学校給食に対応した講義の必要性が確認された。また、今後は各教科と学校給食とを連携させた栄養教育の研究が課題となった。
著者
中塚 晴夫 渡辺 孝男 池田 正之
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

一般家屋に於ける空気の汚染源としては、暖房装置と炊事用熱源が挙げられるが、本研究では前者に注目し、その種類によって自覚症状に変化が見られるか否かを調査した。対象は宮城県仙台市・涌谷および田尻町の3地区40歳以上の男女32124人(男14383人、女17741人)とし、この人達にアンケート調査をした結果の解析を行うとともに、これに同県白石市の8千人の対象者を加えるための調査を行った。暖房に関する質問として、(1)暖房しない(2)電気ストーブまたは電気ごたつ(3)エアコン、セントラルヒーティングまたはスチーム(4)クリーンヒータ(5)煙突付きのストーブ(6)煙突無しストーブ(7)炭や煉炭の火鉢やこたつなど、のどれを使うかを回答してもらい、汚染源となる(6)(7)のいずれか一つでも用いる群(I)と、いずれも用いない群(II)とに対象者を分けて自覚症状に差が見られるか否かを検討した。その結果、撹乱因子の少ないと思われる非喫煙者を見ると、男子では涙が出やすい(Iで13%、IIで10%、値はいずれも年齢訂正有症率、以下同様)と疲れやすい(I16%、II13%)という自覚症状が汚染源を使用する群に有意(P<0.05)に多く、女子では鼻汁がよく出る(I11%、II10%)と不眠(I10%、II8%)に有意の差が現れていた。それ以外では統計的に有意とはならないが、男子では、せき、たん、眼の充血、眼がコロコロする、女子では眼の充血、眼がコロコロする、涙が出やすいなどが増加する傾向を示した。また、生活環境に影響を与える道路に面した家屋に住んでいるか否かについても解析したが、この影響は明確で、非喫煙女子では「症状無し」も含め17項目中9項目に有意差が認められた。以上のことから、暖房にともなう屋内汚染の人体に対する影響は若干認められるが、その程度は道路に代表される屋外環境の影響よりは少ないと推定される。