著者
添田,愼介
出版者
日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, 1998-09-25

Tacrolimus is an immunosuppressant macrolide isolated from Streptomyces tsukubaensis. It is used clinically to prevent the rejection of tissue transplants. To achieve the industrial production of tacrolimus, development research was aimed at breeding strains that efficiently produce tacrolimus, optimizing the cultivation conditions, determining an effective purification method, and establishing a means of rapid quantitative analysis. The wild-type S. tsukubaensis was sequentially treated with ultra violet light to furnish various types of morphologically altered mutants, from which a desired strain was selected and bred. For the fermentation of the new strain, a cultivation medium was formulated with a low viscosity and resistant to thermo-denaturation on sterilization. In a scale-up study, in which the fermentor size was increased from 30l to 25kl, the productivity of tacrolimus was found to be well reproduced by keeping both the dissolved oxygen and the agitation at low levels during the growth phase of the producing strain. As a result of these procedures, the concentration of tacrolimus in the fermentation broth was increased 300-fold over that obtaind in the early stages of the research with the wild strain. S. tsukubaensis produces many kinds of proteins and oligosacchalides as well as various types of tacrolimus related compounds. To remove these impurities effectively, the cultivation broth was directly extracted with acetone. The extract was successively purified with a high porosity absorbance resin, and acidic and natural silica gel column chromatography, followed by recrystalization in aqueous acetonitrile, to obtain tacrolimus monohydrate. Tacrolimus itself is readily converted to optical and steric isomers in an aqueous solution. When tacrolimus was analyzed by HPLC at lower temperatures, the peaks corresponding to the macrolide were complex because of cis-trans isomerization in the column. The problem was overcome by heating the column to 50℃, when the isomerization rate was so high that the peaks were fused into a single, sharp one. The epimerization ratio was found to depend on the concentration of water in the solution, but the ratio remained constant when a Brij-35 solution used as a diluent. By these procedures, a simple, rapid and reliable analytical method was established. The industrial production of tacrolimus was thus achieved by a combination of fermentation, purification, and analytical investigations.
著者
上野 義栄 平賀 和三 森 義治 小田 耕平
出版者
日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.109-114, 2007
参考文献数
30
被引用文献数
4

古来の発酵法を用いて製造した京漬物,千枚漬けよりγ-アミノ酪酸(GABA)を高生産する乳酸菌が分離され,Lactobacillus sp. L13と同定,命名した.本菌は,増殖にグルタミン酸を要求し,高濃度のグルタミン酸存在下でGABAを高生産した.培養液のpHを酸性(pH5)に維持すると, 800mMのグルタミン酸ナトリウムより81%の変換率で,最大650mM (6.7%)のGABAを生産した.この乳酸菌をスターター菌として使用し,GABAを0.1%含有した千枚漬けを試作した.官能評価の結果,従来の製品よりも風味のすぐれた千枚漬けの製造が可能であることが示された.
著者
佐々木 健 岸部 貴 竹野 健次 三上 綾香 原田 敏彦 大田 雅博
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.91, no.8, pp.432-446, 2013-08-25

光合成細菌,Rhodobacter sphaeroides SSIを,電磁石で回収可能な多孔質セラミックに固定化して,放射性核種であるU,SrおよびCoと重金属または有害金属のHg,Pb,Cr,CdおよびAsの除去実験を行った.ほぼ100%のU,82%のSr,58%のCoと,ほぼ100%の重金属または有害金属が,2-4日間,人工下水中で好気処理することにより除去された.廃棄ガラスで作製した多孔質セラミックにSSI株を固定化したところ,CsとSrの同時除去が達成された.1トンタンクを用いた屋外実証実験では,ほぼ100%のCsと,62%のSrが,2-3日の処理後に除去されていた,アルギン酸を用いて約2cmのビーズ状に固定化したSSI株を用いて,福島市中の学校の水泳プールの放射性Cs除去を行った.3日の好気処理で水泳プールの底の底質(ヘドロ)中に蓄積された放射性Csの約90%が除染された.このビーズは少なくとも3回は繰り返し使用が可能であった.回収したビーズは,低温(約600℃)で乾燥と灰化を行うと,重量と容量がそれぞれ,99.3%と97.3%に,放射能を大気中にまき散らすことなく減容できた.さらに,福島の放射能汚染された土壌について,乳酸発酵と嫌気消化を前処理として行い,引き続き固定化SSIビーズで追加処理を行ったところ,約19日のSSI株追加処理で放射能汚染土壌の放射能の約70%が除染された.このように,乳酸発酵と嫌気消化と固定化SSI処理を新規に組み合わせることにより,土壌に対する実用的かつ効果的な放射性Csの除染技術が開発された.
著者
田中 一郎 貴戸 武司
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.368-369, 2008-07-25

大豆は縄文時代の遺跡の調査からすでに食品として利用されていたことが分かっている.大豆がどのように調理されていたか知る由もないが,興味のあるところである.想像するに当時でもすでに大豆は栄養価が高いことを評価していたかもしれない.大豆は畑の肉とも言われておりバランスの良い食品である.帯広畜産大学地域共同研究センターと産業クラスターを中心にして,豆腐を利用した新製品を研究開発したのでこの内容を紹介する.
著者
植田 和光
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.86, no.10, pp.473-475, 2008-10-25

動物はさまざまな食べ物を口から摂取し,消化後,必要な栄養素を小腸から吸収して生きている.単糖やアミノ酸など水溶性化合物は脂質二重層を通過できないため,それらを特異的に通過させる膜タンパク質であるトランスポーターを小腸上皮に発現させ体内に吸収している.一方,食物中に含まれるさまざまな脂溶性低分子化合物は自由に脂質二重層を通過し,体内に吸収される.問題は,それらの脂溶性低分子化合物の中に多くの有害物質が含まれていることである.それゆえ,我々の体は有害なものを何らかの方法で見分けて排出する必要が生じる.たとえば,コレステロールと植物ステロールであるシトステロールとの構造の違いはエチル基ひとつだが,シトステロールは我々の体にとって有害である.我々の体はコレステロールとシトステロールを識別しており,食物中のコレステロールは50-60%が小腸上皮から吸収されるのに対して,シトステロールは排出系が働いた結果5%以下しか吸収されない.最近,ABCタンパク質の多くのメンバーが体内での脂質,脂溶性物質の移動を担っていることが明らかになってきた.上記のシトステロール排出はABCG5/ABCG8が担っている.また本稿で述べるように,ABCA1とABCG1はコレステロールを移動させることによって体内のコレステロール恒常性に重要な役割を果たしている.ABCタンパク質の異常は高脂血症,動脈硬化,糖尿病,老人性の失明,新生児呼吸不全,皮膚疾患など多くの疾病と結びついており,ABCタンパク質の発現や機能を調節することができれば,多くの疾病の予防や治療に役立つことが期待される.
著者
松尾 達博 路 暢
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.89, no.7, pp.401-403, 2011-07-25

D-プシコースはD-フルクトースのC-3エピマーであり,自然界に非常に僅かしか存在しない希少糖の一つである.これまでに動物実験やヒト経口糖負荷試験において,D-プシコースの食後血糖値上昇抑制作用が報告されている.本研究では,日常生活条件下におけるD-プシコースの食後血糖値上昇抑制作用について,健康な成人男性15名および成人女性29名を対象として検討した.実験食として予め各被験者に日常的な昼食(男性:636kcal,炭水化物量87.6g,女性:513kcal,炭水化物量18.9g)を設定させた.実験当日,各被験者に実験食とともにD-プシコース6gあるいはD-フルクトース6gを市販無糖紅茶に添加した飲料を摂取させた.摂取前および摂取開始後30,60,90,120分に小型血糖測定器で血糖値を測定した.全体および男女別のいずれの場合でも,被験者の食後血糖値はD-フルクトース飲料を摂取した場合に比べて,D-プシコース飲料を摂取した場合で有意に低値であった.日常的な食事とともにD-プシコース飲料を摂取した場合でも食後血糖値上昇抑制効果が確認されたことから,D-プシコースが2型糖尿病や肥満の予防・解消に有効な機能性食材である可能性が示唆された.