著者
河合 駿 鉾碕 竜範 鈴木 彩代 若宮 卓也 中野 裕介 渡辺 重朗 岩本 眞理
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】動脈管早期収縮は胎生期に動脈管が狭小化することにより出生後から遷延性肺高血圧や右室壁肥厚を来す疾患である。母体が摂取する様々な物質が本疾患を誘起することが報告されている。今回我々は妊娠中の食生活が影響したと推測される動脈管早期収縮の一例を経験したので報告する。【症例】日齢6の女児。在胎39週3日、体重3792g、APS8/9、自然分娩で出生。出生3時間後からチアノーゼ(体動によりSpO2が80~95%で変動する)を指摘されて前医NICUに入院した。日齢1より酸素投与(鼻カヌラ1.0L/min)開始したがその後もチアノーゼは改善せず、日齢6で当院NICUに新生児搬送となった。心エコー検査で右室求心性肥大と右室圧上昇、卵円孔での両方向性短絡を認め、わずかに開存している動脈管を確認した。動脈管は前医での出生直後の心エコー検査でも同様に細かったことが確認されており、遷延性肺高血圧の原因となる他の疾患を認めないことから、動脈管早期収縮を疑った。転院後も酸素投与のみで経過観察を継続し、日齢13で肺高血圧の改善を確認し酸素投与を中止、再増悪なく日齢18で退院した。母からの聴取により、妊娠中は毎日プルーン3個と種々のドライフルーツ、1日1杯市販の青汁を積極的に摂取していたことが判明した。【考察】プルーンに多く含まれるアントシアニンなどのポリフェノールにはMAP kinaseやPI-3 kinaseの作用を阻害することによるCOX-2発現の抑制作用が報告されている。胎児の動脈管は胎生期後半に増加するPGE2によりその開存が維持されるが、COX-2阻害によりPGE2の産生を抑制されると、妊娠後期に動脈管狭小化を引き起こす。本症例では胎児期の動脈管は評価できていないが、経過より妊娠中のポリフェノール過剰摂取が関与した可能性が疑われた。【結語】ポリフェノールは様々な健康食品に含まれる。妊娠中の過剰摂取は動脈管早期収縮の原因となる可能性もあるため、その危険性を周知する必要がある。
著者
中本 祐樹 吉敷 香菜子 石井 卓 稲毛 章郎 上田 知実 嘉川 忠博 朴 仁三 和田 直樹 安藤 誠 高橋 幸宏
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】手術技術の向上と内科管理の進歩によりFontan型手術の生存率は飛躍的に向上したが、Fontan手術適応ぎりぎりの症例に直面することも少なくない。またfenestrationを設けるべきかどうかの基準も一定の見解が無いのが現状である。【目的】Fontan手術の適応限界やfenestrationを設ける基準について検討すること。【方法】2010年1月~2013年12月までの4年間に当院でTCPCを行った128例を対象とした(IVC欠損例は除外した)。手術時年齢の中央値は2.5歳(1.0~37.0歳)。nonfenestrated TCPC手術(n-TCPC)を行った症例をN群(n=82, 64%)、fenestrated TCPC手術(f-TCPC)を行った症例をF群(n=46, 36%)とした。【結果】 病院死亡は2例(1.6%)、遠隔死亡は1例(0.8%)ですべてF群であった。術前カテデータでは、F群の方がN群よりSaO2が低く(83±5% vs 86±4%)、PAIも低かった(219±117 vs 291±129)。術後入院期間は、F群の方がN群より長かった(44±81日 vs 25±16日)が、術後ドレーン留置期間に差はなかった。術後カテデータでは、F群の方がN群より主心室の拡張末期圧が高く(9.2±3.4 vs 7.0±2.6)、肺動静脈間圧較差が小さく(4.5±1.4 vs 5.5±1.9)、SaO2が低かった(87±35 vs 94±2)。Qsに差はなかった。F群の3例(6.5%)、N群の2例(2.4%)でPLEを発症した。【考察】F群で死亡例やPLE発症例を多く認め、術後入院期間も長かったのは、術前条件が不良でFontan手術の厳しい症例が多かったことによる。術前のSaO2の低い、PAIの低い症例は、肺血管床の発育が不十分でありfenestrationを設けるべきである。しかし、fenestrationを設けた場合には術後主心室の拡張末期圧が高くなる可能性がある。【結論】肺血管床の乏しい症例はfenestrationを設けた方が良いが、心機能の悪い症例はfenestrationは無い方が良い。肺血管床が乏しく心機能も不良な症例のFontan手術適応は慎重に判断すべきである。
著者
亀井 直哉 田中 敏克 三木 康暢 祖父江 俊樹 小川 禎治 佐藤 有美 富永 健太 藤田 秀樹 城戸 佐知子 大嶋 義博
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)において、2心室修復を目指して肺動脈弁に介入する方法として、カテーテル治療と外科治療がある。【目的】PA/IVSに対する初回介入として、経皮的肺動脈弁形成術(PTPV)とopen valvotomyでの治療経過の相違を検討する。【対象・方法】2006年から2014年にPA/IVSでの初回介入としてPTPVをtryした10例中、不成功に終わった4例(1例は右室穿孔でショック)を除く6例(P群)と、open valvotomy6例(S群)の経過を後方視的に検討した。【結果】両群間で介入時体重、右室拡張末期容積(%N)、三尖弁輪径(%N)、肺動脈弁輪径(%N)、術後追跡期間に有意差はなかった。P群の使用バルーン径/肺動脈弁輪径比は100-125%であった。S群の1例で、三尖弁形成と体肺動脈短絡術が同時に行われていた。術後ICU滞在日数、挿管日数、PGE1投与日数に有意差はなかったが、入院日数はP群で有意に短かった(P=0.032)。肺動脈弁に対する再介入は、P群で2例にPTPVを3回、S群で3例にPTPVを4回、1例にMVOPを用いた右室流出路形成と三尖弁形成が行われていた。肺動脈弁への再介入の発生率と回数には有意差はなかった。術後中等度以上の肺動脈弁逆流は両群とも認めなかった。根治術到達ないし右左短絡の消失例は、P群で4例、S群で3例であり、残りの症例でも右室の発育がみられた。【結論】PA/IVSに対する初回介入として、PTPVとopen valvotomyでは、その後の肺動脈弁への再介入や弁逆流の程度に差はなかった。RF wireの導入により今後PTPV try例が増加すると予想されるが、右室穿孔などによる急変リスクは依然としてあり、これに速やかに対応できる体制の整備は重要である。
著者
小出 昌秋 渡邊 一正 神崎 智仁 植田 ちひろ 岡本 卓也 古田 晃久 森 善樹 中嶌 八隅 金子 幸栄 井上 奈緒 村上 知隆
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】成人先天性心疾患に心房細動(AF)を合併するケースが少なくない。AFは放置すれば脳梗塞のリスクとなるため、可能であれば積極的に治療することが望ましく、当院では以前より積極的にメイズ手術を行っている。【目的】当院におけるメイズ手術の成績について報告する。【対象と方法】2000年1月~2014年12月に経験した成人先天性心疾患手術88例(平均年齢40.5±17.2歳)を対象とし後方視的に検討。メイズ手術はCox Maze IIIに準じてCryoとRFにて行った。【結果】88例中21例(23.9%)に術前AF(慢性または発作性)を合併しており、AF合併例の平均年齢は55.7±15.6歳でAF非合併例の35.7±14.8歳と比較して有意に高齢であった。AFは慢性12例、発作性9例であった。AF合併例の心内病変はASD 6例、ASD+TR±MR4例、VSD1例、術後残存ASD1例、AVSD術後MR3例、VSD術後TR1例、TOF術後PR±MR2例、PPA術後1例、MR1例。全例で右房拡大を認め、左房径も43.9±10.5mmと拡大傾向がみられた。21例中初期の2例とAtrial Standstillであった1例を除く18例に対してメイズ手術を行った。手術死亡なし。メイズ術後観察期間平均36.0ヶ月(1~101ヶ月)で、1例で術直後からATが持続して術後5ヶ月でカテーテルアブレーションを行い洞調律に復帰。1例で術直後洞不全ありAAI PM植込み施行。1例で術後7年目に心房粗動となりカテーテルアブレーションを計画中。残りの15例では洞調律を維持しており発作性AFの出現もなかった。AF症例でメイズ手術を行わなかった3例のうち1例が術後遠隔期に脳梗塞を発症し死亡した。【考察】成人先天性心疾患手術症例の約1/4にAFを合併しており、メイズ手術を行った全例でAFは消失した。術後上室性不整脈に対してはカテーテルアブレーションやペースメーカーで対処することが有効であった。AFを合併した成人先天性心疾患症例に対するメイズ手術の成績は良好であり、積極的に行うべきであると考えられた。
著者
村上 卓 塩野 淳子 石橋 奈保子 石川 伸行 阿部 正一 野間 美緒 坂 有希子 堀米 仁志
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【目的】心房中隔欠損症の多くは思春期まで無症状である。心房中隔欠損症が小児期の身体発育に及ぼす影響について検討した。【対象と方法】2005年1月~2014年12月に15歳以下の心房中隔欠損症103例に延べ106件の心臓カテーテル検査を施行し、他の病態が身体発育に関与しうる25例(染色体異常、左右短絡疾患(心室中隔欠損, 動脈管開存)合併、超低出生体重児、側彎合併、肺動脈弁狭窄治療後、成長ホルモン分泌不全、経管栄養、精神運動発達遅滞)を除外した。1)カテーテル検査時の身長SD、体重SDにQp/Qs、Pp/Ps、Rpが及ぼす影響について検討した。2)心房中隔欠損閉鎖術を施行された症例における術前身長SD、体重SD(カテーテル検査時)と術後身長SD、体重SD(術後6~18か月時)を比較検討した。また、Δ体重SD、Δ身長SD(術前と術後の差)に手術時年齢、術前身長SD、術前体重SD、Qp/Qs、Pp/Ps、Rpが及ぼす影響について検討した。【結果】1)81件(80例)(男35:女46、年齢中央値5y3m(範囲5m~14y1m))の体重SD -0.25±1.09、身長SD -0.16±1.18(平均±SD)と身体発育の低下を認めた。体重SDとQp/Qs、身長SD とPp/Psに負の相関(r=-0.26, p=0.02、r=-0.29, p=0.01)を認めた。2)49例(男27:女22、手術時年齢平均5y5m(範囲9m~13y10m))に心房中隔欠損閉鎖術が施行された。術前体重SD -0.30±1.12 vs 術後体重SD 0.06±0.96(p<0.01)、術前身長SD -0.20±1.12 vs 術後身長SD 0.06±1.01(p<0.01)(平均±SD)と術後に体重と身長の増加を認めた。Δ体重SDは術前体重SD(r=-0.48, p<0.01)や手術時年齢(r=-0.40, p<0.01)と、Δ身長SDも術前身長SD(r=-0.43, p<0.01)や手術年齢(r=-0.58, p<0.01)と負の相関を認めた。【結論】心房中隔欠損症は短絡量や肺動脈圧が身体発育障害に影響している可能性があり、低年齢で身体発育障害が強い症例では閉鎖術により身体発育の改善が期待される。
著者
栗嶋 クララ 桑田 聖子 金 晶恵 梁 明子 岩本 洋一 石戸 博隆 増谷 聡 先崎 秀明
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】Fontan術後の高い中心静脈圧(CVP)はリンパの鬱滞を惹起し,リンパ浮腫やリンパ漏,酸化ストレスや炎症性サイトカインの活性化からFailing Fontanの病態に関与しうる.実際に我々は近赤外線カメラによる下肢のリンパ管投影にてリンパの鬱滞を呈するFontan患者が多数存在することを報告した.従って,リンパ鬱滞を改善するリンパマッサージはFailing Fontanの予防や治療の一つとなる可能性がある.しかし,リンパマッサージのFontan循環への影響は不明である.【目的】Fontan循環におけるリンパマッサージによる急性期の効果と血行動態学的変化について検討する.【方法】現在までに,説明と同意を得て,希望者にリンパマッサージを施行したFontan術後患者4名を対象とし,リンパマッサージ中に心拍数,血圧,心係数(CI),末梢静脈圧から算出したCVP,心拍変動解析を持続的にモニターし評価した.また,リンパマッサージ前後の血液量も比較検討した.【結果】リンパマッサージ前後で,交感神経系の活動(LH/HF)は抑制され,心拍数は著明に減少(mean 95→85bpm)し,収縮期血圧,CIも低下した(各々100→97mmHg,3.0→2.7L/min/m2).リンパマッサージは循環血液量の増加をもたらした(92→112ml/kg,Ht 44.0→43.2%,Alb 7.0→6.9g/dl)が,CVPは上昇しなかった(各々14→14,10→8,9→10,14→11mmHg).【考察】Fontan術後患者におけるリンパマッサージは,リンパの静脈への還流量増大に伴う体液量増加が,心拍数減少によるCI減少,静脈キャパシタンス増大により代償され,CVP上昇を伴わずに施行される安全な手技と思われる.従って,リンパマッサージはリンパ鬱滞の改善という直接効果に加え,交感神経抑制効果による心拍数減少,静脈キャパシタンスの増大(静脈機能改善)によりFontan術後患者の予後改善に寄与しうる非薬物療法としての可能性が示唆され,今後長期効果を含めた検討に値すると思われた.
著者
村田 知佐恵 丸山 綾子 定光 春奈 荒川 清美
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景・目的】新生児は体温調節機能が未熟という特徴があり、集中ケアにおいては体温管理が重視される。さらに、先天性心疾患(以下CHD)児の場合は、心負荷に繋がらない中枢-末梢温度較差を保つ必要があり、繊細な体温管理が求められる。しかし、現時点ではCHDを持つ新生児への体温管理方法について具体的なガイドラインが作成されていない。本研究では、CHDの新生児への集中ケアを担う看護師が、体温管理を行う際にどのような困難を感じているか明らかにすることを目的とした。【方法】看護経験2年以上かつNICU/PICU経験1年以上のNICU看護師5名及びPICU看護師4名に半構成的インタビューを実施した。逐語録から文脈を抽出し、得られたデータを質的に分析した。【倫理的配慮】施設の承認後、研究協力者に参加の自由意志、プライバシー保護、学会発表等を口頭と書面で説明し、同意を得た。【結果】CHDの新生児に対する体温管理で感じる困難として、看護師の語りから、次の3つが導き出された。1.CHD児に多く見られる「末梢が締まり、中枢温が高い状態」に対して、手足を温めながら同時に頭や体幹をクーリングしても、期待する効果が得られないことがある。2.新生児は低体温になりやすいが、クーリング時に体温が「下がり過ぎてしまう」ことがある。3.冷温用品を使わずに環境温で緩やかに体温を下げたいときに、空調等の問題で環境温を調節できないことがある。【考察】看護師は、CHDの新生児の体温管理において、特に体温を下げる場合に困難を感じていることがわかった。温罨法ではインファントウォーマー等の加温器を用いることが可能だが、冷罨法には段階的に調節可能な手段が少ないことも一因と推察する。本研究により、中枢温のみを下げる、下げ過ぎない、緩やかに下げるという3つの視点を基に、適切な中枢-末梢温度較差の範囲を保つための効果的な体温調節方法を確立する必要性が示された。
著者
岩本 洋一 桑田 聖子 簗 明子 栗嶋 クララ 石戸 博隆 増谷 聡 先崎 秀明
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】LaFargeの表は、統計から得られた式より年齢と心拍数から体表面積当たりの酸素消費量(VO2)を導き出す方法である。近年、先天性心疾患患者群において、LaFargeの式では、3歳未満の症例では、VO2を過大評価する、という報告が散見される。【目的】LaFargeの式の正確性並びに、年齢層による酸素需要の傾向を明らかにする。【対象】先天性心疾患を有し、当院において2013年6月から2014年12月までに心血管MRIと心臓カテーテル検査を受けた34名(平均年齢7.7±4.1歳)。【方法】心血管MRIの主要血管のphase contrast法から測定された心拍数(HR)を用いて、そのHRをLaFargeの式に当てはめたVO2値(LFVO2)と、心臓カテーテル検査時のSaO2値・SvO2値・Hb値とMRI検査時の体血流量を酸素需要式に当てはめる事によるVO2値(MRIVO2)とを比較・検討した。【成績】全症例におけるMRIVO2とLFVO2では相関が認められなかった(r=0.09, p=0.60)。年齢と、LFVO2とMRIVO2の比の相関関係は、弱い負の相関を示した(r=-0.24, p=0.15)。4.5歳未満の症例に限ると、LFVO2はMRIVO2より明らかに高値を示し、有意差が生じた(159.6 vs. 121.5, p<0.01)。4.5歳以上の症例に限ると、LFVO2とMRIVO2は弱い正の相関を示した(r=0.39, p=0.04)。また、Bland-Altoman解析では、VO2が低いとLFVO2が過大評価され、、VO2が高いと過小評価する傾向が認められた。【結論】LaFargeの式は、低年齢層には、不正確になる可能性が示された。今後MRIによる血流測定をもとにした簡便かつ正確なVO2予測式の確立を考える余地がある。
著者
中野 茉莉恵 有馬 正貴 長田 洋資 桜井 研三 升森 智香子 水野 将徳 都築 慶光 小野 裕國 後藤 建次郎 近田 正英 麻生 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【緒言】単心室症例のFontan術後にhepatic factorの偏在が側副血行路を生むことが報告され、長期予後への影響が示唆されている。肝静脈血を左右の肺動脈に灌流させる必要があるが、Fontan手術施行例では肝静脈と肺動脈を繋ぐルートの作成に苦慮する場合も多い。今回、Total cavopulmonary shunt (TCPS)術後に肝静脈-肺動脈ルート作成に難渋した心房内臓錯位症例に対して肝静脈-半奇静脈吻合を行い、良好なFontan循環を確立した症例を経験したので報告する。【症例】2歳10ヶ月女児。在胎39週5日、2896gで出生。胎児期より心房内臓錯位を指摘されており、出生後、左側相同、両大血管右室起始、肺動脈狭窄、卵円孔開存、下大静脈欠損半奇静脈結合と診断した。心房は左心房が右前方、右心房が左後方の関係にあり、肝静脈は椎体の左側を走行し右心房に開口していた。生後7ヶ月時に肺動脈絞扼術、心房中隔作成術を施行した。1歳1ヶ月時にTCPSを施行、左上大静脈と左肺動脈を吻合した。2歳4か月時、Total cavopulmonary connection(TCPC)の方針となり、心外導管のルーティングについて検討した。肝静脈が椎体の左側にあるため、導管を右側に通して作成すると椎骨や心室によりルートが圧迫される可能性が考えられた。一方で、左側に作成すると、ルートが長く屈曲することやTCPS吻合部近辺の肺動脈形成が必要となると予想され、どちらの術式を選択しても導管狭窄やhepatic factorの分布に偏りが生じる可能性があったため、肝静脈-半奇静脈吻合を選択した。術後1ヶ月時に施行した心臓カテーテル検査では、肝静脈圧 11 mmHg, 半奇静脈圧 9 mmHg, 肺動脈圧 8 mmHgで、肺動静脈瘻の発生はなく良好なFontan循環を維持していた。【結語】下大静脈欠損を伴う左側相同に対して肝静脈-半奇静脈吻合を行い、その後も良好なFontan循環を確認した。肝静脈-半奇静脈吻合は、下大静脈欠損の症例に対する右心バイパスの有効な吻合方法である。
著者
小林 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

リサーチクエスチョンは自らが臨床現場で発見した「わからないこと、しりたいこと」、即ち臨床の疑問(クリニカルクエスチョン)を一定の形式に沿って定式化し、臨床研究として解明する形に整理したものである。NEJMやLANCETといった一流紙に掲載される大規模研究も、元をたどると小さなクリニカルクエスチョンから出発している。このクリニカルクエスチョンを実現可能なリサーチクエスチョンに翻訳する過程は臨床研究にとって最も重要な作業と言っても過言ではない。翻訳作業の第一歩として、クリニカルクエスチョンを、「どのような対象(Patents)に、どのような治療(暴露)を行ったら(Intervention or Exposure)、どのような治療(暴露)がなかった群と比較して(Comparison)、どのように結果(アウトカム)が違うか(Outcome)」のいわゆるPICO(PECO)形式に変換する。対象患者や介入(暴露)群の設定は、その定義をできる限り具体的かつ明確に表現する。比較対象群は介入(暴露)群とその介入(要員)以外は似通った集団かつその分け方が恣意的でない(医学的な根拠がある)ことが大切であり。介入型研究の場合は倫理的な麺に十分配慮する必要がある。知りたいアウトカムは原則1つのみに絞る。また、患者対象や介入(暴露)と同様に定義が明確かつ具体的であり、さらに定量的に測定可能であることが必須である。設定したアウトカムが社会にとって切実な問題であればその研究の価値は高い。良いリサーチクエスチョンにはFeasible(実現可能性がある)、Interesting(興味深い)、Novel(新規性がある)、Ethical(倫理的)、Relevant(切実な問題)、いわゆるFINERの5要素を満たす。リサーチクエスチョンへの翻訳作業中には常にFINERを念頭に置くことが肝心である。