著者
フォード・丹羽 順子 小林 典子 木戸 光子 松本 哲洋
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-12, 2000

既存の中上級者向け日本語教材の多くは、読解を中心にした総合教科書や、4技能の養成を主眼とした教材である。これらの教材は、文法シラバスに基づいたものではないために、文法に関しては、偶然その中に出てきた表現(および関連表現)を取り上げるというやり方になっている。日本語を母語としない学習者には、このような教材だけではなく、基本的構造に関わる文法を体系的に教える文法の教科書も必要だと考える。本稿は、なぜその文法形式を使って頭の中にある概念を言語化するのかという「構文動機」を、日本語教育のための文法記述の中に示すことを提案する。
著者
金久保 紀子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.16, pp.105-119, 2001

筑波大学留学生センターで開発中の中級前半者向け教材の会話クラス該当部分を紹介する。それを使って学習した学習者の自己紹介の録音資料を使って、日本人への聞こえ方の調査を実施した。その結果、中級前半の学習者の日本語は日本人にはあまりきちんと伝わっていないことが明らかになった。日本人は学習者の名前や国などの基本的な情報を必ずしも正確に聞き取れていないこと、文型や表現などの情報が聞き取りメモにはあまり現れてこないことがわかった。文型や表現などの情報は必須の情報を聞き取るための環境として必要であることが予想される。また学習者が能動的に行えるような話題も日本人の聞き取りに関係がある。今後、会話クラスでは音声・音韻的な練習を重視すること、学習者の話したい内容を重視した練習を行うことが必要である。
著者
木戸 光子 長能 宏子 山崎 由喜代 渡辺 恵子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.17, pp.95-113, 2002

本稿では、2000年度予備教育日本語コースにおける、教科書とは別の会話の練習を目指した試みについて報告する。まず、過去4年間の同じような試みについて簡単にふれる。次に、2000年度の試みについて、事例をあげて詳しく述べる。さらに、この試みに対する学生による評価の資料から、問題点を指摘する。また、ボランティアの参加の位置付けについて考察し、最後に今後の展望を示す。
著者
虎尾 憲史 山元 啓史
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.15, pp.47-61, 2000

虎尾・山元(1999 )での分析に続き,データベース化した日本語教科書の初級15 種22 冊,中級15 種16 冊の本文部分に出現する漢字の分析を行った。今回は各教科書の含有異漢字について,15 種全てに共出現するものから1 種のみに出現するものまでの,それぞれの個数と各教科書内での割合の分析結果に現われた,各教科書の特性の異同による大まかなグルーピングを試みた。そして,各教科書の日本語能力試験対象漢字の含有率も分析し,3 級以下を初級漢字,2 級以上を中級漢字とした場合の,それぞれの含有比率の異同によるグルーピングも試みた。その結果,先の大まかなグルーピングとほぼ同様の結果となり,データベース分析による各教科書の含有異漢字の種類や重複,個数,出現の様子等の情報に基づく,教科書分類の可能性と各教科書の位置づけを明らかにすることができた。Following our analysis in Torao/ Yamamoto (1999 ), we have made an analysis of the kanji in the database of the main text part of 15 kinds of 22 basic Japanese language textbooks and 16 intermediate ones. we analyzed the kanji of each textbook and calculated the number and percentage of kanji, ranging from those appearing in only one kind of textbook to those appearing in all 15 kinds of textboks. These data also premit a rough grouping of textbooks. We have also analyzed the degree to which each textbook contains the kanji tested in the Japanese Language Proficiency Test (JLPT) . We first devided the JLPT kanji into level 4 and 3 kanji (basic level kanji) and level 2 and 1 kanji (intermediate to advanced level kanji) . We then regrouped the textbooks according to the ratio of these two levels of JLPT kani. The grouping of textbooks was more or less same using both methods, and shows the possibility of grouping and positioning textbooks based on their kanji as derived from the database analysis.
著者
許 明子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.17, pp.33-45, 2002

韓国国内の日本語教育の現場で教材として用いられている日本語教科書や文法書の中で受身文がどのように教えられているかについて分析した結果,韓国人学習者が日本語の受身文の学習において起こりやすい問題点が明らかになった。韓国国内で用いられている日本語教科書の中には「(ら)れる」が受身,自発,可能,尊敬の意味を持つことを強調して述べている教科書が多かったため,韓国人学習者が日本語の受身文の意味を理解することは容易なことではないと思われる。また,韓国語の漢語動詞の受身文は「[?]」受身文を中心に非常に多く使われており,韓国人学習者において特に誤用が多く見られているが,漢語動詞に関する説明はほとんど触れられていなかった。さらに,韓国で出版されたほとんどの日本語教科書において日本語の受身文は日本の日常生活において頻繁に使われているという記述がなされており,このような学習を行った韓国人学習者は日本語の受身文を過剰使用する可能性がある。韓国語の中で受け身分がどのように用いられており,それは日本語でどのように表現できるかについてさらに詳しい対照研究を行い,韓国語との対照を通して語用的な特徴を理解させる必要がある。This article examines the characteristics of the descriptions of passives in Japanese laguage textbook used in Japanese language eduction in Korea. The findings indicate that Korean learners face a number of problems with Japanese passives. Explanations emphasize that Japanese passives are more complex than Korean passives in three respects ; a) " (ra) reru" has four meanings, passive, spontaneous, potential and honorific, making it difficult for Korean learners to understand the meaning of passive sentences, b) although Korean uses many passive Sino-verbs with " doeda" , and Korean learners make many errors with passive Sino-verbs in Japanese, there is little explanation of passive Sino-verbs, c) passive sentences are used more in Japanese than in Korean, causing possible overuse of passive with Korean learners.
著者
Kaiser Stefan
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.15, pp.25-34, 2000

日本語の文字教育では,平仮名・片仮名・漢字の順で文字の導入が行われるのが一般的で,仮名が一通り終わったら,もっぱら漢字教育に移行する。ところが,その順序が認知心理学実験の結果からは必ずしも支持されない。また,平仮名が一通り終わった後で平仮名の認識技能の訓練を行う必要があることも実験から確認できる。漢字に関しては,日本語教育で通常行われているような,いきなり単漢字中心の学習に入っていくアプローチにも問題が指摘できる。漢字のように,学習者がもつ文字体系との距離が大きければ大きいほど,その形態的特徴にボトムアップ式に慣らしていく訓練が必要であることはいろいろな実験の結果が示している。本研究では,そのような実験結果とその解釈を踏まえ,日本語の文字教育のあるべき姿を考え,漢字・語彙のボトムアップ処理トレーニングなどシラバスの在り方を検討する。When introducing the Japanese writing system in Japanese language eduction, the order is generally Hiragana, Katakana, Kanji, once the Kana sets have been dealt with, Kanji are taken up at the exclusion of further Kana skill practice. However, experomental findings in cognitive psychology do not support neither the order of introduction nor the consentration on Kanji at the expence of Kana. Experiments suggest that Hiragana are perceived as more complex shapes than simple Kanji, and that even at the intermediate learning stage processing of Kanji is far from automatic, requiring further skill training in these areas. Regarding Kanji, the orthographic distance that has expermentally been demonstrated between alphbetic and Kanji-based systems requires more bottom-up training techniques than hitherto practiced. This paper examines current practice in the light of such experimental findings and proposes a more realistic syllabus for Kana and Kanji training.
著者
高橋 純子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.17, pp.115-125, 2002

これは、筑波大学留学生センター補講「会話4」(日本語中級後半レベル)クラスにおいて実施したビデオドラマ制作活動についての報告である。発話には2つの種類がある。それは、1)公の場でのスピーチなど、あらかじめ準備された発話、2)討論や友人との日常会話など状況によって刻々と変化していく状況依存型の発話である。日本人学生との共同作業によるドラマ制作活動は、身振りや態度など非言語コミュニケーションとともに、この2つの発話能力を高めることができるであろうと考えた。さらに、このレベルの学習者の発音やイントネーションなど音声面での矯正を行うのはなかなか難しいものであるが、よい作品を創るという目的のためには、学習者は発音やイントネーションに気を配って、何度も台詞を練習するはずだ。実際、撮影中ある場面を扱い、効果的に学習者の間違いを指摘し、説明し、指導することができた。本稿では、ドラマ制作過程の観察と学習者と活動に協力してくれた日本人学生の意見・感想から何が学べるのかをさぐっていく。そして、ビデオドラマ制作活動の意図とその実際の成果、留意点、改善点について述べる。ビデオの使い方として、1)テレビドラマなどからのモデル会話場面を見せる。2)日本語の進歩の様子を知るため、または、習慣化されてしまっている間違いに気づくため、学習者の演じているところを撮影し見せる、という2つを併用することが効果的であろう。相手や場によって話し方を変える待遇表現を学ぶ場を提供するという点でドラマ制作は有効だと言える。