著者
正宗 鈴香
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センター日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.14, pp.95-108, 1999-02-20

近年、大学に在籍する初級日本語学習者の学習目的が多様化している。その中で、大学生活や研究する際のコミュニケーション能力を必要とする学習者が増加しており、コミュニケーション能力を目的とした日本語教育にも焦点があてられてきている。コミュニケーション能力を養成するには、言語的知識を与えるだけではなく、対象文化での適応面、言語運用面といった社会活動面も包括した総合的な学習が重要になってくると思われる。そのアプローチの一つとして異文化理解教育を応用することが考えられる。本稿では、筑波大学留学生センターの予備教育に導入されている異文化理解プログラムを取り上げ、その目的の一つである「言語運用能力のための支援」を中心に考察する。また、カリキュラムの中で大きな役割を果たす教科書、当センターで使用しているSituational Functional Japaneseの特性と異文化理解学習との関係も重ねて考察する。プログラムでは、いくつかの言語表現を取り上げ、それらの意味的ニュアンス、コミュニケーション上の効果やそれを使用する際の発想、それを支える心理の在り方などをディスカッションを通して理解を推進し、言語学習の効率化を図った。
著者
フォード・丹羽 順子 小林 典子 木戸 光子 松本 哲洋
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-12, 2000

既存の中上級者向け日本語教材の多くは、読解を中心にした総合教科書や、4技能の養成を主眼とした教材である。これらの教材は、文法シラバスに基づいたものではないために、文法に関しては、偶然その中に出てきた表現(および関連表現)を取り上げるというやり方になっている。日本語を母語としない学習者には、このような教材だけではなく、基本的構造に関わる文法を体系的に教える文法の教科書も必要だと考える。本稿は、なぜその文法形式を使って頭の中にある概念を言語化するのかという「構文動機」を、日本語教育のための文法記述の中に示すことを提案する。
著者
金久保 紀子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.16, pp.105-119, 2001

筑波大学留学生センターで開発中の中級前半者向け教材の会話クラス該当部分を紹介する。それを使って学習した学習者の自己紹介の録音資料を使って、日本人への聞こえ方の調査を実施した。その結果、中級前半の学習者の日本語は日本人にはあまりきちんと伝わっていないことが明らかになった。日本人は学習者の名前や国などの基本的な情報を必ずしも正確に聞き取れていないこと、文型や表現などの情報が聞き取りメモにはあまり現れてこないことがわかった。文型や表現などの情報は必須の情報を聞き取るための環境として必要であることが予想される。また学習者が能動的に行えるような話題も日本人の聞き取りに関係がある。今後、会話クラスでは音声・音韻的な練習を重視すること、学習者の話したい内容を重視した練習を行うことが必要である。
著者
木戸 光子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センター日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-21, 1998-02-20

新聞5 紙(朝日,産経,日経,毎日,読売)に1994 年春に掲載された日米台青少年意識調査アンケート結果の報道記事について,言語形式上の特徴と配列の2 つの観点から文章構造の分析を通して,文章構造の違いが生じる要因を探った。新聞記事は一般に構成が決まっていると言われるが,5 つの文章を分析した結果,文章構造の型は頭括型・双括型・散括型・尾括型のうちいくつかの可能性があり,また,同じ頭括型でも文章の展開の様相は異なることがわかった。さらに,文章の総括には内容語的な総括と機能語的な総括があること,意味内容の構造と文脈の切れ続きの構造が必ずしも一致するとは限らないことを指摘した。Based on an analysis of the discourse markers and the ordering of topics and comments used in five newspaper reports on a survey of high school students'attitudes in Japan, the United States and Taiwan. I demonstrate that these reports do nat have a common structure. The structure of each report was unified by one or two of the following discourse parts; 1) initial part, 2) final part, 3) initial and final part, 4) other parts. I show that the flow of discourse may often vary even among reports with the same discourse structure. I observe that the unification of discourse structure is determined by the content or function of the final sentence, and that the discourse structure indicated by discourse markers does not always match the ordering of the content structure of the report.
著者
小野 正樹
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センター日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-15, 2003

モダリティ研究の枠組みで、「ト思う」と「のだ」についてコミュニケーション機能の違いを追求した。両者とも「寒いと思います」「寒いんです」のように、話し手の主観を伝えることができるが、用法の比較を行うと、「ト思う」述語文の方が聞き手を配慮し、かつ、わきまえ性が高い。そして、両者の原理を明らかにするために、両者が連続した場合を観察すると、「ト思う」が「のだ」に先行する「と思うんです」の場合には主張の文機能となるが、「んだと思います」では理由説明の文機能となり、理由がスコープされるが、その理由が明示的な場合には不自然になることを述べた。
著者
加納 千恵子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センター日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.13, pp.61-96, 1998-02-20

漢字圏の外国人日本語学習者は,漢字音の読みにおいて,清音・濁音の区別や母音の長短,促音の有無などに間違いが多く,またそのような間違いは中上級に進んでも残りがちであることが指摘されている。本論文では,その中でも特に学習者からの質問が多い漢字音の促音化の問題に焦点を絞り,どのような場合に促音化が起こるのかを整理する。そして,このような漢字圏学習者の弱点を克服させるためには,どのような漢字の教授法が効果的かについても検討する。Students from kanji background countries tend to retain certain errors such as the distinction between voiceless and voiced consonants, long and short vowels, single and double consonants, etc. in the ON reading of kanji. Kanji that can cause doubling of consonants are taken up particularly for discussion in this paper and the author tries to explain when doubling of consonants occurs. The author also examines ways of teaching such kanji for the students of kanji background.
著者
小林 典子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
>筑波大学留学生センター日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.14, pp.15-28, 1999-02-20

初級日本語教科書、Situational Functional Japanese(SFJ)の文法解説には、<するverbs>と<なるverbs>、<+をverbs><-をverbs>(いわゆる他・自動詞)という用語が使用されている。しかし<するverbs>と<なるverbs>がどのような定義のもとにあるのか、<+をverbs><-をverbs>とどのような関係にあるのか、十分に明確に記述されていない。英語による文法解説の中には「"controllable"かどうか」「行為の主題がその行為に対してresponsibleかどうか」「行為主体を中心に述べようとしているのか」「結果を中心に述べようとしているのか」など、それぞれの文法項目ごとに異なる表現が解説に用いられている。また、「意志動詞」「意思性の表現」という用語も文法を論じるときに一般によく使用される。<するverbs>と<なるverbs>は動詞の意思性(制御性、control)の観点からの文法的な対立、<+をverbs><-をverbs>は他動性の観点からの対立として改めて定義を確認し、SFJのGrammar Notesの解説を見直した。
著者
木戸 光子 長能 宏子 山崎 由喜代 渡辺 恵子
出版者
筑波大学留学生センター
雑誌
筑波大学留学生センタ-日本語教育論集 (ISSN:13481363)
巻号頁・発行日
no.17, pp.95-113, 2002

本稿では、2000年度予備教育日本語コースにおける、教科書とは別の会話の練習を目指した試みについて報告する。まず、過去4年間の同じような試みについて簡単にふれる。次に、2000年度の試みについて、事例をあげて詳しく述べる。さらに、この試みに対する学生による評価の資料から、問題点を指摘する。また、ボランティアの参加の位置付けについて考察し、最後に今後の展望を示す。