- 著者
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文野 峯子
- 出版者
- 人間環境大学
- 雑誌
- 藝 (ISSN:1348124X)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.35-51, 2003-03-20
近年社会言語学,教育学,心理学などの分野において,「学習」に関する新しい観方が注目されている.新しい学習観は,従来の「学習=情報処理の過程」という観方を批判し,教室における教授-学習過程を,教師と学習者がお互いの意図を伝え合い解釈し合うことによって協慟でつくりあげる動的なプロセスであるととらえる.本稿は,日本語教育の教室談話研究においても,学習観の見なおしとそれに伴う新たな研究方法が必要であることを指摘する.従来のカテゴリー分析に代わる新たな方法論導入の提案である.本稿は,まず62秒間の授業を分析することにより,日本語の授業が動的なプロセスであること,すなわち予め決められたカテゴリーに当てはめる分析方法ではその実態の把握が困難であることを確認する.分析の結果,明らかにされたのは以下の3点である.1)授業は教師からの一方向的な伝達過程ではなく,きわめて複雑なコミュニケーションであること 2)授業の複雑な構造は,参加者全員が協働でつくりあげ維持していること 3)教師・学習者という役割分担やその場が教室であるということは,やりとりを通して可視化されてくること 本稿はこれらの結果を踏まえ,日本語教室の談話の解明には,教室におけるやりとりを動的なプロセスとしてとらえる視点が重要であること,そして変化するプロセスそのものに焦点を当てその意味を詳細に解釈・記述していく研究方法が必要であることを主張する.