著者
久留 一郎 餅原 尚子 関山 徹
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-36, 2012-03-31

犯罪被害者支援に携わった警察官を対象にしてアンケート調査をし,そのストレス状況(CIS・PTSD傾向の二次受傷など)および予防,ストレス緩和要因について臨床心理学的視点から検討をした。警察・被害者支援室の協力を得て,2006年に実施した426名について分析した。その結果, a)ストレスヘの対処は,バランスが大切であること, b)PTSD傾向者への援助や予防は,画一的におこなうのではなく,その人のもつコーピング・スタイル(coping Style)に応じたものが有効であること, c)女性警察官や既婚者への支援はより手厚くする必要があること,などが,明らかになった。二次受傷(secondary traumatic stress)の先行研究でも支援者保有が有効であることは,多々指摘されており,これらの観点を活かして職場での精神的支えをどのように作るかが,犯罪被害者支援を左右する鍵となるだろうと考察された。A questionnaire survey was carried out in 2006 for the police officers who took part in support activities for crime victims. We analyzed the results of 426 cases collected by Crime Victims Branch of A Police Office, concerning the stress situation(CIS, Secondary traumatic stress etc.), its prevention, and stress coping factors from the point of view of Clinical psychology. As the result, fo1lowing points became clear: a)'Balance' is important to cope with stress. b) It is more effective for the person with PTSD tendency to be given support and preventive help according to his/her own stress coping style. c)Female police officers and married police officers need to be supported with greater care. As the many previous researches on Secondary traumatic stress indicate, this investigation also seems to prove that the key in supporting crime victims is for the helpers themselves to have means of mental support at their workplaces.
著者
吉田 ゆり 若本 純子
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.15-24, 2011-03-31

発達障害への注目が高まる中、反応性愛着障害(ADあるいはRAD)との鑑別診断の難しさが指摘されている。本稿では,先行研究1事例をとりあげ,発達障害の可能性を除外する鑑別的見立てと積極的に愛着障害を認める鑑別的見立ての二つのプロセスより,支援における鑑別診断の重要性を明らかにした。
著者
餅原 尚子 松田 英里 成願 めぐみ 久木﨑 利香 有留 香織 永田 純子 坂元 真紀 前原 加奈 松元 理恵子 久留 一郎
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.44-54, 2007-03-31

災害の体験によって直接の被災者だけでなく,救援者も大きな影響を受ける。海外での先行研究と同じく,わが国の救援者においても心的外傷性ストレス症状(post‐traumatic stress reaction)の割合が高いことが明らかになっている。救援者は災害現場に出場し,被災者と同じような体験をすることによるストレスを受けることになる。一方,職業的救援者であるがゆえに一般的な被災者とは別のストレス(災害出場を忌避できない。彼らには社会的な期待が大きい)に加え,特有の義務感,責任感や弱音を吐きにくい組織的風土が加わる。まして,箝口令が敷かれているとなおさらである。本研究では,消防職員,海上保安官,警察官,救急救命士が直面するCIS(Critical Incident Stress:惨事ストレス), PTSD(Posttraumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)の現状について分析し,ストレスの特徴を明らかにすることを目的とした。アンケート調査を実施し,そのうち消防職員356名,海上保安官80名,警察官854名,救急救命士200名の有効回答を得ることができた。CISついては,海上保安官や警察官よりも消防職員や救急救命士に高く認められた。さらに,警察官より消防職員や救急救命士が, PTSDの症状を呈しやすいことが明らかになった。
著者
佐藤 倫子
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.20-28, 2007-03-31

本研究では,友人に対する意識の性差と発達的変化を明らかにし,それら友人に対する意識と精神的健康との関連を導き出すことを通して,子どものより健康なこころの状態の実現について検討した。友人に対する意識の性差は,発達段階により異なることがあきらかになった。小学生で性差の見られた項目は,中学,高校でも継続して性差があり,発達にしたがって性差のある項目が増えていた。つまり友人に対する意識の性差は,高校生でピークになる。性差は女子が男子よりも友人に対しより肯定的な意識をもつ傾向にあった。友人に対する意識と精神的健康との関連においては,友人に対する意識が影響を及ぼす精神的健康要因と,及ぼさない要因があることがあきらかとなった。及ぼさない要因は身体症状がほとんどであり,身体化現象の複雑性がうかがえた。友人に対する意識が精神的健康に与える影響は,小・中・高及び性別により異なっていた。友人関係に最も性差のあらわれるのは高校生であった。しかしその友人関係の影響が最も精神的健康に及ぶのは,中学生の時期だった。つまり,友人に対する意識における性差が精神的健康にそのまま影響するわけではなく,友人に対する意識における性差を含めた友人関係のありようが,精神的健康に影響を及ぼしているのである。子どもの呈する症状には複雑な要因が絡んでおり,周囲がどのように子どもの姿を受け止め, どのようにあろうとするかが問われている。
著者
四元 真弓 餅原 尚子 久留 一郎
出版者
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要 (ISSN:18809944)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-47, 2013-03

現代社会において,感情労働という用語は,医療・福祉・教育など, さまざまな分野で用いられるようになってきた。 しかしながら,心理学の分野における研究は少なく,臨床心理士を研究協力者としたものは,いまだ蓄積されていない。そのため,本稿では,精神科医療で働く臨床心理士を対象にしてインタビュー調査を実施し,臨床心理士の感情労働について臨床心理学的視点から検討をした。その結果,臨床心理士の感情労働は,"人間性"と"専門性"から成立しており,臨床心理士はその両者のバランス感覚を保持することが大切であることが明らかになった。また,今回の調査より,臨床心理士の感情労働は、 日常の場面においても「自己一致」が(完全ではないが)得られていた。これは,臨床心理士の職務における訓練と技能のたまものであり,「自己一致」について理解と認識をもつ臨床心理士の専門性における特色が示唆された。
著者
中園 博文
出版者
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要 (ISSN:18809944)
巻号頁・発行日
no.13, pp.13-21, 2018-03

本研究では,保育士から「気になる子ども」として支援が必要と思われた子どもへの支援とその保護者に対する対応について,発達検査を用いた保育園での取り組みである。保育士は日ごろの保育の中で,視線が合わない,言葉でのやりとりが成立しにくい,新奇場面に弱い,集団に入れない,基本的生活習慣が身についていないなどの「気になる子ども」と認識していながらも,年齢相応の発達段階なのか,特別な発達支援を必要としている状態であるのかを判断することに日々悩み葛藤しながら保育にあたっていた。また,発達支援が必要となった場合に保護者にどのように説明したら良いのかを分からず,伝えられずに躊躇している例も多くみられていた。保護者に発達の遅れや発達支援の必要性を伝えたとき,怒りや拒否などの感情を表出したり,睨んだり,そっけない態度を示す保護者も見られ,保育士と保護者との間に亀裂が入ってしまい,なおいっそう悩みが深くなってしまうことも度々見られていた。そのような中,筆者は保育士が子どもの発達を主観的な判断ではなく,客観的な判断ができるように,発達検査を導入することにした。はじめての発達検査で検査方法や解釈などについて戸惑う保育士もいたが,検査結果と保育室での子どもの姿が重なり見えてくると,検査結果を元に日々の保育の申で子どもに対する発達課題と支援方法を考えるきっかけになったと話をする保育士もいた。保護者対応については,保護者にも発達検査をとってもらうことで納得して子どもの発達段階を受容できる可能性があることを知ることができた。発達検査をとることは保育士にも子どもにも保護者にもそれぞれにメリットがあることが感じた。保育士が発達検査を利用し,気になる子どもの支援や保護者対応した事例を振り返り,保育における発達検査の果たす役割を考察した。
著者
成願 めぐみ 餅原 尚子 久留 一郎
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-27, 2009-03-31

本研究では心的外傷(トラウマ)のパーソナリティに及ぼす影響が,ロールシャッハ反応にどのように表出するのか, その現れを探索した。 研究対象としてPTSDの事例8ケース, トラウマとの関係が深いとされるBPDの事例11ケース, 統制群として健康群10ケースのロールシャッハ・プロトコルを用い, 名古屋大学式技法によるスコアの量的分析と,反応の質的分析を行なった。結果として,「血液反応」(Bl)の多さ, Positive feeling%の少なさ, 色彩優位の反応の多さ(FC<CF+ C)などが,PTSD, BPD両群に共通した。また,両群ともにPTSD症状の「再体験」を思わせる反応が多くのケースに見いだされ, トラウマの再現性や影響はロールシャッハ反応上にも見いだされることがわかった。
著者
吉田 ゆり 若本 純子
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.51-65, 2012-03-31

発達障害への注目の一方では,発達障害の安易な診断や評価が懸念されている。本稿では、診断基準,診断補助ツール,構造化面接尺度の現状を概観し, 自閉症スペクトラムが疑われる場合のアセスメントでの活用の課題を明らかにし,心理発達アセスメントに特化した構造化面接ツール開発のための予備的研究を行った。
著者
若本 純子 吉田 ゆり 古野 愛 徳永 惇子
雑誌
鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-50, 2012-03-31

本稿では,著者らがチームで支援を行った高機能広汎性発達障害が疑われる不登校の中学生女子の事例をもとに,発達障害のプラクシスについて考察した。不登校を主訴に支援を開始した本例は,プレイセラピーでの特異な様相から,発達障害の可能性が浮上した。そこで,再度アセスメントを実施したところ,高機能広汎性発達障害の疑いが濃厚であると判断された。そこで,本例の本態障害に基づく困難をターゲットとするSSTへと支援を移行させた。また,高校受験が近づく中,英語と数学の学習支援を加え,チームによる多角的支援として継続した。その結果,本例は無事希望高校への進学を決め,支援は終結に至った。本例の経過から,発達障害に対する的確なアセスメントの必要性,そして中学生特有の発達課題を理解した上で多角的な支援を行う重要性が示唆された。