著者
江前 敏晴
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.206-215, 2014-07-25 (Released:2014-07-29)
参考文献数
52
被引用文献数
1

紙は,歴史的に大量に使用されてきた代表的な生物材料である。軽量,高生産性,低コスト,液体吸収性,リサイクル適性,易廃棄性のような特性を持つがゆえに,通常の印刷や筆記以上の用途を提供してくれる可能性を秘めている。ペーパーエレクトロニクスは,そのような新規用途の1つであり,血糖値を電気化学的に測るような医療用途向け微小流体紙基板分析デバイス(µPADs)が例として挙げられる。紙の上に作製した線状又は面状電極の安定した導電性を確認する基礎研究に続いて,他の多くの紙デバイスが開発されてきた。照明,ディスプレイ,薄膜トランジスタ,電池やキャパシタのようなエネルギーデバイス,RFIDタグがその応用例である。最後に,材料の構造によって紙基板をいくつかのタイプに分類し,印刷方法の多様性についても論じた後,明るい将来展望について述べた。
著者
一重 喬一郎 長谷川 隆大 長谷川 香織 寺澤 健治 山中 一憲 服部 順昭
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.269-277, 2013-09-25 (Released:2013-09-30)
参考文献数
13
被引用文献数
7 6

木材は環境にやさしい材料とみなされてきたが,そのことを定量的に検証するための基礎的なデータが不足していることから,国産丸太のライフサイクルアセスメントを実施した。その結果,国産丸太1m3を生産するまでに11.1kgのCO2が排出され,70.6円の環境影響が生じると算出された。さらに,国産丸太の環境影響の低減のためには,間伐や主伐といった収穫作業の改善が重要であることが分かった。特に高性能林業機械を使用する作業の効率を向上させ,軽油の消費を抑制することが効果的であると考える。
著者
鄭 基浩 北守 顕久 小松 幸平
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.306-312, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3

伝統木造構法において,継ぎ手,仕口部の長期における緩みとクリープの発生は剛性の低下などをもたらす無視できない問題である。本研究では,伝統的な金輪継ぎ手接合部のクリープ性状を把握し,向上させる事を目的として,込み栓材としてスギ圧縮木材を導入し,その変形回復特性を利用して接合部の抗クリープ性能を向上させることが可能かどうかの検証を行った。実験の結果,シラカシ込み栓挿入金輪継ぎ手の接触応力は,挿入直後から大幅に減少し,周期的湿度変化により19%まで低下しその後も減少傾向にあったが,スギ圧縮込み栓を挿入した接合部は,湿度変化を受けても59%を維持し,長期に亘り接合部の剛性を維持することが明らかとなった。一方,継ぎ手接合部のクリープ撓みは,湿度変化第3期目からシラカシ込み栓挿入型において徐々に増大したのに対し,スギ圧縮込み栓挿入型では,全周期においてクリープの増大が見られなかった。高密度に圧縮されたスギ圧縮材は横圧縮応力緩和の発生を抑えることができ,その回復特性と合わせて,大きな横圧縮応力を持続的に受ける耐圧特性に優れた接合具であることが確認された。
著者
北本 豊
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-7, 2006 (Released:2006-01-31)
参考文献数
28
被引用文献数
3 3

食用・薬用きのこの生産では,優良種菌と高度な栽培技術により高品質きのこを安価に生産することが求められる。きのこの育種,すなわち種菌開発は,野生きのこの子実体からの組織分離による二核菌糸体の栽培品種化と,栽培中に発生する優良な子実体を選抜する品種改良,それにつづく交配による品種改良が主な流れである。きのこの新品種開発のプロセスは,育種に用いる親株の選定,交配のための一核株作出,交配,交配後の数段階の栽培試験による優良交雑株選抜である。本稿では,まず,きのこの極めてユニークな生物学的特徴を解説し,つづいて,きのこの育種プロセスについて,最近の展開を概論する。
著者
高畠 幸司 五十嵐 圭日子 鮫島 正浩
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.327-332, 2008-11-25 (Released:2008-11-28)
参考文献数
23

ヤマブシタケ菌床栽培において,栽培後に生じる廃菌床を培地材料に用いて再び栽培した。この工程を3回繰り返した。子実体収量は繰り返し3回目でも最初の培地(基本培地)と同等であった。しかし,廃菌床培地は1回目の廃菌床培地で子実体収量が最も多く,その後,リサイクルする毎に減少した。子実体収量はリサイクル2回目までは基本培地の1.3~1.4倍になった。1回目,2回目の廃菌床培地では,低分子α-グルカン,β-グルカンの含有量が多くなり,C-N比が低くなった。低分子グルカン並びにN源の増加が子実体収量の増加に寄与することが示唆された。ヤマブシタケ菌床栽培において,リサイクル2回目までの廃菌床は,培地材料として有用であることが明らかになった。