著者
藤田 みさお
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.13-17, 2008 (Released:2018-12-05)
参考文献数
10

本稿では主に国内の状況に焦点をあて,個人情報保護法,行政指針,学会指針において,症例報告がどのように取り扱われているのかについて概観・整理する.論点として①症例報告は「学術研究」にあたるのか,②報告内容を匿名化できるのか,③誰からどのように同意を得るのか,の3 点をあげる.論点①を検討し,仮に症例報告が「学術研究」にあたると考えるのであれば,個人情報保護法や厚生労働省のガイドラインは適用されないことになる.しかし,適用されないときに従うよう推奨されているその他の行政指針にも,具体的な規定が示されているわけではない.日本家族性腫瘍学会として症例報告に関する指針を作成する場合には,関連学会による指針を参考にしながら,他の医学領域と共有できる項目と,当該領域に特化して配慮が必要な項目について検討すべきであろう.その際には,特に上記の論点②と③を中心に議論を深め,取り決めた規定を適切に公表,実施していくことが求められる.
著者
三井 康裕 寺前 智史 田中 久美子 藤本 将太 北村 晋志 岡本 耕一 宮本 弘志 佐藤 康史 六車 直樹 高山 哲治
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.53-59, 2019 (Released:2020-02-29)
参考文献数
28

GAPPSは胃底腺ポリポーシスを背景とした胃癌を発生する新規の常染色体優性遺伝性疾患である.その原因としてAdenomatous polyposis coli(APC)遺伝子promotor 1Bの病的バリアントが報告されている.GAPPSの報告は欧米の家系のみであったが,近年になって本邦からも少数例認められるようになった.しかし,Helicobacter pylori感染率が高い本邦においては疾患の拾い上げが十分でない可能性がある.また,GAPPSの自然史は未だ不明な点が多く,臨床的に高い悪性度を示すものの,予防的胃全摘術の適応を含むサーベイランス方法は十分に定まっていない.今後,本邦をはじめ,より大規模な調査によりGAPPSの臨床病理学的特徴,病態およびサーベイランスのあり方について十分に検討する必要がある.
著者
山下 孝之
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.25-28, 2004 (Released:2018-11-29)
参考文献数
10

Fanconi 貧血(FA)は染色体不安定性を特徴とする常染色体劣性の稀な遺伝性骨髄不全疾患である.急性骨髄性白血病などの造血腫瘍に加えて種々の上皮性悪性腫瘍を合併する.これまでに,遺伝的に異なる10 種類以上の群に分類され,対応する8 遺伝子が同定されている.これらの産物蛋白は共通の分子経路を形成し,下流で働くFANCD2 はBRCA1 と相互作用して,DNA 損傷反応を制御する.また,FANCD1 遺伝子がBRCA2 そのものであることが判明し,FA/BRCA pathway という概念に注目が集まっている.FANCD2 はATM やNBS1 と相互作用し,細胞周期制御にも関与する.Fancd2 ノックアウトマウスでは種々の上皮性悪性腫瘍の発生率が高まる.また,FA 遺伝子の後天的な不活性化が,腫瘍の発症・進行や抗癌剤への感受性に関与する可能性が明らかになりつつある.
著者
宮下 俊之
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.12-14, 2018 (Released:2018-10-19)
参考文献数
4

2回にわたって,Human Genome Variation Society(HGVS)による最新の記載法に基づき,例をあげながら,初心者向けの解説を試みてきた.最終回の今回は,塩基の挿入,欠失によって生じるタンパク質レベルでのバリアントの記載法を中心に概説する.最後に解説を補足する意味でQ&Aを設ける.
著者
田村 智英子
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.7-12, 2008 (Released:2018-12-05)
参考文献数
5

日本家族性腫瘍学会において,学会誌でのケース報告の取扱いルール作り検討の際の参考情報とするため,海外学術誌における症例報告のルールの状況について調査した.欧米の学術誌の多くは,症例報告その他の論文を発表する際に,個人を識別できる可能性のある情報を不必要に記載しないことを謳いつつ,完全な匿名性の担保が難しい状況に鑑み,個人を識別できる可能性のある情報を論文内に記載する場合には,当事者からの文書同意を求めており,一部の学術誌では編集部への同意書提出も義務付けていた.さらに,論文発表に関して当事者から同意を取得する際には,情報を発表することに関する同意のみならず,学術誌の発行部数やインターネット上からの閲覧にも言及して説明し,そうした状況への理解を得た上で同意を得るべきとしていた.一方,個人識別情報の範囲や,家系員のうち同意を取得すべき人は誰か,匿名化のために情報を改変したり一部隠したりすることの是非については,統一見解は得られていない状況も判明した.判断が難しい場合の相談窓口や判断の手続きや基準の整備も課題である.
著者
武田 祐子
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-6, 2008 (Released:2018-12-05)
参考文献数
3

近年,個人情報の取り扱いに対する意識が高まるなか,研究の実施および公表におけるプライバシー保護に対する倫理指針が定められてきているが,貴重な臨床経験をまとめて報告する症例・事例報告に対して適用できる明確な指針はない.そこで,国内学会の和文誌における症例・事例報告の取扱いの現状を概観し,家族性腫瘍に関する症例・事例報告を行う場合の課題を検討した.患者個人だけではなく,家族や家系を対象とする家族性腫瘍の臨床の特性から,①対象者の同意取得,および②プライバシーの保護と科学性の保証について,慎重な検討が必要であると考えられた.