著者
中澤 高志 由井 義通 神谷 浩夫 木下 礼子 武田 祐子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.95-120, 2008-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
9 6

本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
著者
白井 郁子 武田 祐子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.258, 2010

本研究では、横浜市港北区に2008年3月に開店した複合型商業施設「TRESSA横浜」の顧客カードの情報をもとにGISを利用した詳細な商圏分析を行い、顧客の空間分布の実態を明らかにした結果を報告する。<br><br>TRESSA横浜は、オートモール&ショッピングエリアというタイプの車の販売を含む複合型商業施設である。東急東横線の日吉駅・綱島駅・大倉山駅・菊名駅、JR鶴見駅・新横浜駅の各駅からバスで20分程度の場所に位置しており、車での利用が多い。トヨタの物流拠点整備工場の跡地に開発され、その敷地面積は7万m<sup>2</sup>,テナント220店舗、収容可能駐車数2700台である。<br><br>TRESSA社の独自システムで管理されている顧客データベースの一部の変数を抽出したデータを利用した。このデータには、会員番号、自宅の郵便番号、性別、買上回数、買上金額、DM発行数が含まれており、サンプル数は11万4千件である。また記録された期間は、TRESSAが開店した2008年4月以降2009年9月までである。<BR><BR>顧客カードの郵便番号を住所変換し、CSISアドレスマッチングサービスを利用して経緯度座標を付与することで、顧客の郵便番号区ごとの分布図を作成した。さらに、TRESSAからの距離帯ごと、郵便番号区ごとに会員数、買上回数、買上金額を集計し、顧客の空間分布、売上実績の実態を明らかにした。また、国勢調査の小地域統計より、顧客分布と人口分布との関係を検討した。<BR><BR>顧客カードを利用したGISによる商圏分析の結果は、以下に要約される。1)顧客の分布は、TRESSAから3km圏で全顧客の約50%、5km圏で全顧客のおよそ70%を占めていた。このゾーンは、TRESSAが戦略とする10km圏よりも相当狭いエリアである。また買上金額では、2km圏に全体の50%、4km圏までで全体の80%にのぼる。2)4km圏外であっても、TRESSAより南西に位置する港北区南部と神奈川区西部にかけての地域、およびTRESSA北部にあたる川崎市中原区の会員比率が高い。3)DM発行は、その70%が4キロ圏内で行われているが会員比率の多寡は考慮されていない。4)人口密度と会員比率の多寡には、相関はみられない。以上より、大型商業施設であるTRESSAの商圏は、その規模に相応しない地元完結型と見なされる。
著者
高山 哲治 五十嵐 正広 大住 省三 岡 志郎 角田 文彦 久保 宜明 熊谷 秀規 佐々木 美香 菅井 有 菅野 康吉 武田 祐子 土山 寿志 阪埜 浩司 深堀 優 古川 洋一 堀松 高博 六車 直樹 石川 秀樹 岩間 毅夫 岡﨑 康司 斎藤 豊 松浦 成昭 武藤 倫弘 冨田 尚裕 秋山 卓士 山本 敏樹 石田 秀行 中山 佳子
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-114, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
62

Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群は,PTEN遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とする常染色体優性遺伝性の希少疾患である.消化管,皮膚,粘膜,乳房,甲状腺,子宮内膜,脳などに過誤腫性病変の多発を特徴とする.巨頭症および20歳代後半までに多発性皮膚粘膜病変を発症することが多い.ときに小児期に多発する消化管病変,自閉スペクトラム症,知的障害が診断の契機となる.また,がん遺伝子パネル検査によって診断される可能性がある.乳癌,甲状腺癌,子宮内膜癌,大腸癌,腎細胞癌などの悪性腫瘍を合併するリスクが高く,適切なサーベイランスが必要である. 本診療ガイドラインでは,小児から成人にかけてシームレスに,正確な診断と適切な治療・サーベイランスが行われるよう,基本的事項を解説し,4個のクリニカルクエスチョンと推奨を作成した.
著者
武田 祐子
出版者
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
家族性腫瘍 (ISSN:13461052)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-6, 2008 (Released:2018-12-05)
参考文献数
3

近年,個人情報の取り扱いに対する意識が高まるなか,研究の実施および公表におけるプライバシー保護に対する倫理指針が定められてきているが,貴重な臨床経験をまとめて報告する症例・事例報告に対して適用できる明確な指針はない.そこで,国内学会の和文誌における症例・事例報告の取扱いの現状を概観し,家族性腫瘍に関する症例・事例報告を行う場合の課題を検討した.患者個人だけではなく,家族や家系を対象とする家族性腫瘍の臨床の特性から,①対象者の同意取得,および②プライバシーの保護と科学性の保証について,慎重な検討が必要であると考えられた.
著者
土田 昌一 武田 祐子
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.108-114, 1996-02-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
23

WISC-Rの迷路課題の解決時の眼球運動をもとに線条体損傷者の注意障害の評価を行った.対象は,全例右利きの慢性期の単一病巣の患者である.左線条体損傷者群27例,右線条体損傷者群28例であり,罹病期間・年齢に有意差はなかった.課題解決パターンを4型に分類した.右側損傷者群には解決動作を中断してその直前しか確認しない解決パターンが認められた.左側損傷者群には,解決中落ち着きなく注意が分散する解決パターンが少数ではあるが認められた.線条体損傷の注意障害として,右側障害は動きの滞ったタイプ(frozen inattention),左側障害では落ち着きのないタイプ(restless inattention)という特徴的な所見を認めた.
著者
武田 祐子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.222, 2004

<b>1.背景と研究目的</b><br><br> GISユーザー層の社会的な増加に伴い、空間データクリアリングハウスには、一次データのみならず、様々なデジタル・マップを整備し公開する役割が期待される。本研究は、センサス統計を利用したデジタル・アトラスを作成し、WEBコンテンツとして公開することを目的とする。<br><br>これまで作成されたデジタルアトラスでは、3大都市圏を対象とした社会地図がWEB上で公開された例があるが、ここでは、WEBマップとして視覚的なインパクトを与えることに成功した(矢野・武田、2001)。本研究では、これにならい、「女性」に関するデジタル・アトラスを作成する。<br><br><b>2.利用データと方法</b><br><br> 利用した統計は、平成12年の国勢調査の都道府県別集計の第1_から_3次集計である。ここでは、関東地方1都3県を対象に、空間単位は、市区町村ベースとした。女性に関する指標として、未婚率、学歴、親との同居の有無、職業・産業別従事者比率、母子家庭率、保育園・幼稚園の児童数を取り上げ、これらの主題図を作成した。それぞれに関して、どのような地域においてどの程度の男女差が生じているのか、その傾向を明らかにする。また、年齢階級別の比較が可能な変数の場合、年齢別に生じる差異も検討していく。<br><br><b>3 ジェンダー・マップ</b><br><br>本アトラスでは、1)未婚率、2)単独世帯率、3)パラサイトシングル率、4)学歴、 5)女性労働力比率、6)パートタイム比率、7)専業主婦比率、8)失業率、 9)職業別人口比率、10)産業別人口比率、11)母子家庭比率、12)保育園・幼稚園児童率、についてのセンサス・マップを作成した。<br><br><br>以下では、このうち、23区内での30代前半の男女の未婚率をとりあげ比較していく。女性では大半の区で30%以上となるが、とりわけ、杉並、中野、目黒、渋谷の各区では50%を越え、地区による未婚率の高低が明瞭で分布に偏りがみられる。一方男性は、おおよそ50%以上となる。とりわけ高い60%以上を示すエリアは、女性と同じ区以外にも、千代田、新宿、豊島、台東と都心部を含む範囲に広がり、かつその地域差は小さい(図1)。女性の就業地は、先の未婚率の顕著な区とは必ずしも一致しないことから、職住近接志向の男性に対し、女性は居住環境に強いこだわりをもって特定の区に集中していることが推測される。<br><br><b>4.まとめ</b><br><br><br>本研究では、関東1都3県を対象としたジェンダー・アトラスを作成し、WEB上のコンテンツとして公開した。未婚率を論ずる場合でも、分布の男女差を説明するためには、複数の地理的な指標を考慮することが必要となる。このため、WEBアトラスとは、地理的な視点の重要性を非GISユーザーに対して発信できる貴重な第一歩といえるのではないか。<br><b><br>謝 辞</b><br><br><br>本研究は、文部省科研費基盤研究B(1)(課題番号(14380026)、研究代表者、由井義道「女性の就業と生活からみた都市空間のジェンダー化に関する研究」)の一部を使用した。その成果は、http://www.sci.metro-u.ac.jp/geog/gis/Gatlas/にて公表予定である。<br><b>文 献</b><br><br><br>矢野桂司・武田祐子、2001、GISによる全国デジタル・メッシュ社会地図、京都地域研究15、264-286.</br><br><br>
著者
中込 さと子 柊中 智恵子 武田 祐子 佐々木 規子
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究プロジェクトの目的は単一遺伝子疾患や染色体異常をもつ人と家族の自助グループ(以下、遺伝サポートグループ)と看護職が、個人、家族、社会の健康問題を解決するための協働方法、それによりどのような変化がおこるかを探ることである。7疾患のサポートグループから協力を得、患者家族が抱える課題について、サポートグループと看護師のコミュニケーションを図る企画を行った。看護ケアに仲間支援を導入することが有効である可能性が示唆された。サポートグループと協働すべき課題は、生活に伴う症状管理方法の改善、本人や家族が抱える価値変容を支えること、ケア負担の軽減と親きょうだい亡き後の第二の生活環境の整備であった。