著者
亀口 憲治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.215-224, 1989-04-15

1.システムズ・アプローチの理論的背景 1)家族システム論 家族療法の理論の中でも「家族システム論」は,中心的な位置を占めてきたが,わが国の心理臨床の世界では,この用語や概念的枠組がいまだ市民権を得ているとはいえない現状にある。そもそも「こころの専門職」としての心理臨床の世界に,「物や機械」の世界で使われる「システム」などという言葉を持ち込むこと自体に,不快感をあらわにする心理臨床家も少なくないようである。そこには「システム」という用語は,機械や道具の属性にのみかかわるものだとする暗黙の前提や「思い込み」があるのではないだろうか。確かに,わが国では一般的にそのような社会的文脈の中で,この用語が用いられる場合が多かったことは事実である。しかし,今日ではこの用語は,物理・化学領域だけではなく,生物学的領域でも,社会的・経済的・政治的領域のいずれでも広く用いられるようになってきている。筆者は,心理臨床の世界でもおおいに使われるべき概念だと考えている。したがって,本論では主に「人工的な機械システム」ではなく,「自然な生命システム」という意味や文脈で「システム」という用語を使うことを理解していただきたい。
著者
高田 忠敬 内山 勝弘 安田 秀喜 長谷川 浩 里井 豊 国安 芳夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.627-631, 1985-05-20

はじめに 1935年Whippleら1)が乳頭部癌に対し,はじめて二期的膵頭十二指腸切除を行つた.しかし,当初胆管および膵断端の消化管への吻合はなされておらず,1943年Whipple2),Child3),Cattelら4)により胆管および膵断端と消化管の吻合を同時に行う一期的膵頭十二指腸切除術が考案された.これらの術式の特徴は,重篤な合併症としての膵腸吻合部や胆管空腸吻合部の縫合不全,逆行性胆管炎などの対策として,これらの吻合部に食物を通過させないようにしたことである.これに対し,1960年今永5)は縫合不全や胆管炎の発生と食物の通過経路とは関係がないとし,Braun吻合を付加しないCattel変法とも言われる再建法を報告した. 膵頭十二指腸切除後の再建法で長年問題となつていたのは,膵腸吻合部の縫合不全であることは言うまでもないが,再建法ならびに吻合法,素材の種々の工夫,膵管外瘻の付加,さらに高カロリー輸液法などの栄養管理が進み,縫合不全は以前に比べ激減してきており,実際われわれも最近3年間に施行した膵頭十二指腸切除57例では1例も経験していない.しかし,Fortnerら6)の提唱以来,積極的に郭清を行う拡大膵頭十二指腸切除の普及により,頑固な下痢の発生など消化吸収障害の問題が新たな合併症としてクローズアップされてきた7)こともあり,膵頭十二指腸切除についても術後の消化機能を温存する術式が望まれるようになつてきた.
著者
川上 佳夫 石川 由華 斉藤 まるみ 大塚 幹夫 中村 晃一郎 金子 史男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.816-817, 2007-09-01

要約 14歳,男児.1年前より右後頭部に脱毛斑が出現し,徐々に拡大,6か月前から排膿を認めた.近医で抗生剤内服による加療を受けたが改善がなかった.創部細菌培養は陰性であった.病変部を切開したところ,内腔は不良肉芽で覆われ,数本の毛髪が観察された.病理組織学的にリンパ球,好中球,形質細胞,異物巨細胞の浸潤からなる肉芽組織であり,pilonidal sinus(毛巣洞)と診断した.頭部に発症したpilonidal sinusの報告は自験例と本邦,海外の報告を含め5例あるが,そのうち4例が後頭部に発症しており,臥床時の摩擦などによる外的刺激が毛髪の穿孔機序に関与している可能性が示唆された.
著者
末廣 栄一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1024-1030, 2021-09-10

Point・抗血栓薬服用例において外傷性頭蓋内出血を認めた場合,すみやかに抗血栓薬を中止し適切な中和療法を行う.・血腫拡大による二次性脳損傷は不可逆的な変化をもたらすため,症状が軽いうちに対応することが重要である.・頭部外傷の急性期を過ぎたら,抗血栓薬の再開を忘れずに行う必要がある.
著者
荒木 尚
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1011-1023, 2021-09-10

Point・身体的虐待による頭部外傷を総称してabusive head trauma(AHT)と呼ぶ.・乳幼児の急性硬膜下血腫を認める場合にはAHTを鑑別する必要がある.・AHTの病態にはけいれんが強く関与し,超急性期から抗けいれん薬投与が必要である.・AHTの診断は脳神経外科をはじめ,複数診療科・多職種によるチームにより行われることが望ましい.
著者
武井 由紀子 野村 直子 壷内 鉄郎 飯島 康仁 石戸 岳仁 塩野 理 矢野 実裕子 水木 信久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.913-918, 2017-06-15

要約 目的:受傷7日目の外傷性視神経症に対し視神経管開放術が有効であった1例の報告。 症例:39歳の男性が自転車走行中に乗用車と接触して転倒。頭蓋骨骨折による気脳症のため総合病院脳神経外科入院。受傷7日目に当科受診。初診時の左矯正視力0.01,左眼の相対的求心性瞳孔障害陽性,左眼瞼外方に受傷痕を認めた。左眼視野は鼻側周辺のみであった。頭部CTで左視神経管上壁陥凹を認め,同日内視鏡下経鼻的視神経管開放術を施行し,術翌日よりステロイドパルス療法を併用した。左眼の中心暗点は術翌日より消失した。治療開始後37日目に左視力1.0となった。 結論:受傷1週間が経過した外傷性視神経症に対して外科療法およびステロイド全身投与を行い良好な経過を得た。

1 0 0 0 腸チフス

著者
加藤 貞治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.170-176, 1976-03-01

概念 Salmonella typhiの感染によって起こる熱性の全身感染症で,消化器のリンパ組織に特異な病変を生じ,菌血症,高熱,比較的徐脈,バラ疹,脾腫,白血球減少を主徴とする急性法定伝染病である.
著者
松島 正浩
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.179-183, 2000-03-30

1 はじめに 尿道カルンクル,尿道脱に関してデーターベース,オービットメドライン,医学中央雑誌で過去30年間のデーターを調査したが,登録されていたのは5作のみで,いずれも病院の統計または尿道ポリープの鑑別疾患としての記載のみである。よって,尿道カルンクル,尿道脱の基本的事項は周知のことであり,最近のトピックスは皆無である。
著者
八木 剛平 伊藤 斉 三浦 貞則
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.49-58, 1978-01-15

Ⅰ.序文 向精神薬(主として抗精神病薬)によるいわゆる遅発性ないし持続性ジスキネジアは従来精神病院入院中の高齢者(50〜60歳)の一部に観察され,長期(一般に数年以上)にわたって抗精神病薬を投与されたものが多いが症状の起始は明らかでなく,いったん生じた異常運動は抗精神病薬の中断後も消失することはない(恒常性ないし非可逆性)とされていた13)。われわれは1968年以来,それまで遅発性ジスキネジアの認められなかった患者について,抗精神病薬療法の経過を注意深く観察してきたが,1975年までの約8年間に18例について症状の新たな発生を観察するとともに,その経過を追跡して症状の消失を確認することができた。これらの症例の一部は第9回国際神経精神薬理学会において既に報告したが22),当時観察中であった症例についてもその転帰が明らかになったので,ここに改めて報告することにした。本論文の目的は,第一に多くは塔年者において,抗精神病薬療法のかなり早期に発症した軽症のジスキネジアが,原因薬物の中止によって消失したこと,しかしその後の長期経過は楽観を許さないことを示して,遅発性ジスキネジアに関する従来の定説に若干の修正を促すこと,第二にその発症と可逆性に関与する諸要因を検討して遅発性ジスキネジアを発症した精神分裂病者(以下分裂病者と略称)に対する薬物療法について考察することにある。
著者
長浜 孝 小島 俊樹 中馬 健太 八尾 建史 田邉 寛 原岡 誠司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1252-1259, 2018-08-25

要旨●通常内視鏡像で早期胃癌に認められる伸展不良所見の成り立ちについて概説した.T1a〜T1b1は胃壁強伸展下では非腫瘍粘膜と同様に伸展性が保たれた(伸展良好)癌である.早期胃癌で伸展不良所見を認める代表的な病態は,粘膜下層(SM)深部に大量に浸潤した癌(T1b2)と潰瘍(瘢痕)を合併した癌〔T1a,UL1,T1b,UL1〕,の2つである.T1b2は,癌細胞塊,炎症細胞浸潤,癌性線維症が原因となり,領域性のある塊状の肥厚と硬化を来す.内視鏡で送気し胃壁を強く伸展させると,SM浸潤部の伸展不良が原因となり,非浸潤部との伸展性の差により台状挙上所見が出現する.一方,T1a〜T1b1においても潰瘍(瘢痕)を合併すると,粘膜下層の線維化が主な原因となり肥厚と硬化を来し,ひだ集中像を代表する伸展不良所見が出現する.しかし,線維化の形状は明瞭な領域性に乏しいため,胃壁強伸展下では集中ひだは瘢痕中心部一点に集中し,走行は直線的で挙上を伴わない,すなわち台状挙上所見は陰性である.
著者
鈴木 文男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.22-23, 1989-01-10

long RP' tachycardiaとは,いわゆる上室性頻拍のなかで,頻拍中のP波の出現時相が,先行するQRS(R)波よりも,それにひき続くR波に近接するタイプの頻拍のことをいい,したがって,R-P'/P'-Rの比が1よりも大きい頻拍のことである.この際,P'波と表記するのは,この心房波の由来が洞性のものではなく,異所性P波ないしは逆伝導性P波であることを示すためである. 本タイプの頻拍が注目をひくようになったのは,1967年,Coumelがその心電図的,電気生理学的特徴を報告してからである1).