著者
杉山 貢 渡辺 桂一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.221-226, 1985-02-20

消化管穿孔は汎発性もしくは限局性腹膜炎を伴う,急性腹症の代表的疾患であり,ごく少数例を除いては,緊急手術を必要とする.ここでは主に上部消化管穿孔の外科治療のノウ・ハウについて,以下の項目につき,また特殊な症例も紹介し,具体的にその要領を述べる.1.穿孔部の修復(①穿孔部の探索法,②穿孔部閉鎖法),2.原疾患の根治手術(胃・十二指腸潰瘍,胃癌など),3.腹膜炎に対する外科的処置(①腹腔内洗浄法,②腹腔内ドレナージ,③腹腔内術後持続洗浄). 近年,上部消化管の穿孔性腹膜炎の病態に対する認識も深まり,ultrasonographyなどの画像診断の応用や治療,技術の進歩により,外科治療の成績は飛躍的に向上している.そのため,一方では,緊急手術であつても背後の原病に対する根治が要求されるようになつて来ている.しかし,上部消化管の穿孔性腹膜炎の外科手術にあたつては,先ず救命を第一に考え,"push to safe side"を心掛けることが大切であろう.
著者
松岡 孝一 小片 富美子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.391-398, 1984-04-15

抄録 甲状腺機能亢進症ないしバセドウ病に伴う精神症状はよく知られている。また,その病象は原因の如何にかかわらず,過活動を中心としたある共通した特徴を持っていることも周知の事実である。しかし稀にではあるが,本来の病像とは逆の,すなわち能動性が減退し,感情の表出に乏しく,挙動も遅鈍で活気を欠き,だらしなく無関心な生活態度を示すといったapathetic stateを示すものが存在するという。著者は若年者で,この稀な臨床症状を呈し抗甲状腺剤で精神身体症状の消失した2症例を経験した。症例を検討すると思春期という心身の発達的過程の時期でありapathetic stateの発症に心因あるいは心的外傷体験が状況因子として密接に関連していることが推測された。そこで症例を報告するとともに本来の過活動性を示す甲状腺機能亢進症との相違を検討し,若干の考察を加えた。
著者
大隣 辰哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1224-1232, 2021-11-10

Point・頚椎後方除圧法である椎弓切除術や椎弓形成術において,後方固定を加えるという概念がなぜ存在するのかを知っておく必要がある.・頚椎椎弓形成術は,国内では独自の進化を遂げて後方除圧法の主流となったが,海外では必ずしもそうではなかったことを理解しておく必要がある.・頚椎後方除圧は固定も含めて術式そのものにこだわり過ぎず,患者の病態に合わせてよりよい術式を選択することが最も重要である.
著者
田渕 康子 吉留 厚子 伴 信彦 草間 朋子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.248-255, 2014-06-15

目的:本研究の目的は,正常周期女性の月経状態および月経随伴症状を明らかにすること,および1周期あたりの月経血量を実測し,月経血量の多寡に関する自己の認識を明らかにすること,さらに月経血量と月経随伴症状との関連を分析することである。 方法:19~39歳の女性184名の1周期の月経血量を実測した。初経年齢や月経周期日数,月経持続日数,月経血量に対する自己の認識,月経随伴症状について質問紙を用いて調査した。 結果:質問紙の回収率は168部で,正常周期133名,正常周期でない者27名(稀発月経,頻発月経など)だった。正常周期女性の1周期の平均総月経血量は77.4gであった。その中には,過少月経が4名,過多月経が11名いた。月経血量は月経開始後2日目にピークがあり,その後は急激に減少するパターンを示した。月経血量に対する自己の認識は,「少ない」17名,「ふつう」104名,「多い」11名だった。月経時の下腹部痛を自覚している者が74.7%,腰痛が54.9%であった。月経血量と腰痛との間には有意な関係が認められた。 考察:184名の女性の1周期の月経血量を測定した。正常周期月経にある女性の月経状態を明らかにした。月経血量の多寡を正しく自己判断することの困難さが示唆された。
著者
鈴木 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.212-214, 1951-11-15

長い間進歩が停滯していた殺虫剤の領域も第二次大戰を契機に,DDT,BHCのように微量で卓效ある有機合成剤があらわれ,一時は,昆虫と人間の闘爭も終末に近づいたかの觀があつた。しかし出現當時オールマイティのように思われたDDTも,その後の廣範綿密な實験によれば,ある種の害虫には效果が必ずしも十分でなく,又昆虫のDDTに對する抵抗性獲得という問題も最近漸くとりあげられてきている。一方,更に新しくChlordane,Aldrin,Dieldain TEPP,Parathionなど,鹽素,燐,硫黄を含む新有機殺虫剤が次々と發見され,まだまだ今後に意想外の強力な藥剤が見出されないとはいえない。しかし現在では,DDT,BHCは依然として衞生殺虫剤の中心をなすものであり,その長所短所を知つて,これを適切に應用することは,衞生害虫防除の上から甚だ重要なことであろう。 DDT,BHCは何れも白色結晶状の有機鹽素化合物であり,昆虫には喰毒と接觸毒の兩方の作用を持つている。その外BHCは蒸氣壓がかなり大きいため,呼吸毒としても作用するようである。
著者
久保 成子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.358-361, 1997-05-25

私の脳裏をかすめたこと 1996年12月,厚生省の「准看護婦問題調査検討会」が報告書をまとめた.発表された報告書には,将来的展望として「現行の准看護婦養成課程の内容を看護婦養成課程の内容に達するよう改善し,21世紀初頭の早い段階を目途に,看護婦養成制度の統合に努めることを提言する」とある.そのために,①地域医療の現場に混乱を生じさせないようにすることが不可欠であり,国において医療機関に看護職員を提供できる体制の整備に努めるべきこと,②現在就職している約40万人の准看護婦・士が看護婦・士の資格を取得するための方策を検討すべきこと,等々が提言されている. この①に関連して危惧される,過去に起こった出来ごとが私の脳裏をかすめた.それは,「副看護婦養成」の問題である.副看護婦の問題は昨1996年12月初旬(メディファクス2649,同2650号),日本医療労働組合連合会,東京地方医療労働組合連合会によってその存在が現在の看護関係者にも明らかにされつつあるが,乏しい資料注1)から私が知り得た養成の経緯について考えてみたい.
著者
大竹 安史 福田 衛 石田 裕樹 中村 博彦 花北 順哉 高橋 敏行 兼松 龍 南 学 妹尾 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1198-1210, 2021-11-10

Point・Anterior cervical foraminotomyは最小限の骨削除を行うことで固定を回避しつつ,神経根をピンポイントに除圧する術式である.・可能な限り支持組織を温存することと,最大限の神経除圧を行うことは相反する概念であり,これらのバランスをとるのに習熟を要する.・狭い術野で正確に神経根に至るためには,解剖学的知識,術中の良好なorientationが肝要である.
著者
斎藤 環
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.374-379, 2021-07-15

存在論的、郵便的 前回予告したように、今回は「否定神学」がなぜ批判され、衰退していったかについて検討してみたいと思います。 何度か触れてきたように、この衰退においてもっとも大きな影響をもたらしたのが、哲学者で批評家の東浩紀の存在でした。1998年、東は弱冠28歳でデビュー作『存在論的、郵便的』*1を出版します。本書のインパクトは非常に大きいものでした。私が知る限り、東より下の世代の思想家、批評家のほとんどが、心酔するにせよ反発するにせよ本書の大きな影響下にあります。
著者
飯高 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.737-742, 2012-07-01

はじめに 本総説では顔認知に関わる脳領域を,機能的磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging:fMRI)による脳賦活検査で調べた研究について述べる。fMRIは脳血流の変化をblood-oxygen-level-dependent(BOLD)コントラストとして計測し画像化する手法で,1990年にOgawaら1)が世界で最初に報告した技術である。この手法を用いた脳賦活検査により,脳機能を非侵襲的かつボクセル単位で計測することが可能になった。また,計測された脳画像を扱う解析ソフトウェアの技術的進歩も目覚ましいものがある。脳賦活検査の基本的手法は,認知的差分法(cognitive subtraction)といわれるものである。これはある精神状態とほかの精神状態でそれぞれ脳画像を取った場合,2枚の差分画像には2つの精神状態の差異が反映されているという理論である。この方法は神経細胞の応答を直接測定しているものではないが,非侵襲性という点において現在の神経科学領域では欠かせない実験方法となっている2)。 顔認知に関わる脳機能は,顔自体に対する反応,表情の認識に関わる反応,顔の動きに対する反応,顔の記憶や有名人顔に対する反応など広範囲にわたっている。最近では顔の印象や信頼できるかどうかなど,顔認知の社会的側面への興味も広がっている。研究対象となる脳領域も後頭葉,側頭葉,前頭葉,辺縁系などにわたっている。したがって,脳全体の活動を比較的自由に計測することができるfMRIは,このような研究目的には最適な手法といえる。本稿では顔に対する脳内の反応を,主に側頭葉外側面に位置する上側頭溝(superior temporal sulcus:STS)の活動として計測した研究について代表的なものを取り上げる。この領域は顔認知の中でも,視線の向きや表情の変化などに関係していることが知られている3)。またfMRIが普及する以前からサルの実験では,顔に対するSTS領域の神経応答が積極的に調べられていた4)。STSの働きを多面的に論じた総説では,この領域が運動知覚,言語処理,心の理論,聴覚視覚統合,顔認知のそれぞれに関係していると述べられている5)。STSを左右半球と前半・後半の4領域に分けて認知機能との関係を調べた結果では,左前半は言語処理に,左後半は顔認知と聴覚視覚統合に,右前半は言語処理に,右後半は顔認知と運動知覚にそれぞれ関係していた。 このようなSTSの多機能性は,STSと同時に活動が亢進する脳領域が広範囲にわたることと関連している5)。すなわち,STS後半部は同時に紡錘状回などの賦活を伴うことで顔認知処理を遂行し,一方MT/V5領域の活動を伴うことで運動知覚処理を遂行するということである。最近では心の理論に関わるミラー・ニューロン・システムへの情報入力が,STSを通じて行われていると考えられている6)。本総説ではSTSの機能を顔認知に限って論考し,STSの前部・後部による機能差についても検討する。本総説が医学,心理学,教育学など広い領域の読者において,顔認知研究に対する理解を深めることに役立てば幸いである。また本論文はメタ解析の手法を用いたものではなく,必ずしも該当するすべての研究報告を網羅してはいない。紡錘状回(fusiform face area:FFA)や扁桃体(amygdala)などの活動も顔認知には重要であるが本総説では触れないこととする。
著者
林 陸郎 廣瀬 規代美 奥村 亮子
出版者
医学書院
雑誌
看護管理 (ISSN:09171355)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.445-451, 2001-06
著者
長谷川 泉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.36-37, 1959-08-01

明治・大正・昭和の3代に大きな足跡を残した永井荷風の死は,その孤独の死にざまの故に世間を驚かせた.いや世間は驚かなかつたかもしれないが,注目はした.身内がひとりもいない死の床の戸外には,50人余のジヤーナリストがつめかけていた.これは荷風死後のある瞬間における,荷風家をめぐる現実の姿であつた.人つ子ひとりも通らないような山奥で,身もともわからない他殺死体が見つかつて,まずジヤーナリストがかけつけたといつた環境とは全く違うのである. 老残の荷風は,みとる人もなく,ひとりで死の床に横たわつていた.発見されたのは,通勤の老婆が翌朝出勤してからのことである.荷風は長く独身で,身辺に人を近づけなかつた.女には近づいたが,共に住まなかつた.女ばかりではない,荷風の嫌人癖は徹底していた.それが荷風の方針であつたから,死の床にだれひとりいなくても荷風はもつてひとり瞑することができたであろう,恐らくは,その生涯をかえりみて,死期の後悔もなかつたであろう.その方針を貫いただけである.死に伴う必然の肉体的苦痛はあつたかもしれないが,精神のいたみは全々無かつたであろう.荷風はそのように生き,そのような最後をも自ら読んでいたことであろう.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.862, 2002-09-10

昭和7年に発表された宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』は,主人公のグスコーブドリが,凶作を未然に防ぐために自らを犠牲にして火山を爆発させるという物語であるが,そこには,農民のために自己犠牲的な人生を生きた賢治自身の人生が投影されている.この作品は,火山局に勤める27歳の青年ブドリがさまざまな技術で農民の収穫を増やし,最後には自らの命を投げ出して冷害を防ぐという設定になっており,特に,両親を早く亡くして3歳年下の妹と二人だけが生き残る形にしていることには,農民を救う自らの晴れ姿を妹に見せたいという賢治の思いをうかがうことができる.賢治は,24歳で亡くなった2歳年下の妹トシのことを誰よりも愛していたのであり,グスコー・ブドリとネリという兄妹は,ミヤザワ・ケンジとトシという兄妹の相似形になっているのである.(ブドリとネリが10数年の別離の後に再会するという設定も,当時既に死の床にあった賢治の,10年前に亡くなったトシと来世で再会したいという願望の現れと見ることができる.)
著者
田村 謙太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.122-125, 2017-01-15

筆者は現在、都内の「外国人向け診療所」という変わった職場に勤務しています。 信州大学医学部を卒業後、横須賀米海軍基地でインターン研修を1年、その後、横須賀共済病院で初期研修を2年やりました。米国での臨床研修に興味があったので、その準備期間として外国人診療を続けられるという意味で、今の診療所に勤め始めました。腰かけのつもりが結局そのまま居続けてしまった、というのが正直なところです。 これから、「東京オリンピック」の開催などで、ますます外国人の患者さんを診察する機会も増えてくると思います。そこで今回は、英語が苦手な先生方に、外国人診療のコツをお伝えしたいと思います。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1200, 2006-12-10

1921年(大正10年),島崎藤村が49歳の時に発表した『ある女の生涯』は,その前年に東京の精神病院で死亡した長姉そのをモデルにした小説である.藤村の長姉は,統合失調症を思わせる病のために根岸病院に入院し,65歳で亡くなるのだが,『ある女の生涯』にはこの長姉が示したであろうさまざまな精神症状が描かれている.なかでも印象的なのは対話性幻聴を思わせる表現で,この作品には,主人公おげんの内面に関する次のような描写がみられる.「おげんの内部にいる二人の人がいつの間にか頭を持ち上げた.その二人の人が問答を始めた.一人が何か独語を言えば,今一人がそれに相槌を打った」. 藤村は対話性幻聴を思わせる会話を,おげんの内面に定位させる形で描いているのである.しかも,おげんの内部にいるという二人の間では,「熊吉はどうした.熊吉はいないか」「いる」「いや,いない」「いや,いる」とか,「しッー黙れ」「黙らん」「なぜ,黙らんか」「なぜでも,黙らん」といった,対立的・論争的な会話が交わされている.こうした対立性・論争性は対話性幻聴の特徴であって,そうした特徴を藤村は「同じ人が裂けて,闘おうとした」と表現しているが,『ある女の生涯』には,このほかにも対話性幻聴を思わせる次のような会話が描かれている.「俺はこんなところへ来るような病人とは違うぞい.どうして俺をこんなところへ入れたか」「さあ,俺にも分からん」(中略)「お玉はどうした」「あれは俺を欺して連れて来ておいて」「みんなで寄ってたかって俺を狂人にして,こんなところへ入れてしまった」.
著者
長谷川 泉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.30-31, 1957-12-01

昔は医師が特権階級であつた.社会的名声においても,また経済的な点からいつてもそうであつた.その頃は,医は仁術ですらあつた.だが,現在では医は算術といわれるくらい,せちがらい世の中に生きることを医師も余儀なくされている.目下保険診療の単価の値上,点数の改正をめぐつて,厚生省,日本医師会,被保険者の三つ巴の論議がかわされている.厚生省案と医師会案とが真向から対立して,その帰趨は軽々に結論を下せない実情にある.かつて自由診療であつた頃の医師はまさしく特権階級であつた.だが,保険診療になつて医師の特権的な位置はゆらいでいる. 現在の医業の実情はどうなつているのであろうか.そして医師の考えていることはどのような方向であるのか?——保険問題がやかましい折からそのような基本的な課題に答える便利な調査がある.それは東大社会学尾高邦雄教授と,統計数理研究所鈴木達三博士によつてまとめられた「医師 意見 調査 報告」である.以下このデータによつて注目すべき諸点を見てゆくことにしよう.(この調査の対象となつたのは昭和30年12月31日現在の東京都内在住の男子医師で,ランダム・サンプリングの方法によつて抽出された600名である.)
著者
山村 幸江
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.245-249, 2017-04-30

●目的 ・シェーグレン症候群の診断 ・耳下腺・顎下腺における導管系の形態評価 ●対象 唾液腺造影検査は耳下腺と顎下腺における導管系の形態評価が必要な病態,すなわち慢性炎症や唾石,シェーグレン症候群などが対象となる。唾液管開口部から逆行性に造影剤を注入するという侵襲的な検査でもあるため,CTやMR,超音波検査の普及につれて施行頻度は減少し,近年では主にシェーグレン症候群の診断目的に,手技の容易な耳下腺に対して行われる。急性炎症およびヨード過敏症では禁忌である。
著者
玉岡 晃
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.329, 2016-04-10

●神経内科の臨床に携わるすべての医師必読の書 2015年11月末に開催された第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元・名古屋大学教授)において,「症例から学ぶ」というユニークなセッション(座長:鈴木正彦・東京慈恵会医科大学准教授)に参加した.「神経内科診療のピットフォール:誤診症例から学ぶ」という副題がついており,春日井市総合保健医療センターの平山幹生先生(以下,著者)が演者であった. 臨床医学のみならず基礎医学にも通じた該博な知識の持ち主でいらっしゃる著者が,どのような症例提示をされるか,興味津々であったが,予想に違わず,その内容は大変示唆に富む教育的なものであった.自ら経験された診断エラーや診断遅延の症例を紹介し,その要因を分析し,対策についても述べられた.講演の最後に紹介されたのが,この『見逃し症例から学ぶ神経症状の“診”極めかた』であり,講演で提示された症例も含めた,教訓に富む症例の集大成らしい,ということで,早速入手し,じっくりと味わうように通読した.
著者
小柴 健
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1400-1401, 1978-10-10

曙光から現在まで 人間に対する腎移植の歴史は古く,当初は異種動物の腎を使用して行われた.1906年Jaboulayがブタとヤギの腎を尿毒症婦人の両腕に移植したのが最初であるが,これは失敗に終わっている.ついでUnger(1906),Schonstadt(1913)およびNeuhof(1923)がそれぞれサル,類人猿,ヒツジの腎を用いて尿毒症患者に異種移植を行っているが,いずれも効果的な移植腎機能を見ずに終わっている.こうした異種動物の腎を用いての移植はその後40年間記録されていないが,1963年になってから,Hitchcock,Reemtsma,Starzlらによって,ヒヒまたはチンパンジーの腎を用いて相ついで再開された,このときにはイムランやプレドニソロンを用いての免疫抑制療法がすでに開発されており,これら症例の多くに一時的にせよ良好な腎機能を認めたが,長期生着をみるには至らなかった.現在では,異種移植は腎移植の臨床の分野から姿を消したままになっている. ヒトの腎を用いての同種移植は,1936年にソ連のVoronoyによって初めて行われた.水銀中毒の26歳の婦人の大腿部に脳炎で死亡した患者からとった腎を移植し,尿分泌が得られたが,異型輸血のため48時間後に死亡したと報告されている.これは急性腎不全に対する同種腎移植の初例であるとともに死体腎移植の初例でもあった.
著者
中井 義勝 濱垣 誠司 高木 隆郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1297-1299, 1998-12-15

摂食障害は心身症の代表的疾患で種々の内分泌・代謝異常を来す。神経性無食欲症の血清総コレステロール値は幅広く分布し,高コレステロール血症は神経性無食欲症の33〜61.1%にみられる6〜9,12)。 神経性無食欲症は制限型とむちゃ食い/排出型に下位分類されるが,最近では神経性無食欲症の既往のない神経性大食症(以下BN)が増加している2)。BNの血清総コレステロール値についての報告は少ない9,13)。今回216名という多数のBN患者を対象に血清総コレステロール値を測定し,その結果を神経性無食欲症と比較したので報告する。