著者
図師 宣忠
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.74-109, 2012-01

異端審問の導入とフランス王権による統治の開始という新しい状況に直面する一三世紀の都市トゥールーズにおいて、「異端」はどのように扱われたのか。本稿では、一三世紀前半における異端審問官と都市民の間の「異端」問題をめぐる対立の事例、およびこうした過去の「異端」問題を理由に今度は国王役人によって財産没収の危機にさらされた都市民たちが国王に嘆願をなし、国王フィリップ三世の特許状を引き出したという一三世紀後半の事例を、文書利用という観点から検討していく。その結果、異端審問官が「異端」の追及・断罪のために残した判決記録が、のちに国王役人によって都市民を赦すための「証拠」として用いられていたという興味深い事実が明らかになった。異端審問官は「異端」追及の手段として、一方で王権も被治者の体系的な把捉のために、それぞれに効率的な文書利用を展開していくが、テクストの参照あるいは「証拠」としての記録の利用といった一三世紀における実践的な文書利用のあり方が、王権・異端審問と都市が取り結ぶ関係の一端を照らし出してくれるのである。