著者
花里 孝幸
出版者
国立環境研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

魚の放出する化学物質(カイロモン)のミジンコに及ぼす影響を調べた.ミジンコは魚の存在下で成熟サイズを小さくすることが知られており,これはミジンコにとって捕食される前に子供を生むチャンスを増すことになり,利益をもたらすものと考えられている.本研究ではサイズの異なる二種のダフニア[カブトミジンコ(体長0.6〜2.0mm),マギレミジンコ(体長0.4〜1.3mm)]を魚(ブルーギル)のカイロモンにさらし,生活史特性の変化を観察した.大型のカブトミジンコは成熟サイズを低下させなかったが産む仔虫サイズを低下させた.小さな仔虫の生産は次世代の個体群の成熟サイズの低下をきたす.一方,小型のマギレミジンコは成熟サイズを小さくしたが,仔虫サイズは低下させなかった.二種のミジンコの異なった反応は,無脊椎捕食者に対する仔虫の食われ易さの違いを反映した適応の結果と考えられる。また,フサカ幼虫の行動に及ぼす魚のカイロモンの影響の解析も行った.湖沼や海洋で多くの動物プランクトンが日周鉛直移動を行うことが知られている.昼は捕食者である魚を避けて暗い深層部に降り,夜暗くなってから餌の多い表層に上がるのである.最近になって,この鉛直移動がカイロモンによって誘導されることがわかってきた.本研究では,魚のいない池に生息し日周鉛直移動を行っていないフサカ幼虫と,魚(ブルーギル)の多い湖に生息し日周鉛直移動を行っているフカサ幼虫を用い,実験条件下でフサカの行動に及ぼすブルーギルのカイロモンの影響を調べた.湖のフサカでは魚のカイロモンによって日周鉛直移動が誘導されたが,池のフサカではそれがなかった.フサカの個体群によってカイロモンに対する反応が異なることが明らかになった.この違いには遺伝的な違いが反映したものと考えられる。
著者
渡辺 信 安野 正之 彼谷 邦光
出版者
国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

有毒アオコMicrocystisが細胞内に産生する毒素ミクロシスチンの湖沼生態系での挙動を野外調査及び実験によりあきらかにすることを目的に本研究を実施した。霞ヶ浦及び印旛沼においてアオコ細胞中の毒素ミクロシスチン量は74〜632μg・g^<-1>と変動し,湖沼水中には0〜0.33μg・L^<-1>の濃度で溶解し,動物プランクトンBosmina fatalisに6.3〜270μg・g^<-1>の濃度で蓄積していることがわかった。混合栄養を行う黄金色藻類Poterioochromonas malhamensisは有毒アオコを捕食すし,消化して増殖する。これは,長鞭毛によるアオコ細胞の捕獲-長鞭毛の収縮運動による鞭毛基部への移動-Feeding cupによる捕獲-食胞内への取り込みと消化,という過程でおこなわれる。消化されたアオコ細胞より放出されたミクロシスチンの殆どは分解されずの細胞外に放出される。湖沼水への毒素ミクロシスチンの溶存はアオコ細胞のバクテリアによる分解だけではないことが判明した。イ-ストエキスに含まれるL-リジンは1ppmの低濃度でもMicrocystisの細胞を溶解し,Microcystisのみに特異的に作用することが判明した。霞ヶ浦に溶存する遊離アミノ酸は平均して0.5ppmであるが,季節によってはMicrocystis細胞の溶解,ミクロシスチンの湖水への放出に関与している可能性が示唆された。タマミジンコMoina macrocopaに対する有毒アオコの影響を調べた結果,タマミジンコに致死影響を及ぼす毒成分はミクロシスチンではないが,ミクロシスチンの合成と密接に関連している物質であることが示唆された。一方,食用ガエルRana grylioのオタマジャクシは有毒アオコ及びそれが産生する毒素ミクロシスチンの影響を全くうけないこと,さらに有毒アオコを餌として,オタマジャクシはカエルまで生長すること,また,オタマジャクシは有毒アオコを非常によく摂取し、有毒アオコの水の華を減少させること,が判明した。
著者
福山 力 太田 幸雄 村野 健太郎 内山 政弘
出版者
国立環境研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究は平成5〜6年度の一般研究Bとして行われたものであるが、当初使用していた北海道上砂川町三井石炭鉱業南部立坑の閉鎖によりこれに代わる立坑を探す必要が生じ、平成6年11月岩手県釜石鉱山立坑の使用に関する了解が得られたものの、坑内整備と予備調査に平成7年3月までを要したため、予定期限の平成6年度末に研究を終了させることが不可能となった。しかし同年4月に第1回、10月に第2回の実験を行い、最初の目標に沿う成果が得られた。いずれの実験でも坑底から十数ないし数十mの高さで雲の発生が認められた。坑底で二酸化硫黄を約1l/分で放出し、雲底下の雲のない部分と立坑最上部の雲頂に相当する部分において、二酸化硫黄と硫酸塩粒子の濃度、さらに後者においては雲水中の硫黄含量も測定した。その結果、少なくとも雲底直下と直上では全硫黄量がほぼ保存されていること、二酸化硫黄は雲頂に至るまでにほとんどすべてが雲粒に取り込まれることがわかった。第2回の実験ではエレベータに搭載した二酸化硫黄計により、濃度の鉛直分布の測定に成功した。濃度分布は雲底を境界として減衰定数が異なる2つの指数関数で表現され、それぞれの値から雲底下における坑壁への拡散の効果と雲中での水滴への取り込みすなわちレインアウトの効果を評価することができた。後者に対応する減衰の半減期は80sで、二酸化硫黄は速いin-cloud過程により気相から失われることが明らかとなった。また、立坑最上部で熱線式水滴径測定装置により雲粒の粒径分布を観測したところ、基本的には9μm付近に極大をもつ一山型の分布であったが、間欠的に30μm近くに第二の極大が現れることが認められた。このような大粒径水滴の出現は熱線法とは独立にウォーターブルー法によっても確認された。この水滴の個数濃度は小さいが、雲水量には大きな寄与を持つので、降雨過程との関連も含めて今後の検討が必要である。
著者
江守 正多
出版者
国立環境研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

降水過程と陸面過程の相互作用の理解を目的として,領域大気モデルによる現実の降水イベントの再現実験を行なった.1998年7月23日の夕刻から深夜に東シベリアYakutsk付近のGAME-Siberiaタイガ班観測地点(Spaskaya-Pad)において観測された強い雷雨を例に取った.これは,例年に比較して少雨乾燥傾向にあったこの年の東シベリアの夏季において,この付近では最大の降水イベントであった.モデルは,CSU-RAMS(Pielke et al.1992)を適宜変更して用いた.初期値,境界値にはECMWF客観解析値を用いた.3重グリッドネスティングを用い,外側,中間,内側の領域をそれぞれ一辺2000km,420km,84kmの正方形とし,グリッドの解像度をそれぞれ50km,10km,2kmとした.第1,第2グリッドにはKuoタイプの積雲対流スキームと雲微物理スキームを併用し,個々の積雲を直接表現する第3グリッドには雲微物理スキームのみを用いた.陸面水文過程は差し当たって単純に湿潤度を一様の値に固定した.計算は7月21日00Zを初期値とし,84時間行なった.昨年度の成果では,23日朝の層状雲の通過に伴う霧雨は良く再現されたが,夕方からの雷雨は第1,第2グリッドではタイミングが早すぎ,第3グリッドでは全く再現されなかった.今年度は,第1,第2グリッドの積雲対流スキームをオフにし,かつ地表の湿潤度をさまざまに変化させた実験を行なった.この結果,第3グリッドで現実的なタイミングで雷雨を再現することに成功した.これにより,現在の積雲対流スキームに問題があり,早すぎる対流が夕方には大気を安定させてしまうことが示唆された.また,地表の湿潤度を変化させることにより雷雨の場所とタイミングが変化した.これにより,朝方に降った霧雨が地表を濡らした効果が,夕方の雷雨に影響を与えていることが示唆された.