- 著者
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江守 正多
- 出版者
- 国立環境研究所
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1998
降水過程と陸面過程の相互作用の理解を目的として,領域大気モデルによる現実の降水イベントの再現実験を行なった.1998年7月23日の夕刻から深夜に東シベリアYakutsk付近のGAME-Siberiaタイガ班観測地点(Spaskaya-Pad)において観測された強い雷雨を例に取った.これは,例年に比較して少雨乾燥傾向にあったこの年の東シベリアの夏季において,この付近では最大の降水イベントであった.モデルは,CSU-RAMS(Pielke et al.1992)を適宜変更して用いた.初期値,境界値にはECMWF客観解析値を用いた.3重グリッドネスティングを用い,外側,中間,内側の領域をそれぞれ一辺2000km,420km,84kmの正方形とし,グリッドの解像度をそれぞれ50km,10km,2kmとした.第1,第2グリッドにはKuoタイプの積雲対流スキームと雲微物理スキームを併用し,個々の積雲を直接表現する第3グリッドには雲微物理スキームのみを用いた.陸面水文過程は差し当たって単純に湿潤度を一様の値に固定した.計算は7月21日00Zを初期値とし,84時間行なった.昨年度の成果では,23日朝の層状雲の通過に伴う霧雨は良く再現されたが,夕方からの雷雨は第1,第2グリッドではタイミングが早すぎ,第3グリッドでは全く再現されなかった.今年度は,第1,第2グリッドの積雲対流スキームをオフにし,かつ地表の湿潤度をさまざまに変化させた実験を行なった.この結果,第3グリッドで現実的なタイミングで雷雨を再現することに成功した.これにより,現在の積雲対流スキームに問題があり,早すぎる対流が夕方には大気を安定させてしまうことが示唆された.また,地表の湿潤度を変化させることにより雷雨の場所とタイミングが変化した.これにより,朝方に降った霧雨が地表を濡らした効果が,夕方の雷雨に影響を与えていることが示唆された.