著者
川島 真
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.51-61, 2018-12-31 (Released:2020-02-01)

本稿は、公文書とアカウンタビリティについて、三つの論点を取り上げ、時間軸から考察した。第一に、公文書の作成・保存・公開というサイクルにおいて、特に作成段階での議論が十分でなく、作成者、つまり官僚の目線で議論しなければ、今後、合法的に公文書が多く残されないのではないかとの懸念を示した。第二に、外交文書には将来へのアカウンタビリティだけでなく、国家の構成員以外へのパブリック・ディプロマシーとしての要素があると指摘した。だからこそ、外交史料館には公文書館とは異なる機能があると言える。第三に、昨今東アジアでも採用されている移行期正義では公文書が事実認定上の重要な根拠とされるが、そこではかつての私文書が公文書とされるなど、文書の公私が時間軸で変化する可能性があることを示した。
著者
松尾 美里
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.26-56, 2013

<p>福島第一原発事故以来、さまざまな人々・組織が、さまざまな動機のもと大量の放射線測定データを採取・収集している。これらのデータは、科学的、医療的、歴史的な観点からして、極めて重要なデータであると言えるが、適切なアーカイブ化措置を欠くために、消失の危険にあるものも増えている。これをうけて、日本物理学会(JPS)と日本アーカイブズ学会(JSAS)は、国立国会図書館(NDL)の協力のもと、放射線測定データのアーカイブズ化を目指す試みに着手することとなった。しかし一方で、JSAS 内には、科学資料アーカイビングに精通したアーキビストが少ないという問題もある。小稿は、JSAS アーキビストが、上記試みに参画するきっかけの提供を意図して、科学資料アーカイビングに関する基本的な事項の紹介を行うものである。</p>
著者
木本 洋祐
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-50, 2012

<p>東日本大震災で被災・水損した陸前高田市の行政文書(公文書)の救済を支援するべく、神奈川県立公文書館は2011年10月から1年間、被災公文書レスキュー事業を展開した。緊急雇用基金からの予算を得てスタッフの雇用や資材の調達を行い、被災現地で初期対応が進む、永年保存文書を中心とした簿冊約1,200冊を神奈川県内の公文書館に移送して修復処置を施し、同市へ返却するものである。作業は、津波等で受けたダメージの状況確認や保存ニーズの把握から開始し、修復の目標を"行政実務の現場で「使える」文書としての機能回復"と設定した。重点的に実施すべき処置内容として①内容情報の保全、②長期保存を阻害する要因の除去・抑制、③利便性(利用・保管)の確保の3点を挙げて仕上がりのイメージを共有した。他機関等との連携を通して資料の保存修復を完成に近づける、一つの環を担う自覚を持って、限りあるリソース(人員、技術、時間等)の範囲で可能な段階的保存の実施を目指した。活動を通して出た課題についても触れる。</p>
著者
古賀 崇
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.96-101, 2013

「海外の日本図書館と日本研究」について幅広く実情を示しつつ、日本の関係者にとっての課題を論じた、2012年の著作に対する書評。評者は本書での記述・提言に「実感し、納得および首肯できる点は数多くある」と評価し、また「パブリック・ディプロマシー」など外交・情報・文化に関する政策につなげられる可能性を示唆した。加えて、アーカイブズやアーカイブズ学の観点からは、本書から何を読み取ることができるか、という点も記述した。
著者
冨善 一敏
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.52-69, 2014-05-31 (Released:2020-02-01)

本論文では、市制町村制下における村役場文書の引き継ぎについて検討し、東京府北多摩郡砂川村と、愛媛県東宇和郡魚成村の明治36年(1903)の引継目録の比較を行った。両者の共通点として、1)村長引継文書と収入役引継文書との区別が存在したこと、2)残存率は比較的高いが近世文書は少ないこと、相違点として、3)文書の保存年限制は砂川村では適用されなかったが、魚成村では適用されたこと、4)砂川村では引継目録の記載形式に村長交代が反映し、郡役所が強力な指導を行ったが、魚成村では郡役所の関与が少ないこと、5)砂川村では戸籍関係文書及び町村制施行以前の文書が引継目録に多数記載されているが、魚成村では少ないこと、の5点を指摘した。