著者
村田 浩平
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.105-113, 2009-09-25

水田内におけるヒメイトアメンボH.proceraの発生消長,捕食行動および餌動物の種構成に関する調査を実施し,以下のような結果を得た.1.野外における本種の捕食行動は,餌動物に近づき,口吻を伸ばして構えた後,餌動物の胸部側面に口吻を刺し体液を摂取するなど,室内においてこれまで観察されている捕食行動と同様であった.2.本調査により確認された餌動物は,セジロウンカ,ツマグロヨコバイ,ユスリカ科の1種,トビムシ目の1種など水田面にいる3目5科6種の昆虫と1科のクモであった.3.本種の水田内個体数が最も多くなる9月中旬の個体数のピークは,トビイロウンカの個体数のピークとよく一致し,トビムシ目やツマグロヨコバイの発生消長とも一致する傾向がみられた.また,6月の越冬後のピークはセジロウンカのピークと一致することがあり,これらの水田昆虫が水田面において本種の餌動物になっていることが示唆された.4.本種の卵巣は,田植直後の5月下旬には未熟であり,6月下旬までに成熟し,7月中旬まで成熟個体の割合が高いこと,その後は,10月にかけて卵巣発育個体の割合は低下し,卵巣の発育を休止して越冬する可能性が高いことが示唆された.5.本種の発育零点は14.0℃,発育有効積算温量は250日度であった.これらの結果から,本種は,水田面において多様な餌動物を捕食し,ウンカ・ヨコバイ類など水稲害虫を餌の1つとしていることが明らかになった.また,トビイロウンカやツマグロヨコバイが少なくなった9月以降,越冬までの間は,トビムシ目を餌の1つとしていることが示唆された.
著者
Aoki Shigeyuki Kurosu Utako Buranapanichpan Sawai BANZIGER Hans FUKATSU Takema
出版者
日本昆虫学会
雑誌
Entomological science (ISSN:13438786)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.55-61, 2002-03-25
被引用文献数
1

Multiple-cavity galls of a cerataphidine species were found on the evergreen Styrax benzoides in Chiang Mai, northern Thailand. Comparison of mitochondrial DNA sequences between aphids from the galls and aphids of Pseudoregma carolinensis from bamboo revealed that the gall-forming aphids are of P. carolinensis. The colony sizes of mature galls were comparatively small, up to approximately 1, 500 individuals. The galls contained many pseudoscorpion-like 2nd-instar soldiers, which attacked an experimentally introduced moth larva, and which were observed to push globules of honeydew out of the subgall. The life cycle (holocycle) is probably annual, with some aphids remaining on bamboo throughout the year. The gall and alate morph are described.
著者
Hashimoto Hiroshi
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.311-322, 1964-07-20

Thalassomyiaは雌雄ともに有翅の海棲ユスリカで, 1866年以来, ヨーロッパ, アフリカ, 南米のほか, ハワイ, ガラパゴス, マーケサス, サモア等の太平洋各地及び香港等から報告されたが, 本邦では1955年トカラ列島の中之島からThalassomyia japonicaが記載されるまで全く知られていなかつたものである.本属は歴史的に古いだけでなく, 近縁のTelmatogetonやParaclunioとともに海棲ユスリカとして重要な一群をなすが, 従来の研究は充分とは云いがたく, 日本産のものに関しても詳細な知見に欠けるところが多かつた.筆者は今回, 琉球列島の海棲昆虫調査にあたり, 八重山群島の石垣島でThalassomyia japonicaを多数採集し, 本種に関する多くの疑問点を明らかにすることができた.本論文では, 本種の形態的特質について多くの点を補足し, 細部にわたつて外国産の既知種との比較検討を行ない, 種の類縁関係を明らかにすることにつとめた.なお, 従来Thalassomyiaの習性に関しては末知な点が多かつたが, 筆者は本種について, 成虫の出現時間, 運動習性, 静止姿勢, 交尾, 産卵等を観察し, 多くの特性を明らかにした.特に本種での所見では, 少なくとも日本産のTelmatogeton2種と比較した場合, 習性の点でも大きな相異の認められたことは興味深い.