著者
谷川 亘 村山 雅史 井尻 暁 廣瀬 丈洋 浦本 豪一郎 星野 辰彦 田中 幸記 山本 裕二 濱田 洋平 岡﨑 啓史 徳山 英一
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-31, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
34

高知県須崎市野見湾では,白鳳地震によって水没した村『黒田郡』の伝承が語り継がれているが,その証拠は見つかっ ていない.そこで本研究では,野見湾内で海底調査を行い『黒田郡』の痕跡を探索した.その結果,海底遺構の目撃情報 がある戸島北東部の海底浅部(水深6m~7m)に,面積約0.09km2の沖側に緩やかに傾斜する平坦な台地を確認した. 台地表層は主に薄い砂で覆われており,沿岸に近づくにつれて円礫が多くなった.また,砂層の下位は硬い基盤岩と考え られ,海底台地は旧海食台(波食棚)と推定される.海水準変動と地震性地殻変動を踏まえると南海地震により海食台は 約7m 沈降したと推定できる.本調査では黒田郡の痕跡は発見できなかったが,水中遺跡研究に対する多角的な調査手 法を検討することができた.特に,インターフェロメトリソナーの後方散乱強度分布による底質観察とStructure from Motion(SfM)技術を用いた海底微地形の構築は,今後浅海における水中遺跡調査に活用できる.
著者
須賀 利雄 齊藤 寛子 遠山 勝也 渡邊 朝生
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.103-118, 2013 (Released:2020-02-12)
参考文献数
32

亜熱帯循環の通気密度躍層下部(σθ=26.3~26.6kg m-3)の等密度面が冬季にアウトクロップする亜寒帯前線帯では,主に移行領域モード水(TRMW ; S<34.0)が形成されることをArgo データの解析から示した.さらに,密度変化を補償し合う水温・塩分前線を横切る鉛直シアー流がソルトフィンガー型二重拡散対流を引き起こし,TRMW は形成後速やかに高温・高塩分化して,その一部が重い中央モード水(D-CMW ; S>34.0)に変質し得ることを示した.また,シノプティックなXCTD 断面の解析から,亜寒帯前線帯から沈み込んだTRMW やD-CMW などの低渦位水の一部は,中規模渦によって平均流を横切って南に運ばれた後に,亜熱帯循環の通気密度躍層内に広がっていることが示唆された.この輸送過程は,亜寒帯前線帯の深い冬季混合層と亜熱帯循環内に広がる等密度面上の低渦位舌が気候値の流線で直接結ばれていない理由を説明し,TRMW の変質過程とともに,亜寒帯前線帯起源の水塊が亜熱帯密度躍層の維持に寄与するメカニズムを担っている可能性がある.
著者
三島 康史 星加 章
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.145-150, 2002
被引用文献数
4

瀬戸内海(伊予灘,大阪湾)で採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値を測定した.特に,伊予灘で採取されたマダイ(Chrysophrys major)のδ^<13>C・δ^<15>N値からマダイの体内での炭素・窒素のターンオーバータイムを評価した.また,大阪湾および伊予灘で採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値から見た特徴について議論を行った.1995年9月11日に放流したマダイのδ^<13>C,δ^<15>N値が,放流後約1ヶ月間で天然魚とほぼ同じ値となった.これらの結果から,マダイの体内での炭素・窒素のターンオーバータイムは,1ヶ月以内であると推測された.大阪湾で採取されたカタクチイワシ(Engraulis japonica)とマイワシ(Sardinops melanosticta)のδ^<13>C・δ^<15>N値は(マイワシ:δ^<13>C=-15.8‰,δ^<15>N=13.8‰,カタクチイワシ:δ^<13>C=-15.9‰,δ^<15>N=13.7‰)それぞれほとんど同じ値であったことから,同じ栄養段階であることが予想された.今回採取された魚類のδ^<13>C,δ^<15>N値から,魚類の栄養段階を推測するにはいたらなかった.今後,植物プランクトンの増殖速度による効果,漁業生産に及ぼす炭素源としての海草類および海藻類の重要性等,検討を行う必要がある.
著者
堤 裕昭
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.165-174, 2012

有明海では1990年代後半より赤潮が頻発し,奥部海域では1998年より秋季~初冬に発生する赤潮が急に大規模化した.赤潮の頻発や大規模化は,海底への有機物負荷量の大幅な増大につながり,夏季の貧酸素水発生の主要な原因となる.そこで,有明海奥部における赤潮の発生のメカニズムと原因について,近年の水質,潮流,海底環境などに関する調査・研究の成果をレビューした.赤潮の頻発や大規模化は,陸域からの栄養塩負荷量の増加を伴わない条件下で起きていた.実際には,塩分成層が形成された時に,低塩分・高栄養塩濃度化した表層で赤潮が発生していた.したがって,赤潮の頻発や大規模化は,塩分成層が形成される頻度や継続期間に依存すると考えられる.塩分成層が形成されやすくなる原因としては,潮汐振幅の減少を通したことによる水柱の鉛直混合エネルギーの減少では説明がむずかしく,むしろ潮流自体の変化によって生じた可能性が指摘される.
著者
清野 聡子 宇多 高明
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.117-124, 2002
被引用文献数
2

現在,「環境修復」や「環境復元」が注目され,沿岸域についても人工干潟や藻場の造成なども行われている.本研究では,大分県の守江湾を対象として絶滅危惧生物カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の生息と守江湾の環境変遷の関係について考察し,生息場の修復のためのミティゲーションについて述べた.干潟の環境調査では,一般に干潟が空間的に広くしかも干潮時にのみ出現するために網羅的調査には限界がある.このことから,空中写真を利用した効果的な環境調査法を開発した.空中写真により干潟の微地形分類を精度よく行うことができた.また洪水が干潟に及ぼすインパクトを調べるために,洪水前後に詳細測量を行って干潟の地形変化量を把握し,それと生物の生息条件の関係について調べた.守江湾への流入河川である八坂川では,2000年に河口から2~4km区間に残されていた感潮域蛇行部の捷水路事業が行われたが,河川改修による下流への影響として洪水時の流速の増大が見込まれ,それに起因して河口部のカブトガニ産卵地砂州の流出可能性が指摘された.そこで産卵地の代替適地を選定し養浜を行った.環境対策のために,他の流域や沿岸からの土砂の使用を極力避けるという思想のもと,養浜材料には近傍の河道掘削土砂を活用した.
著者
梅澤 有 福田 秀樹 小針 統
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.3-10, 2017 (Released:2020-02-12)
参考文献数
17

地方の都道府県に立地する大学の多くは,18歳人口の減少と大学進学率の停滞によって,地元からの大学進学者の割合が低下し,大都市圏から多くの学生が集まるようになっている.学生は卒業後に出身地に戻って就職をすることも多いため,今後も続くこの傾向は,地方大学の人材育成方針にも影響を与えうる.一方で,卒業生が,水産・海洋系の専門を活かして,大学院への進学や,公的機関に就職するだけでなく,多様な民間企業へと就職していく現在,専門に特化した教育だけでなく,応用力,問題解決能力,語学を含むコミュニケーション能力等を持ち,多方面で活躍できる人材の育成が一つの鍵となっている.アクティブラーニングの活用,地域だけに特化しない総合的な水産・海洋教育,大学間連携と いった大学教育に加えて,地域の小学生から社会人を対象とした教育活動など,広範な視野をもった教育が,今後の水 産・海洋分野の発展には必要と考えられる.