著者
清松 敏雄
出版者
日本経営分析学会
雑誌
年報経営分析研究 (ISSN:09110747)
巻号頁・発行日
no.28, pp.13-20, 2012-03-31

本稿では,新規株式公開前の利益調整行動について,上場審査基準に着目した実証分析を行った。具体的には,サンプルとして近年ジャスダック証券取引所に上場した企業を用い,利益調整前の利益が上場審査基準を満たしているかどうかによってサンプルを分類した上で,それぞれのポートフォリオのサンプルの裁量的発生高の平均の差の検定等を行った。この際,本稿では,証券取引所の上場審査基準として明文化されている内容に加え,明文化はなされていないものの,上場前において経常増益という事実上上場審査基準と同様に要求される事項も考慮に入れている。分析の結果,利益調整前の利益が上場審査基準を満たしていない企業が,明示的な上場審査基準を満たすため,あるいは黙示的な上場審査基準を満たすために上場直前期に利益増加型の利益調整行動を行っている可能性があるとの示唆を得た。
著者
杉浦 慶一
出版者
日本経営分析学会
雑誌
年報経営分析研究 (ISSN:09110747)
巻号頁・発行日
no.29, pp.58-69, 2013-03-31

2000年代後半より,日本の上場企業がメザニン・ファンドより資金調達を行うケースが登場した。企業の資金調達におけるメザニン・ファイナンスの認知度はまだ低いが,新たな資金調達手法として注目される。本論文では,メザニン・ファイナンスの特徴について述べた上で,その活用事例を取り上げて,案件の背景,資金調達のスキーム,資金使途,業績の推移,優先株式の償還の状況について分析し,メザニン・ファイナンスが果たした役割について明らかにした。具体的には,上場企業がメザニン・ファンドから資金調達を行った事例(東日本ハウス,ウェストホールディングス,イー・アクセス,日本板硝子,ラック)を分析の対象とし,調達した資金が借入金返済に充当されるケースと,設備投資などの成長投資に充当されるケースがある点を明らかにした。分析を行った事例は,一時的に財務体質が悪化しても,EBITDAは堅調に推移しており,順調に償還が進んでいる。普通株式への転換請求権が付されている案件でも,権利が行使されて普通株式の希薄化か生じた案件は皆無であることから,いずれもメザニン・ファイナンスの成功事例だと位置付けられる。
著者
壷井 彬 高橋 正子
出版者
日本経営分析学会
雑誌
年報経営分析研究 (ISSN:09110747)
巻号頁・発行日
no.28, pp.70-82, 2012-03-31
被引用文献数
1

企業の環境経営活動に対する定量的研究は,とくに内部管理活動の分野において発達した。一方で,企業の開示情報を外部から分析・評価するという立場からの定量的な環境経営分析は必ずしも進んでいるとは言えない。本研究では,環境会計情報を有効に活用して企業の環境活動を分析する方法を提案する。特に事業エリア内の活動について,環境会計情報として開示される投資額とその効果の分析方法を研究対象とする。環境保全効果を貨幣尺度で認識し,過去の環境保全コストと環境負荷物質排出量データの蓄積を利用することで,企業ごとの環境保全活動の進捗状況を表す「環境経営ステージ」を考慮した新たな分析モデルを提案し,検証する。これにより,環境会計情報を基軸とした各社の環境経営の分析を,より現実に即した,個別の状況を反映した形で行えるようになる。
著者
平岡 秀福
出版者
日本経営分析学会
雑誌
年報経営分析研究 (ISSN:09110747)
巻号頁・発行日
no.25, pp.48-54, 2009-03-31

「マネジメント・アプローチ」とは,経営意思決定と業績評価のため,内部的に経営者がセグメントを組織化する方法に基づいて外部報告するアプローチである(Epstein et al.〔2006,p.973〕)。本稿は,2011年3月期決算から日本企業にも開示が義務づけられる「マネジメント・アプローチ」に基づくセグメント情報を公開している日米の典型的な多角化企業2社の実例を通して,セグメント情報のあり方を考察した。また,日本企業の実例については,有価証券報告書と英文アニュアル・レポートの事業セグメント情報を活用し,事業評価の分析がどこまで可能かを試みることで,日本企業のマネジメント・アプローチの導入に先立ち参考にすべき開示情報のあり方と分析のための諸指標を明らかにした。