著者
森田 明雄 一家 崇志 國弘 彩 鈴木 利和 大石 哲也 小林 栄人 中村 順行
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
no.111, pp.63-72, 2011-06

日本で栽培されている4つの白葉茶('星野緑,きら香'の2品種と'諸子沢,やまぶき'の2系統)の一番茶新芽の葉色値,遊離アミノ酸,カテキン類,カフェイン,有機酸および無機元素含量を,緑葉品種である'やぶきた'と比較した。その結果,葉色値は'やぶきた.の32.7に対して,白葉茶が0.6~8.1と非常に低い値を示した。遊離アミノ酸含量は,4つの白葉茶とも'やぶきた'に比べ1.8倍以上と高い値を示した。カテキン類含量は,'諸子沢,星野緑,きら香'が'やぶきた'の約3/4と低かったが,'やまぶき'はほぼ同程度であった。その他の成分では,シュウ酸とクエン酸,硝酸イオン,アルミニウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム並びにマンガンの含量がいずれの白葉茶においても'やぶきた'より高い値を示した。これらのことから,供試した4つの白葉茶品種・系統は'やぶきた' と比べて,非常に高い遊離アミノ酸含量を有する特性を持つことが明らかとなった。また,いくつかの有機酸,無機元素含量が高いなど特異な化学成分組成を有している可能性が示唆された。
著者
野中 邦彦 廣野 祐平
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
no.112, pp.55-59, 2011-12
被引用文献数
1

東京電力福島第一原発事故発生後の2011年産一番茶において,平常値より高い濃度の放射性セシウム(以下,RCs) が検出された。当初,生葉に対して食品衛生法の観点からRCsの暫定規制値500Bq/kgが適用され,その後,荒茶および仕上げ茶に対しでも同じ500Bq/kgが適用されることになり,出荷停止となった地域が相次いだ。試験研究機関は,茶のRCs低減に向けた一刻も早い技術開発が求められている。 その技術開発の基礎となるのは, RCsがと守のような経路で新芽に取り込まれたかを明らかにすることである。これまで,多くの農作物においてRCsの移行係数が示されてはいるが,茶についての報告は見当たらない。RCsは土壌に固定されやすいため,農作物への移行は少ないとされているとはいえ,酸性土壌で栽培された作物への移行係数が1を超える例も報告されており,強酸性土壌の多い茶屈では移行係数を確認しておく必要がある。そこで,ニ番茶生育期において,土壌や成葉からのセシウムの吸収と新芽への移行を解明する自的で,セシウムを施用するトレーサー実験を行った。なお, RCsがすでに茶樹に取り込まれた状態では新たに土壌から吸収されたものを見分けることができないので,実験には安定セシウムを用いた。
著者
内村 浩二 勝田 雅人 三浦 伸之
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.103, pp.51-60, 2007

(1) 茶葉中無機元素含量は,一心三葉の分析ではMg,BaおよびCu含量に,荒茶の分析ではBaに品種間差が認められた。<BR>(2)荒茶中の12元素(K,Ca,Mg,Al,B,Ba,Cu,Fe,Mn,Ni,Sr,Zn)を用いた主成分分析結果から,第1主成分で因子負荷量が高い値を示したBa,Ca,Srはシラスとそれ以外の土壌を,第2主成分で因子負荷量が高い値を示したAlとMnは火山灰と安山岩あるいは花崗岩を概ね分類する傾向にあった。<BR>(3) 判別分析の結果,土壌の母材ごとの4群の産地判別には,Ba,Mn,K,B,Sr,Znの6元素が有効であった。得られた判別式の信頼性をモデルに用いなかった26点の荒茶試料で検定した結果,73%の判別適中率であった。<BR>(4) 火山灰とその他の土壌の2群の産地判別には,Mn,Ba,K,Ni,Znの5元素が有効で,その判別適中率は80%であった。
著者
白木 与志也 武田 甲 岡本 保 北 宜裕
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 = Tea research journal (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
no.115, pp.21-25, 2013-06

神奈川県の「足柄茶」は,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う福島第1原子力発電所事故により放出された放射性セシウム(Cs)に汚染され,2011年5月に摘採された一番茶の生葉から当時の暫定規制値(500Bq/kg)を超える放射性Csが検出された。この規制値は荒茶などにも適用されたため,本県産の一番茶の大部分が出荷停止となり,生産者には大きな損害を与えることとなった。このような中で,筆者らはこれまでに,放射性Csは,茶の古葉及び枝に多く含まれていることや茶樹の放射性Csの低減については,古葉及び校を除去するせん枝が効果的であることを明らかにした。これらの知見をもとに,県内では生産者によるせん枝が実施された結果,2012年5月に摘採された一番茶では,放射性Cs濃度が飲用茶の基準値(10Bq/kg)以下となり,市場出荷が可能となった。ところで,日本における放射性物質に汚染された茶に関する研究は,1950~60年代に数例,今回の福島第1原発事故に関連した研究が数例ある他はほとんどなく,放射性Csの低減については,せん枝以外の報告はない。このような中で,放射性Cs濃度の高い部分を洗浄することにより,樹体の放射性Cs濃度を低減できる可能性が考えられ,モモでは樹皮洗浄による放射性物質の低減効果が確認されている。また,過去に日本で行われた研究では,茶葉の溶液浸漬による放射性物質の洗浄効果が確認されている。こうしたことから,本研究では,茶樹の高圧洗浄及び枝の酸・アルカリ溶液処理による放射性Cs濃度の低減を試みたので報告する。
著者
谷口 知博 槐島 芳徳 松尾 啓史 藤田 進 龍野 利宏
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
no.113, pp.81-91, 2012-06

釜炒り茶と煎茶の荒茶カテキンおよびカフェイン含有量に差がなかったが,浸出液では総じて釜炒り茶が煎茶より低く,例えば1~3煎の合計でみた場合カテキンは約30%,カフェインは約20%煎茶に比べ少なかった。煎茶は,浸出条件が異なった場合でも実験区間のカテキンおよびカフェイン含有量に差がみられなかったが,釜炒り茶は浸出時間や60℃~100℃の浸出温度,浸出回数でカテキンおよびカフェイン含有量に差がみられ,粗揉,中揉を加えずに製造された釜炒り茶が最も少ない結果となった。これは,釜炒り茶の内容成分は煎茶よりも溶出しにくく,その理由は茶葉に対し釜炒り茶の製茶工程では煎茶ほど揉圧が加わらないからであり,釜炒り茶の中でも揉圧を加える工程が最も少ない粗揉,中揉を加えずに製造された釜炒り茶でカテキンおよびカフェイン含有量が少ない結果になったことから,茶葉へ揉圧を加える時間の長さがカテキン類およびカフェインの溶出割合へ影響していると考えられる。
著者
吉留 浩 佐藤 健一郎 長友 博文 水田 隆史 佐藤 邦彦 古野 鶴吉 上野 貞一 平川 今夫 安部 二生
出版者
日本茶業技術協会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
no.111, pp.1-13, 2011-06

'はるのなごり'は,1986年に宮崎県総合農業試験場茶業支場において埼玉1号'を種子親,'宮崎8号'を花粉親として交配した中から選抜し,2008年に品種登録出願し,公表されたやや晩生の煎茶用品種である。1998年から2006年まで'宮崎25号'の系統名で16場所で系適試験.2場所で特性検定試験(もち病,裂傷型凍害)が実施された。その結果,炭疽病及び輪斑病に抵抗性を有し,晩生で収量及び品質が優れることから普及に移し得ると判断され,2008年10月20日に種苗法に基づく品種登録出願を行い,同年12月19日に公表された。'はるのなごり'の特性の概要は次のとおりである。1)一番茶の萌芽期は,'やぶきた'より4日程度,摘採期は3日程度遅いやや晩生品種である。2)樹姿はやや開張型,樹勢はやや強,株張りは'やぶきた'より大きい。3)耐病性は,炭疽病には強,輸斑病にはやや強,もち病には中である。4)クワシロカイガラムシに対する抵抗性は中で,'やぶきた,かなやみどり'より優れる。5)耐寒性は,赤枯れにはやや強,裂傷型凍害にはやや弱~中である。6)収量は'やぶきた'より多い。7)煎茶品質は,'やぶきた'と同程度で,'かなやみどり'より色沢,香気が優れている。